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61.たゆたうカケラのなか

「大丈夫ですか?痛くないですか?」


 荷馬車の部屋に入る前に落としてしまったのか、床に落ちて転がってしまったディアさんに慌てて駆け寄って、拾い上げてよしよしと撫でた。


「どこか痛い所はないですか?すみません。落としてしまったみたいで……。」


「そりゃもちろん、痛くはないわよ。ビックリしたけど。でも落としたんじゃないんじゃない?その部屋、魔法のなんかでしょ?弾かれたもの。」


 拾ったディアさんを撫でながら話していると、先に部屋に入っていたノアが心配して荷台に戻ってきてくれた。私達を不思議そうに見てから、座り込んでいる私の隣に座る。


「どうしたの?なにかあったの?」


「ディアさんが部屋に入れないみたいなの。ここにディアさんだけ一人でいるのは、寂しくなると思う。私、メイさんの部屋に泊まらせてもらおうかな。」


「うん……、でもそれは、ここを出発する間だけだよね。また移動することになったら、ここに置いておくことになるんじゃないかな。」


「そっか、そうだよね。じゃあ、私、今日から荷台で寝ることにする。ここにディアさん一人だと寂しいもの。」


「やだあ~、ちょっと!エミリア、優しい。ありがとう。……なんだけど、そうじゃなくて!違うよね?だって、あなた私の泉にも来たし、私、エミリアに名前もあげたし、それに!たま、は自分でまだ出せてないかもしれないけど、それ、その色、カケラでしょ!?ちゃんと使ってよ!」


「あの、ディアさんがなにを言っているのか、分かりません。なにを使うんですか?」


 手のひらの中のディアさんから、すごくムキー!!とゆう感情が伝わってくる。プリプリ怒っているような、少し戸惑っているような感情だった。


「ええ?私そんなに詳しくないんだけど。だってなんとなく聞いてただけだもの。全部を知ってる訳じゃないし。私、聞いてた側なのに。教える側になっちゃった!?そんなあ~、自信ないわあ~。」


 ノアと二人で、終始戸惑っているディアさんが落ち着いて教えてくれるのを待つ。なぜか二人とも、真剣な顔になって正座の座り方になっていた。


「コホンッ。え~と、そうね。まあ、私、カケラの使い方なんて知らないんだけど、う~ん、まず、エミリアには、もっと私を呼んでほしいわね。もっと頼ってもいいのよ。私達はもう、一心同体みたいなもんでしょ。私の泉に来たんだし、もっと私を知ってるはずよ。名前もあげたし。つまり!そのカケラに私も入れるはずなのよ。もう私も入ってるはずじゃん!それ!そのお守り!」


 なぜかビシイッ!と私の首から提げているお守りを、指さされた気がした。このお守りの中に、ディアさんが入っている?どうやって……?と思ったけれど、それは考えても分かりそうにないので、私はディアさんの言葉を考えてみることにした。


 お守りを手のひらに乗せて、ジッと見つめる。とてもキレイな石だと思う。いろいろな色の虹色のような光が、絶えず石の中でたゆたっていて、その七色の光が漂っている様子は、ずっといつまで見ていても、見飽きることがないと思う。


 その不思議な虹色の光の動きを目で追いながら、ディアさんのことを考えた。ディアさんの泉。あの温かい湖の底。静かで、キレイな水が湧き出ている、深い森の中にある、あの湖。


「だめだめ!!違う違う!湖に行くんじゃないのよ。ここにいる私を呼んで、私はここに、エミリアと一緒にいるでしょ!?」


 ディアさんの叫ぶような声にハッと我に返った。一瞬だけここじゃない、どこか別の場所にいた気がして、なぜかヒヤッと寒気がした。水の輪っかのディアさんを改めて見た。


 私と来てくれてると言ってくれたディアさん。私を面白いと言ってくれたディアさん。楽しそうに笑う、その声。ここにいる、もっと頼ってと言ってくれる、親切で、優しいひと。


 私と、ここに、いてくれている。とても近くに、いてくれていると感じる。


「ディアさん。……ディアさん。ここにいますね。この中にも。本当に私と一緒に来てくれるんですね……。」


「……そうよ。私はエミリアといつも一緒なの。あなたのそのキレイな色。私、とても好き。もっと頼ってくれてもいいんだから。私が……」


「「私が、エミリアといつも一緒だって分かった?」」


 ディアさんの声が途中から、重なって聞こえてきた。不思議な感覚に、水の輪っかのディアさんを見て首を傾げてしまう。ディアさんからやれやれとゆうような感情が伝わってくる。


