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67.目指せ最強!鉄棒の練習 3

 夜も更けて、メイさんとメイベルさんが雲に乗って、オルケルンに旅立つことになった。思えばメイベルさんとは、一緒に学校に行ったり、卒業遠足に参加したり、一緒に絵を描いたこともあったし、毎日のように一緒にいたのに今日からもう、しばらく会えないなんて俄かに信じられない。とても、とっても寂しい。メイさんも口をへの字に曲げて必死で涙を堪えている様子だった。


「メイベルさん、しばらく会えないのはとっても寂しいです。それで、あの、私、メイベルさんとは一緒に学校に通いましたし、その、私はメイベルさんのことが好きなので、それで、あの、もし良かったら、私の、お友達になってもらえますか?」


 自分でも、顔が真っ赤になっているのが分かる。とても恥ずかしいけれど、メイベルさんとまた会いたいし、私の友達になってくれたら嬉しいので、勇気を出してメイベルさんに言ってみた。無言が続いたのでそっとメイベルさんを見てみると、目を見開いて、手で口を押えてふるふる震えていた。見渡すとみんなそんな感じになっていた。なんとなく、どこかで見たことのある光景だなと思った。


「なに言ってんの!なに言ってんの!!私達はもう、友達だよ!ずっと!会えなくても!友達なんだから!!」


 とうとうメイベルさんが泣きだして、私に抱きついてきた。私達は抱き合って二人で号泣してしまう。


「なんとゆう愛らしさ!……しかしエミリアが泣いてしまった!一大事じゃ!オルケルンに行くのは中止じゃ!その娘はずっとここに居ればよい!どこにも行かせぬ!我が娘が寂しがらぬよう、未来永劫、側に居れ!」


「ええ!?困る!困ります!確かにもの凄く可愛かったですけど!恥じらうエミリアさんの愛らしさと言ったらもう!……じゃなくて、ええ??」


 私とメイベルさんがあんまり号泣してしまったので、大人達が心配してしまった。オロオロしているアビーさんを、ラリーさんやノアやピートさんが説得して、なんとか今夜の出発は続行されることになった。メイベルさんは私から離れて、涙を拭うと、たくさん泣いたので少し落ち着いたようだった。


「エミリア、私達、離れていても友達だよ。また一緒に学校に通おうね。その羊さんも、またね、バイバイ。」


「この羊のことなんですけど、肩は目立つので、頭の上はどうでしょう。帽子みたいに見えて目立たないかもしれない、とゆう話になったんですけど。」


「うん。だめだね。もっと目立つと思う。そう、……どうしても一緒にいたいのね。そうね、ずっと手に持っているのも邪魔になるし、ポケット、は無い場合もあるか……。鞄の中はだめなのよね?そう。……いっそ染めちゃったらいいんじゃない?肩に乗ってても、エミリアの髪の色と一緒なら、一瞬よく見ないと分からないかも!保護色ってゆうのよ。そうゆう生き物がいるの。風景と見分けがつかないようにして、見つけられないのよ。面白いわよね~。いいアイデアじゃない?」


「さすが!メイベルさん。頭がいいです。ラリーさん達に、私と同じ色にしてもらいます。これで一緒にいられる!ありがとう、メイベルさん。」


 アビーさんがやっぱり行かないとごねて一悶着あったけれど、結局送って行ってくれることになった。メイさん達に雲の中に潜って寝ころんでいたら、眠っているうちに着きますよと提案すると、ふわふわの雲の中に潜ってとても喜んでいた。


 もう一度さよならをして雲が浮かび上がると、あっという間に夜空に紛れて見えなくなってしまった。しばらく輝く星空の雲が消えて行った方角を見ていたけれど、やがてノアに手をひかれて、部屋に戻ってもう眠ることになった。


 ベッドに入って横になっていると、メイベルさんとの楽しかった思い出が次々に思い出されて、とても寂しくなって、また涙がでた。ノアがまた一緒に学校に通える日が来るよとなぐさめてくれるので、目を瞑って、オルケルンや王都でまた一緒に楽しく学校に通っている姿を想像しながら眠りについた。


 次の日も、その次の日も何日も、私はなんとなく元気がでなくて、ぼんやりノアとピートさんの訓練の様子を眺めていた。二人は岩を打つ練習をしたり、大岩を登ったり、準備運動や体を鍛える重しをつけながら体操したり、とても頑張っていた。


 ラリーさんが綺麗に折るとゆう課題が終えられなければ、鉄棒を渡さずに返してもらうと宣言してからは、二人はより一層真剣に訓練に取り組んでいた。その甲斐もあって、ピートさんは日に日に綺麗に折るとゆう課題に近づいているようだった。


