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66.目指せ最強!鉄棒の練習 2

 断崖絶壁は登れないけれど、体を鍛えるのは大切だとゆう話に落ち着いた。ノアとピートさんの二人で、鍛えるメニューとゆうのを自分たちで考えてみることになった。走るのもいいし、泳ぐのもいいし、この辺には大きな岩がゴロゴロしているので、いろいろと工夫して鍛えられそうだった。


 ラリーさんは川で魚を釣りながら、そんな様子を嬉しそうに眺めていた。私の目には川の中には小さな小魚しか見えないけれど、どうゆう訳か、ラリーさんは大きな川魚ばかりを釣っている。今日のお昼ごはんにするとホクホク喜んでいた。鉄棒の練習はお昼ごはんの後に始めることになっていた。


「ノアに良い友人が出来たようだな。友達と切磋琢磨して最強を目指すのか。なんて素晴らしいんだろう。わしは嬉しい。」


 まだノアとピートさんが話し合っている様子を見ながら、ラリーさんが本当に嬉しそうに呟いていた。メイさん達はもう体調が良くなったようで、荷台の中でお喋りしながら今度は編み物をしていた。私は気になっていることがあって、ラリーさんに断ってから、雑木林の中を散歩することにした。


 林の中は木が間隔をあけて生えていて、よく日が差し込むようになっていた。今まで鬱蒼とした森ばかり見てきていたので、少し珍しく感じる。そのせいなのか、幼精達の姿がまばらで、とても少なく思えた。森の中や、人が住んでいない場所は、もっとたくさんいるものだと思っていたので、なんだか不思議だった。


「ディアさんは幼精の姿を見たことがありますか?」


 肩に乗ったディアさんを撫でながら聞いてみた。ディアさんは私の手にスリスリして甘えるようにすり寄ってきてくれるので、とても可愛い。


「幼精ね……、あの子達も、幼精なのよねえ。私は泉だから、水の感じの子達がいるのは知ってるわ。」


「そうなんですね。それなら、この林の幼精さん達が少ない気がするんですけど、ディアさんには見えてないんですよね。」


「そうね。分からないわ。この辺にいる幼精ってなにしてるの?」


「とくに変わったことはしてませんよ。ふわふわしてます。でも、なんだが少ない気がするんですよね。木が森ほど生えていないので、これが普通なのかもしれませんけど、う~ん。不思議な感じがします。」


「ふ~ん。よく分からないわね。でも少なすぎたらヤバイんじゃない?」


「ヤバいってどうゆうい……」


 ドゴーーンとゆう地響きがするような大きな音に、私の質問はかき消された。立て続けにドーン、ドゴーンとゆう大きな音が滝の方から聞こえている。私とディアさんは急いで大滝の所まで戻ることにした。クロが降り立って来て、私達の前をチョンチョン歩いてくれた。


 川の近くまで来ると、空に無数の石や木や岩が浮いていた。それをアビーさんが空の上で時折考える仕草をしながら、あの断崖絶壁の大岩にくっつけていた。どんどんドゴンドゴンと上から下まで大岩が埋まっていく。全部の石や木をくっつけ終わるとアビーさんは満足そうに降りてきた。


「これでよし。そなたが掴まる所がないと登れんと言うのでな。つけてやったぞ。これで登れよう。」


「おばあ様、話しを途中までしか聞いてませんでしたよね?ピートはあんな高い所は危ないとゆう話もしていましたよ。」


「いや!ノアよ、これはすこぶる見事な傑作だ。これは良い!なんとも素晴らしい!わしがあの一番上の角のような奴にロープをかけてやろう!それで完璧だ。良い物が出来た!さすがアビーだ!」


 ラリーさんがずいぶん褒めるので、アビーさんもご満悦だった。ラリーさんがすぐに上までヒョイヒョイ登って行って、ロープを何本も括り付けた。これで安全に訓練できると、ノアとピートさんに使い方を説明していた。登りやすくなったし、体も鍛えられるらしい。


「アビーさんすごいですね。ラリーさんが傑作って言ってましたよ。登りやすそうになったので、私も後で登ってみます。」


「そうであろう。よい考えであろう。ピッタリくっつけたのでな、あの石の上で小躍りしようが落ちることはない。ぞんぶんに鍛えるのじゃ。不要になったら元に戻せばよい。完璧じゃ。」


 とってもご機嫌なアビーさんは、大きな岩の出来栄えにとても満足していた。大きな音にビックリしたけれど、とてもいい訓練道具が出来上がっていて、あれなら私も登れるような気がする。


 お昼ごはんにはラリーさんが釣った魚をみんなで食べた。ただ焼いただけの魚も、とても美味しかったけれど、ラリーさんが作った魚のスープがもの凄く美味しかった。とても深みがある味でピートさんも何杯もお代わりしていた。和気あいあいとした雰囲気の中で、メイさんがおずおずとラリーさんとアビーさんに話しかけた。


