8火花
一面の花畑。
花の水平線を無言で歩いていた。皮肉にも奇物と花の雰囲気が合っていた。
奇物が急にピタッとその場に止まる。童は奇物の背中に当たってしまった。眉をひそめる。見ると、奇物は拳を握り震えている。
「…花など……花があるから……こうなってしまった!」
熱い。一気に花々が燃えた。肌が露出してるところだけが熱かった。
「……あぁ。」
奇物は膝から落ちた。苦しそうだ。
「……間違った…。」
手で顔を覆う。悲しい目で童を見た。
「子供よ。花に触れてごらん。」
混乱する。予想していた言葉とは違う言葉が返ってきた。言われるがまま花に触れてみる。
「……、熱くない。」
花は春のように暖かかった。炎をまとっているのにすぐに灰とならない。
「あったかいだろう?」
暖かい目で春のような日差しで見つめられる。見惚れた。
「花はすきか?」
言葉では表せられない、何か物語っているような目。どのような返答を期待されているのか分からない。
「ぇ……っと。」
お互いに見つめ合う。火の燃えている音がパチパチと耳元でする。
「……。あ゙ぁ、何してるんやろ。頭のねじ外れてたわ。」
いつもと違う口調だ。
こたえられなかった。
奇物は膝を支えにして立ち上がる。すると、体が引っ張られる。
「何だ……。童、何がしたい。」
冷たい目に変わった。見下ろされている。
「まだここにいたい。」
呆気に取られた顔された。
「あと少しだけな。」
奇物さんが隣に座る。微かに藤の匂いがした。
奇物さんのことだから、無視されるか冷たいことを言われるのかと思った。
「童、今日あったことは忘れろ。」
「え、けど、」
いきなり肩を寄せられる。奇物さんの大きい手が腕に触れた。しっかり掴まれる。服の布が皺を寄せる。
「あ、」
大きな火種が童の元いた場所に飛び散る。守ってくれたんだ。嬉しい。
「ありがとう。」
奇物さんに切ない顔をされた。奇物の目線が違う方向へ向く。
「…間違えた、」
掴まれていた手がぱっと離れる。そっぽ向かれた。
「また…間違えた。昔の癖が、治っとらんのか……。」
ぼそっと言っているけど筒抜けで聞こえてくる。燃えて音を立てている花と一緒に。
奇物が花の方へ向く。眼の奥まで辺りの景色を映している。真っ赤な炎で。
奇物さんがこっちを向く。心臓が跳ね上がる。
「そんな、そんな顔で見るな。」
上目遣いで言われる。
「っ、ごめん。もう見ない。この顔が嫌いならやめる。」
ふぅ、っとため息をつく。
「んぐ?!」
奇物さんが口を押さえてきた。勢い余ったから地面に尻餅した。手に砂がつく。焦る。
「き、きものさん……?」
手から声の振動が伝わってくる。段々と押さえられていた手が緩んでいく。
「二度と、二度と俺の前でため息を吐くな。次は、灰になってもらう。いいな?」
怒っている。今にも泣き出しそうだ。
「…………。」
童は黙ったまま俯いている。
「童?」
「奇物さんなんか、……」
童がこちらを向く。嫌な予感がする。
「大っ嫌いだ……!」
空気が一変する。
「ど、どうした。急に。だ、」
大丈夫か。と優しい声を出すところだった。いつからこんな童に情が湧くようになった。
「お前がそう思うなら、そう思っても良い。」
二人は体勢を整える。
一息吸う。
「しかし……その、」
少しの間。
「もう、嫌い……とか。本気で言うな。」
目を逸らす。
「傷つく……。」
「俺、奇物さんに嫌いなんか言ってない。」
奇物が大きく目を見開く。しかし次は顎に手を乗せ考える。
「……。そうか、気づかなかった。一瞬の神隠しか。いらん事を言ったな。」
一人で小言を言っている。必死で気づかなかった。