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鬼火  作者: あ行
8/13

8火花

 一面の花畑。

 花の水平線を無言で歩いていた。皮肉にも奇物と花の雰囲気が合っていた。

 奇物が急にピタッとその場に止まる。童は奇物の背中に当たってしまった。眉をひそめる。見ると、奇物は拳を握り震えている。

「…花など……花があるから……こうなってしまった!」

 熱い。一気に花々が燃えた。肌が露出してるところだけが熱かった。

「……あぁ。」

 奇物は膝から落ちた。苦しそうだ。

「……間違った…。」

 手で顔を覆う。悲しい目で童を見た。

「子供よ。花に触れてごらん。」

 混乱する。予想していた言葉とは違う言葉が返ってきた。言われるがまま花に触れてみる。

「……、熱くない。」 

 花は春のように暖かかった。炎をまとっているのにすぐに灰とならない。

「あったかいだろう?」

 暖かい目で春のような日差しで見つめられる。見惚れた。

「花はすきか?」

 言葉では表せられない、何か物語っているような目。どのような返答を期待されているのか分からない。

「ぇ……っと。」



 お互いに見つめ合う。火の燃えている音がパチパチと耳元でする。


「……。あ゙ぁ、何してるんやろ。頭()ねじ外れてたわ。」

 いつもと違う口調だ。

 こたえられなかった。

 奇物は膝を支えにして立ち上がる。すると、体が引っ張られる。

「何だ……。童、何がしたい。」

 冷たい目に変わった。見下ろされている。

「まだここにいたい。」

 呆気に取られた顔された。

「あと少しだけな。」

 奇物さんが隣に座る。微かに藤の匂いがした。

 奇物さんのことだから、無視されるか冷たいことを言われるのかと思った。

「童、今日あったことは忘れろ。」

「え、けど、」

 いきなり肩を寄せられる。奇物さんの大きい手が腕に触れた。しっかり掴まれる。服の布が皺を寄せる。

「あ、」

 大きな火種が童の元いた場所に飛び散る。守ってくれたんだ。嬉しい。

「ありがとう。」

 奇物さんに切ない顔をされた。奇物の目線が違う方向へ向く。

「…間違えた、」

 掴まれていた手がぱっと離れる。そっぽ向かれた。

「また…間違えた。昔の癖が、治っとらんのか……。」

 ぼそっと言っているけど筒抜けで聞こえてくる。燃えて音を立てている花と一緒に。

 奇物が花の方へ向く。眼の奥まで辺りの景色を映している。真っ赤な炎で。

 奇物さんがこっちを向く。心臓が跳ね上がる。

「そんな、そんな顔で見るな。」

 上目遣いで言われる。

「っ、ごめん。もう見ない。この顔が嫌いならやめる。」

 ふぅ、っとため息をつく。

「んぐ?!」

 奇物さんが口を押さえてきた。勢い余ったから地面に尻餅した。手に砂がつく。焦る。

「き、きものさん……?」

 手から声の振動が伝わってくる。段々と押さえられていた手が緩んでいく。

「二度と、二度と俺の前でため息を吐くな。次は、灰になってもらう。いいな?」

 怒っている。今にも泣き出しそうだ。

「…………。」

 童は黙ったまま俯いている。

「童?」

「奇物さんなんか、……」

 童がこちらを向く。嫌な予感がする。

「大っ嫌いだ……!」

 空気が一変する。

「ど、どうした。急に。だ、」

 大丈夫か。と優しい声を出すところだった。いつからこんな童に情が湧くようになった。

「お前がそう思うなら、そう思っても良い。」

 二人は体勢を整える。

 一息吸う。

「しかし……その、」

 

少しの間。


「もう、嫌い……とか。本気で言うな。」

目を逸らす。

「傷つく……。」


「俺、奇物さんに嫌いなんか言ってない。」

 奇物が大きく目を見開く。しかし次は顎に手を乗せ考える。

「……。そうか、気づかなかった。一瞬の神隠しか。いらん事を言ったな。」

 一人で小言を言っている。必死で気づかなかった。

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