「あ、あの、すみません。ここまで連れて来てもらったんですけど、私達、ここで別れてオルケルンに行きます。……今までお世話になりました。」


「ここで別れてって……、おばさん、どうやってオルケルンまで行くつもりなんだ?」


「どうって……、歩いて、商人の馬車に乗せてもらおうかなって。大きな道に出たら、通るだろうし。本当ならそうやって移動したんだろうし……。その、訓練、とか時間がかかるのよね?メイベルのことも、早く大きな学校に行かせてあげたいし……。」


「学校!?そなたらは学校に行くつもりであったか!?なぜそれを早く言わぬ!それは!急がねば!」


 学校と聞いてアビーさんが慌てだした。ラリーさんが止めなければ、そのまま飛んで連れて行きそうな勢いだった。


「まあ、落ち着け、アビー。しかし歩いて行くなど、危険なんだろう?わしが荷馬車で送って行ってやろう。なに、ひとっ飛びでオルケルンまでつくだろう。」


「あ!いえ!荷馬車は!いいです!結構です!お気持ちだけ、本当に、あの、大丈夫です。」


 頑なに歩いて行くと言うメイさん達に、みんなそれぞれ心配して、話しが平行線になってしまった。お昼ごはんを食べ終わったら、もう荷物をまとめると言っている。


「それなら、雲で行ったらいいんじゃないですか?あれなら荷物も乗せられるし、夜に紛れて行ったら、目立たないんじゃないかな。誰かオルケルンまでの行き方を知ってるんですか?」


「雲?雲って言うのは……?」


 メイさん達が不思議がるので、ノアが自分の鞄の中から二人用の小さな雲を出して、乗ってみせた。ふわふわの雲にメイベルさんが目を輝かせて驚いた。


「ええ?すご~い!ふわふわ!私も乗りたい!ママ!これで送ってもらおうよ!乗ってみた~い!」


 それで今晩、アビーさんがクロに地図を憶えさせて、メイさん達を雲で送って行くことになった。ここでメイベルさん達と離れてしまうのは寂しいけれど、とても頭がいいメイベルさんはたくさん勉強できる方がいいと思った。


「エミリア、エミリアと離れるのはとっても寂しい。エミリアも必ずオルケルンに来てね。一緒に王都に行こうね。それでまた一緒に学校に通おう。絶対、絶対約束だよ。」


 メイバルさんが私の両手をとってブンブン振りながら、二人で約束した。そしてメイベルさんが一度俯いてから、言いにくそうに教えてくれる。


「それでね、言いにくいんだけど、エミリアの為に言っちゃうね。その、ぬいぐるみなんだけど、大きな町とかだと、ずっと肩に乗せてたら、目立つと思う。ここでは!良いと思うんだけど!ね?気に入ってるのは分かるんだけど、可愛いし。エミリアは目立つし。もっと注目されちゃうってゆうか。だから……、オルケルンに来る時は気をつけてね。」


 それだけ言うと、荷馬車の方に走って行ってしまった。夜までにメイさんと荷造りを終わらせないといけないので、忙しそうだった。


「ディアさん、大きな町では肩に乗ってちゃだめみたいですね。気をつけないといけませんね。」


「困ったわ。私、町の中に入れないってこと?頭の上とかでもだめなのかしら。」


 ディアさんと話していたら、地図を広げていたラリーさん達とクロが片付けを始めていた。とうとう鉄棒の訓練がはじまるので、ピートさんもとても嬉しそうだった。私も大岩を登る訓練をしたいので、ついて行くことにした。アビーさんは一人大岩にくっつけた大木に座って三人を見下ろしていた。


「さて、棒の、いや鉄棒だったか。使い方なんだが、さして決まりがある訳じゃないんだが。まあ、鉄棒を持つなら、憶えておいてほしいことはある。わしは暴力は嫌いでな。だからこの鉄のように硬い棒で、人を傷つけてほしくない。けっして狼藉を働かんと約束してほしい。自分の強さをひけらかすような事もわしは許さん。しかし向かってくる敵や、大事なものを守る為には、戦わねばならん時が確かにあるだろう。その為にだけ、この鉄棒を使うんだ。約束できるか?」


 ピートさんとノアが真剣な顔で大きな返事をした。ラリーさんは満足したように頷いて、また話し出した。


「うむ。よろしい。それに、この鉄棒は恐ろしく硬い。人を傷つけるかも知れないものを持っている時には決して気を抜いてはいかん。一時もだ。分かるか。」


 ノアとピートさんは今度もまた、真剣な顔で元気よく返事をした。ラリーさんの鉄棒を使うには、幾つかの約束事を守らなければならないようだった。


「よし、それならまずは、骨の折り方を習得してもらう。いいか、間違ってはいかん。骨を砕いてはいかん。折るだけだ。なぜなら、それで十分だからだ。骨を砕いてしまっては、治るまでに時間もかかろう。それでは気の毒だ。襲ってくる相手は骨を折られたら、もうそうそう向かって来れん。手や足を狙うんだ。他の場所も狙ってはいかん。治らん傷をつけてはいかん。急所など以ての外だ。決して卑怯者になってはいかん。」