 岩を打つ音で、力が上手くのせられているか、分かるようになってきたと言っていた。その一方で、ノアはまだ岩を綺麗に割るではなく、砕くになっていて、真剣に取り組んでいるけれど、なかなか前進していないようだった。


「……ねえ、エミリア、あの魔女、ちょっと気の毒じゃないかしら?ほら、ずっとエミリアの周りでそわそわしてるじゃない?心配してるのよ、たぶん。ほら、あれ、気づいてる?」


「え?アビーさんですか?アビーさんがどうかしましたか?」


 見渡してみると、遠くでアビーさんがなにか、落ち着きなくうろうろ浮いていた。不思議な飛び方だった。なにか思い悩んでいるのか、顎に手をあてて考えたりもしている。


「アビーさんの様子がなにか変ですね?どうしたんでしょう。」


「だから、たぶんエミリアの元気がないから心配してるのよ。ここ何日もあんな感じよ。ね?だから、元気だして。あの親子が居なくなったのが寂しいんだろうけどさ、また会えるんでしょ?それにあの子が教えてくれたじゃない。エミリアと私、同じ色にしてもらうんでしょ?あの魔女に頼んでみたら?喜ぶと思うわよ?」


「そうでした。肩に乗ってても目立たないように、同じ色にしてもらうんですよね。」


「そうそう。私はなるべくエミリアと一緒にいたいの。だって、エミリアって生まれたてって感じなんだもん。いろいろ混じってるからなのかな?心配で、ほっとけないわ。」


 私はなんだか、いろいろな人に心配をかけてしまっているみたいだった。もう一度アビーさんを見ると、チラチラこちらを見ながらおかしな飛び方をしている。私がちゃんとしっかりしないと、アビーさんがなんだか挙動不審になってしまうらしかった。


「アビーさあ~ん!ちょっとお願いがあるんですけど~!」


 大きな声でアビーさんを呼ぶと、マッハの速さで目の前に飛んできた。その素早さに目の焦点が合わなくて、パチパチ瞬きしてしまう。


「なんじゃ?妾を呼んだな?なにが願いじゃ!なんでも叶えてやろう!さあ、早う言うてみよ!」


「ああ、あありがとうございます、は、離して、まず離してください……、降ろして、ください。」


 アビーさんが興奮してしまって、手を繋いでぶんぶん振るので、空でぐらんぐらんしながら浮いていた。地面に下ろしてもらってから、アビーさんにディアさんの事をお願いしてみた。


「それで、この白い羊のディアさんもとても可愛いんですけど、私と同じ色にしてほしいんです。お願いできますか。」


「至極簡単なことじゃ。同じ色じゃな。それ。」


 アビーさんが手をフィッとして、ディアさんが一瞬で真っ赤になった。目や口は黒いままなので、乗り方を工夫したらまったく気付かれないと思う。


「わあ!ありがとうございます!これで、大きな町でも一緒に居られます。」


「違う!全然違います!!エミリアの髪の色は、こんなに軽薄な赤じゃありませんよ。やり直してください。」


 振り向くと、いつの間にかノアがすぐ後ろにいた。ディアさんの色が気に入らないらしくて、怒っていた。そこから、ノアとアビーさんで話し合いながら何回もディアさんの色を変えていた。私にはその違いがまったく分からないし、細かいことが苦手なアビーさんがとても苦労している。


「そなたは細かすぎる。妾には同じにしか見えん。」


「まだまだ全然違いますよ。まったく同じ色にと頼まれたんですよね。エミリアが喜ばなくてもいいんですか。」


「うう~。それは困る。妾はエミリアの願いを叶えるのじゃ。まあ、待て。もう一度じゃ。」


「まあまあ、ちょっと待ってくれ。まったく同じ色にしようとすると調節が難しいだろう。アビー、エミリアの髪を写すようにしたら、いいんじゃないか?ほれ、触ってよく見たら分かるだろう。」


「なるほど、その手があったか。やってみよう。」


 アビーさんが私の髪を持って、もう片方の手でディアさんを手の上に乗せた。私の髪をジッと凝視しながらとても集中している。私は最初にディアさんを赤くしてもらった時にも、十分すごいと思っていたけれど、アビーさんもノアもラリーさんも、私を喜ばせる為に完璧に仕上げようとしていた。


 私は自分で思っていたよりも、もっとみんなに心配をかけてしまっていて、そして、とても大切に思われていることを実感する。ここ最近寂しさで占められていたような胸のなかが、もう今は、ぽかぽか明るくて温かいもので満たされていた。私はディアさんが同じ色に出来上がる前にもう、嬉しくて、前向きな気持ちになれていることに気づいていた。


