4盗み
がやがや
人混み。まだ夜なのにここは栄えている。奇物とその後ろに童が歩いている。奇物の横を誰かが通り過ぎる。その一瞬、奇物は手慣れた手付きで財布を盗んだ。
「〜♩」
奇物は上機嫌だ。鼻唄を唄う。誰かが奇物の腕を掴む。振り向く。奇物と童、誰かをのけるようにして、人々が過ぎ去って行く。
「あの、」
清楚な青年だ。こちらを睨んできおる。
「なんだ。」
青年を見下す。見下ろしているだけなのに迫力が凄い。しかし、青年は物怖じせず、
「さっき、俺、見てました。あんたが財布を盗む所を。」
「ん〜。俺はなんも盗んどらん。ほら。」
手を広げ何も盗んで無いと主張する。
「それに俺が仮に盗んでいたとしても、持ち主はもう此処にはいない。」
地面を指差す。
「いえ、あんたは盗んでました。この目ではっきりと見ました。」
真っ直ぐな目で見る。
(今どき、こんな真面目がいるのかぁ。せいぜい生きるのに苦労するだろうなぁ。)
薄く笑う。
童がさらに奇物の横に立った。
「ほぉら、俺だって息子もいる立派な父さんだ。な。」
童の方に作り笑顔で微笑みかける。
「うん。」
童は奇物の腕を掴む。
「むむ。」
青年は何も言えない。親がこんなことするわけない。青年にとっての親の像と言うものは平和だ。顔をしかめる。
その時、
ぐおぉぉぉ……!
地面が揺れる。数間先に巨大な怪物が叫んでいる。
「!? なんだ、あれ…。」
青年は驚く。瞳が中心に凝縮する。見たことのない生き物だ。いや、生きているのか?そうだ。あの親子は?こんな事考えている暇は、
親子の方へ勢いよく振り向く。いない。見当たらない。
「……どこに行ったんだ…。」
―――――――――――
「ははは。天晴れ天晴れ。」
喉が渇きそうな乾いた笑い声。奇物と童は青年の目を盗み、薄暗い路地に移動していた。童に目を移す。
「良ぉやったなぁ。褒めてやろう。」
ニチャっと笑いかける。童は奇物の音は聞いているが、何も言わない。ただ幼い顔をしている。
「〜♩」
奇物はまたあの懐かしい唄を、鼻から唄う。そして、あの者の方へ向かって行った。