3豆
「酒一つ。」
ほっそい人差し指を店員に向ける。隣に童もちょこんと座っている。照明代わりの提灯が照ってた。
身体から謎の液体を出している奴や、包帯だらけの奴、骨だけの奴など多種多様な客が、馬鹿みたいに騒いで呑んでいる。
奇物の目の前に酒とそのセットでついてくる煮豆ときゅうりの漬物が置かれた。奇物は顔をしかめる。
「豆だぁ?俺は鬼だぞ?誰だこんなやつ出したやつは。」
奇物は煮豆が付いてくるとは知らなかったようだ。煮豆だけぐいっと奥に押す。皿と木製の机が擦れる音がした。
日本酒を手に取り、口に注ぐ。どこか遠くを見ている。柘榴よりも赤い眼がより深くなっていく。何か考えているようだ。
一方、童は奇物の顔を伺って、奇物がいらないと言った煮豆を自分の方へ寄せる。もう一度奇物を見る。奇物はそこに童が存在しないかのように、何も無い所を見つめている。手掴みで豆をとり頬張る。美味しかったのだろう。小さな口に次々と放り込む。
童がお腹いっぱいで眠たくなったのか、枕代わりに、あぐらをかいている奇物の膝に頭を乗せる。
「重い、やめろ。」
奇物が童の頭を雑に掴んで、ぐいっと押しのける。そうされたのにも関わらず、童はもう一度頭を乗せる。
「……。」
奇物は不服そうな顔をする。童は膝の中で小さい息をたてながら寝ている。無視した。こんな奴ほっとけば良い。
――――
「さてと、もう出るか。」
手を杖代わりにして立つ。童が膝で寝ていたのでゴンと勢いよく床に当たる。
外へ出ようと店の玄関へ行く。夜風が体の隙間から出て行く。誰かが後ろに追いかけてくる。
「お客さん、駄賃払って無いですよね。」
店員が話しかけた。
「あ゙。ええ、払ってませんとも。」
店員がなんだこいつと言うような顔を貼る。
「払って頂かないと……。」
「んだ?お前。俺は見ての通り鬼だぞ。お宅やらに豆を出されたんだ。駄賃なんていならいよなぁ。」
奇物が手を広げて、魅てご覧と言わんような仕草をする。威圧感がドロドロとした液体となって迫い来る。
それでも店員は食い下がらない。
「うちも商売でっ、」
音が途切れる。店員は燃えて灰になっていた。辺りが静まる。
「はっはっ、愉快じゃのう。そぉだ。」
乾いた笑い声。奇物は何か閃いた様だ。目を見開く。
「この町ごと焼き尽くすかぁ。」
「「「「」」」」
その場にいた客はさっきまで静まり返っていたのに、鍋を叩く様に一気に騒ぎ立てる。
「ふざけんな……!」
客が襲ってきた。町が焼けてしまってもどうでもいいが、自分が死んでしまうのが嫌なのだ。が、一瞬にして燃え尽きてしまった。
「はっはっは!」
憎たらしい笑い顔。広角が引きちぎれるほど上がっている。しかしすぐに真顔になり、童の方に目を向ける。
「お前、火は好きかぁ。」
見下しながら問いかける。奇物の眼は冷酷で地獄のように赤い。童は少し間を置いてから、
「好き。」
「そうかそうか。」
にちゃりと笑い尖った歯を見せる。と同時に横から客が、童に襲いかかる。童は動じず突っ立ったままだ。
「……かっ!」
その客も焼かれた。
奇物が外へ足を踏み入れた瞬間、辺り一面が火の海となった。
「はっはっは!愉快じゃのう!」
目を最大限まで見開き、薄汚い笑い声が町に響き渡った。