 アビーさんは、まだまだ真剣に私の髪の毛を見ている。それは何かを見ているとゆう以上のようで、まるで私の髪の総てを、質感や感触や色素やもっとそれ以上の何かを読み取っているようで、とても集中している。アビーさんの辺りのギュウッとなる感じが今までと違っていて、キンと張り詰めたように整列したような集まり方をしていた。


 誰もが声もかけられない、邪魔してはいけない、緊張した状態が続いていて、みんなが固唾を呑んで見守っていた。特にノアは息をしていないかのように微動だにせずに、アビーさんのことを見つめていた。ふいにアビーさんが目を閉じて、しばらく沈黙したあと今度は手の中のディアさんを見た。


 鬼気迫るように睨んでいるけれど、どこか面白そうに笑っているようにも感じた。アビーさんの額から一筋の汗が伝って落ちた。ディアさんは微かに震えているようだった。離れていても、脅えているような気配が伝わってくる。そして突然にパッと、羊のディアさんの色が変わって、まったくどう見ても私の髪の毛の色と同じになった。


 辺りの緊張がフワッと解けて、アビーさんがディアさんを両手で持って包んだ。本当に嬉しそうに子供のように無邪気に笑いながら私に差し出した。


「成功じゃ!写したぞ!どうじゃ?エミリア、同じか?嬉しいか?そなたと同じで喜ばしいか?」


 私は差しだされたアビーさんの手を、そのまま両手で包んだ。本当にもう。アビーさんは本当にもう。どうしてそんなに……。どうしていつも私の気持ちをいっぱいにするんです。


「な、なぜ泣く!?違ったか?もう一度やり直すか?……え?嬉しい?嬉しくて泣いておるのか?本当か?喜んでおるか?羊が同じ色になって嬉しいか?」


「……とっても、嬉しいです。アビーさんが、私の為に一生懸命になってくれたことが、本当に嬉しいです。私、すごく喜んでいます。」


 たまらずアビーさんに抱きついた。ごめんなさい。本当にごめんなさい。心配をかけて、こんなに心配をかけていて、わんわん泣きながらアビーさんに、みんなに謝った。そんな私を落ち着かせるように、アビーさんが、ノアが、ラリーさんが、撫でてくれる。いいんだよと言うように、優しくゆっくり撫でてくれていた。


「私、今まで元気がありませんでしたけど、もう大丈夫ですよ!もう元気になりました!だから私も!今日から、しっかり体を鍛えます!」


 アビーさんから離れると、みんなに宣言して大岩の方までずんずん元気よく歩いて行く。みんなも一緒に良かった良かったとついて来ていた。大岩に近づくと、突然ロープが私の体に巻きついて、驚いてギャーと悲鳴を上げてしまったけれど、これもアビーさんの愛情の魔法だったと思い出して、深呼吸してからみんなに振り返って手をふった。みんながニコニコして見守っていた。


 私は石に手をかけて、一段ずつ登ることにした。すいすい登れるので、途中で不思議になって大きな岩に座って休憩しようとすると、ロープがフワッと体を持ち上げて、ちょこんと座らせてくれた。アビーさんの愛情の魔法はとても協力的すぎて、私の体はまったく鍛えられずに上まで登れるようになっていた。文句を言う気にはならないし、さて、どうしたものかと下を見下ろすと、みんなそれぞれの日常に戻っていた。


 ラリーさんはごはんの用意をしている。アビーさんは荷馬車の上で横になっていた。ピートさんは重しをつけて、体を鍛える訓練をしていた。ノアは岩の前にたって、顎に手をあててジッと考え込んでいた。ずっと見ていても、まったく動き出す様子がなかった。


 私はロープに下まで降ろしてもらって、とことこノアを正面から見える位置まで歩いて行って、座って眺めることにした。ノアがいつもとなにか様子が違っていて、ずっと動かずに考え事をしている。そして、集中するように目を閉じて、またそのまま動かなくなった。


 ずっと見ていると、岩の前に立っているノアが手に持っていた鉄棒を地面にカランッと落とすと、そのままなにも持たずに手を振り上げて、ストンと岩を打った。すると大きな岩はパカッと真っ二つに割れてガラッと倒れた。ノアがその日、初めて折るを習得した瞬間だった。


 私は手をたたいて、ラリーさんも駆けつけてきて祝福したんだけど、すぐ側で体を鍛えていたピートさんだけは驚きからハッと我に返ると納得がいかない様子だった。


「いや、棒使ってねえしいいいーーーーーーーー!!」


 と大きな声で叫んでいた。ノアも納得がいかない様子で、元に戻った岩を今度は鉄棒を構えてストンと打つと、ズガーンと砕け散った。


「いや、なんでだよ!?」


 ピートさんが疑問に思った気持ちも分かるけれど、力の加減や調整とゆうのは、なかなか思っているようにはいかず、難しいものらしい。最強への道とゆうのは、どうやら長い道のりのようだった。

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