そしてラリーさんは、とても大切なことを話すように、二人の顔を交互にしっかりと見た。ちゃんと理解しているか確認してから、また話し出した。


「例えば襲ってきた盗賊の奴らがあちこち骨を砕かれたら、痛みに耐えて治るまでの間に、恨みを募らせるだろう。もう二度と同じようには動けんかもしれん。だがしかし、ポキッと折っただけならどうだ。その場では動けんかもしれんが、すぐに綺麗に治ったとしたら?もしかすると、治るまでの間に自分の行いを反省してくれるかもしれん。わしはそれを願っている。わしの鉄棒の技とは、つまり必要以上に傷つけんようにする技なんだ。」


 そう言うと一呼吸おいてから、ラリーさんが一層真剣な険しい顔つきになって、二人のことを見た。


「だがしかし、世の中には信じられんほどの下劣な輩がいることも事実だ。そんな奴らには、骨の髄まで知らしめねばならん、強者とは何かを。その時の為に、次の段階では、木っ端みじんに粉砕する技を教える。もちろん相手の武器を粉砕するに留めるべきだが、武器か相手かを選ぶのは、二人の良識に任せよう。」


 ラリーさんの話が終わると、二人に鉄棒を構えさせた。握り方、足の開き方、腰の落とし方、目線の向き、よけ方や、体の動かし方や、呼吸の仕方まで、憶えることは無限にありそうだった。私は、大岩のちょうど中間あたりの大木に座っているアビーさんの所まで登って行くことにした。


 突き出た石に手をかけてまた違う石に足をかける。一段石を登って自分の体を支えるだけでも、とても大変だった。手が痛いし、足がふらついて落ちそうになる。頑張ってもう一段上に手をかけようとすると、フワッと体が浮いてアビーさんの隣に座らされた。


「アビーさん、私訓練してアビーさんの隣に行こうとしていたんですよ。運んでくれたら、訓練になりませんよ。体を鍛えるのは大事ですよね。」


「このお転婆め。そなた、どれほど危なっかしいか分かっておらぬな?心配で妾の具合が悪くなりそうじゃ。あのロープの一本はエミリア用にしよう。そなたが近づくと巻きつくようにする。落ちる心配をせずに済むようにな。」


「もう!落ちませんよ。ちゃんと鍛えて上まで登れるようになります。」


 アビーさんがからかって笑うので、私もついつい、つられて笑ってしまう。アビーさんと並んで大木に座って景色を眺めていると、雑木林は途切れ途切れに向こうの方まで続いていて、至る所に大きな岩が転がっていた。見たこともない変わった地形だなとなんとなく思った。


 しばらくアビーさんとお喋りしながら景色を眺めていると、下からラリーさんが呼んでいた。見下ろすと大きな岩がノアとピートさんの前にそれぞれ置いてあった。


「おお~い。アビー、準備運動が終わったんだ。岩に繰り返しの奴をかけてくれ。」


 まだ早いのではないか?と言いながらアビーさんが私を抱っこしてラリーさん達の所まで降りて行った。私を降ろしてすぐに、手をフイッとして、目の前の岩になにか魔法をかけたようだった。


「よし、これで割れても戻るからな。しっかり握って、さっき教えたように打ち据えろ。岩の真ん中を打って、自分の力を知るんだ。」


 ラリーさんの合図でピートさんがまず石を鉄棒で打った。カンッと音がして、手に衝撃が響いたようだった。


「しっかり鉄棒を握らんといかんぞ。打つ直前に力をこめるんだ。打つ箇所だけにな。慣れると分かってくる。」


ラリーさんがピートさんにアドバイスして、次はノアの番になった。緊張したような顔のノアに、私は小さく頑張ってと励ました。ラリーさんが合図して、ノアが大きく振りかぶって岩に鉄棒を打ち込んだ。途端に腰ぐらいまである岩が粉々に砕け散った。横にいるピートさんがええ?と驚いて、目を見開いてのけ反っていた。


「ああ、いかんいかん。それは砕く、だ。ノアよ。今は折る練習なんだから、砕いてはいかんぞ。最初に話しただろう。力加減が大事なんだ。力の入れる箇所だな。まっすぐに、ストンだ。」


「なかなか難しいですね。まっすぐにストンか……。まっすぐ、ストン。まっすぐ……。」


 ノアがラリーさんにアドバイスをもらっている途中から、砕けた岩が集まってきて元の岩の形に戻っていった。どこにもヒビも入っていない、元通りだった。


「ええ~?」


 ピートさんがまだ驚いたままだった。ノアと岩を見比べて、わなわなしている。もしかしたらアビーさんの見事な魔法の方に驚いているのかもしれない。


「ほれほれ、ピート、打って打って打ちまくれ。そんなことでは折るコツは掴めんぞ。強くなるんだろうが。強くならねば、大事なものを守れんぞ。」


 ラリーさんのその言葉に、ピートさんの顔つきが変わって、一生懸命に岩を何回も打ち出した。二人とも真剣に岩を一心不乱に打っていた。


「いや、うるっさ!毎回毎回、ズガンズガン砕くな!気が散る!」


 ピートさんが怒るので、ノアの岩にはアビーさんが防音の魔法も重ねてかけた。まだまだ最強への道は遠そうだった。

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