「こっちがちょっと繋がったみたいね。ほっそいけど!まあ、いいわ。カケラなんだし。たま、と一緒なんだったら、今の私の声、エミリア以外に聞こえてないはずよ。」


 声が重なって聞こえていた後は、私のお守りから小さくディアさんが話す声が聞こえてきていた。すぐ隣に座っているノアにお守りを近づけて、ディアさんの声が聞こえるか試してみたけれど、ノアにはまったく聞こえないようだった。


「ディアさん、何をしたのか分かりませんけど、声が二重に聞こえたら変な感じがしますし、お守りから声がしたら、なんだか落ち着きません。」


「あっそう。それ、何かしたのは私じゃなくてエミリアなんだけど。まあ、いいわ。落ち着かないなら、こっちで話すから。それでね、もう一回その部屋に入ってみて。今度は私も入れるはずよ。もう繋がってるんだから。」


 ディアさんに言われた通りに荷馬車の部屋に入っていくと、今度はディアさんも弾かれることなく、何ごともなかったように一緒に入ることができた。なにがどうなっているのか、さっぱり分からない。私が何かしたと言われても、何もしたつもりはないんだけど。


 ただディアさんが私の側にいてくれるんだなって思っただけで、それだけで、なにかが決定的に違うんだろうか。たま、っていったい何なのだろう。私は本当に、その、たま、とゆうのを出せるようになるのかな。すごく不安な気持ちになる。それが出せないと、なにか私、困ったことになる?他の誰かが困ることになるの?私のせいで、なにか……。


「エミリア?大丈夫?顔色が悪いよ?気分が悪い?もう部屋に行って休もうか?」


「ううん。大丈夫だよ。……私、自分のことが分かる日がくるのかな。私がちゃんと、いろいろ、できるようになるのかなって、ちょっと、不安になって。」


 どんどん声が沈んでいくのが自分でも分かった。言葉にすると、もっと不安で、暗い気分になってきてしまった。ノアが心配そうに見つめながら手を握ってくれる。


「お腹が減ってるんじゃない?人って、お腹が減るとだめなんでしょ?」


「だめって、なんだ?お腹が減ったくらいでは、人はなんにも変わらない。」


「そうなの?そうだったかしら?ま、今のことは何もしらないわ。……それより」


 私は確かにお腹が減ってきていたんだけど、ディアさんが一呼吸おいてから、改まって真剣に私に話してくれようとしているのを感じて、私も身を引き締めて耳を傾けた。とても大事なことを私に伝えようとしている。強くそう伝わってくる。


「たま、ってね、上でも、下でも、右でも、左でも、だめなんだって。よく同じようなことを何回も言っていたの。いつでもバランスが大事で、それが難しいんだって。……上すぎても、下すぎても、右すぎても、左すぎても、だめなの。……なにか、ヒントになるかしら?」


「……忘れないように、憶えておきます。」


 今は分からなくても、たぶんなにか、とても大事なことなんだと思う。いつも気にかけておこうと思った。上でも、下でも、……つまりたぶん真ん中が大事ってことなのかな?真ん中の中心?丸の中心?……絶対、忘れないようにしないと。


「なんじゃ?そこで何をしておる?」


「あ、おばあ様、僕たちの荷物を持って来てくれたんですよね。……ありがとうございます?」


 荷馬車の部屋に浮かんで入ってきたアビーさんは手ぶらだった。ノアのお礼が疑問形になってしまう。


「荷物?ああ、なにかカラス達が運んでいたな。荷台に置いてあるんじゃないか?」


「……先に取ってきます。」


 ノアが荷台に私達の荷物を取りに上がって行った。私も手伝おうと入口に向かおうとすると、ディアさんがアビーさんに怒りだしてしまった。


「ちょっと!そこの魔女の人!あなた、どうゆうつもり?ここは魔法の国じゃないでしょ。どうして魔法使ってるの?なんか、あれじゃん!混乱?なんか、ほら、あれ、棲み分け!してるんでしょ?人の国でしょ、ここ。魔法使ったらだめなんだよね!?」


「なんじゃ?うるさい水の者めが!混乱なぞ起きるものか!妾は、目立たぬように気をつけておる。文句を言われる筋合いはない!」


「目立ってるし!さっきのだって十分目立つわ!」


 それから、ディアさんとアビーさんの激しい言い合いが始まってしまって、ラリーさんが慌てて食堂から飛び出してきて止めにはいっても、なかなか収まらなかった。その間にノアは荷物を部屋に置きに行って戻ってきた。


 そして輪っかのディアさんをアビーさんに渡すと、私の手を引いて食堂に向かった。ノアが先に晩ごはんを食べようと言うので、お腹も空いていることだし、二人で先に出来上がっていた晩ごはんを食べた。お腹がいっぱいになって食堂から出て来ても、まだ話し合いは続いていた。


 ノアが長くなりそうだと言うので、私達は先に部屋で休むことにした。私は疲れていたのか、ベッドに入るとすぐにストンと落ちるように眠ってしまった。

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