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鬼火  作者: あ行
9/13

9子守唄

 奇物と童。ベンチにもたれ掛かり、電車を待っていた。

 奇物が手のひらで火玉を出し、弄んでいる。手首を上下しながら、転がしたり丸めたり。じっと見つめる。火は淡く燃えていた。奇物の目に映る。

 童も真似してみる。違う方向へ行ったり、途中で途切れたりして上手くできない。

「ふっ、」

 横から失笑が聞こえる。

「俺の真似をしておるのか。百年、いや千年早いわ。」

「千年やり続けてたら、奇物さんみたいになれる?」

 ピタッと奇物の手が止まる。

「ふっ、ははは。」

 笑っている。

「奇物さんが笑っているところ、初めて見た。」

 奇物が笑っているところは数々あったが、童の言う笑いは純粋な笑いなのだろう。

「……。」

 途端に静かになる。頬に手を挟む。

――――――――――

「鬼がおらんかったら、俺はまだ幸せやったんかなぁ。」

 独り言。

 童を見る。両手で両耳を塞いでいた。

「何をしておる。」

 呆れたような顔。

「聞いちゃだめだと思って。」

「もういい。聞いて良いぞ。前の花の時も、聞こえていたのだろう。」

 ふっと諦めた笑いをした。

「うん……。」

「やっぱりな。」

 赤い目が上を向く。

「あの事まだ覚えいたのか。」

「うん。」

 奇物さんが眉をひそめる。

「忘れろと言っただろう。」

「ごめんなさい。」

 童が落ち込んでいる。

「冗談だ。」

 薄く笑った。

――――――――――――

「〜♩」

 懐かしい唄だ。頬に水が落ちて垂れていく。くすぐったい。雨の音。雨が降っているのか。

 薄い光が眼に入ってくる。目を開く。

「!」

 目に入ってきたのは童だった。膝枕されていた。

「あぁ、そうか。眠ってしまったのか。」

 顔に手を当てる。横目で童を見る。

「その唄、どこで覚えた。」

「? 奇物さんが唄ってたから。」 

 時が止まったように驚いた顔。

「いつの間に口ずさんでいた。分からなかった。」

 また、手を頬に挟んでむにっとする。

 雨が空中で止まった。奇物が手に水をかざす。よく見ると、水滴一つ一つがゆっくり下に落ちて行く。

「鬼が……近くにいるのか。」

「おに?」

「そうだ、」

 奇物が懐かしむような顔をする。

「かつて俺の親友だ。雨が止っているのはあいつの能力だ。」

 ぎゅっとかざしていた手を握る。指の間から水が出る。飛び出た水はまたゆっくり落ちていく。

「隠していてもしょうがないからな。どうせ皆死ぬ。いつかは忘れる。」

 童が奇物の袖を掴む。

「俺は、奇物さんのこと忘れない。」

 何言ってんだこいつ。俺は散々酷い事をしたのに忘れない、と。

「三途の川で迷っていても?俺を覚えてくれるのか?」

 奇物さんは優しい目だなぁ。

「うん。覚えてるよ。」

「そうか。」

 掴んでいた手を離される。代わりに手を童の頭に置いてくれた。

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