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56.サビンナの宴

 メイさんの家の前の比較的一番開けた場所に、焼肉の網の台が速やかに設置されて、椅子や机や、お皿やコップや必要な物が迅速に運び出されていて、私は準備のお手伝いをしていたはずが、気づくとタレが入ったお皿を手に持っていた。


 アビーさんの魔法では無いんだけど、瞬く間にもう今はお肉をどんどん焼いている。アビーさんは準備が始まる前から、メイさんの布の家の屋根の上で昼寝していた。あそこはなんだかマフッとしていて、寝心地が良さそうだった。


 ピートさんが久しぶりの焼肉に感激して、とても賑やかにしている。あんまり嬉しそうで、感謝感激雨あられとかなんとか、よく分からない感じになっていて、ノアから今はピートさんに近づかないように注意された。なるべく離れた席にノアが座らせてくれる。


「エミリア、私、エルドランの学校に行けるかもしれないんだよね?ね?そうゆうことでしょ?」


「うん。そうだね。メイさんが良いって言ってくれたら、たぶんそうなると思う。」


「やった!それで、王都にはエミリアと一緒に行くでしょ?」


「う~ん。それは、アビーさん達に聞いてみないと分からないんだけど。きっと良いって言ってくれるよ。」


 美味しい焼肉は、美味しい香りがするので、サビンナの集落の人達が、ちょくちょく覗きにきていた。ラリーさんはその度にお皿を渡して、お肉のお裾分けと言って、食べてもらっていた。


 少し話してはまた次の人が来て、そのうちにお肉のお礼を持って来てくれる人達が増えて、またその人達と焼肉を食べて、どんどん人の数が増えていった。


 もらい物やお裾分けがテーブルの上に乗り切らなくなると、どこかの家からテーブルや椅子がいくつも運びこまれて、もうどんどんキノコや野菜や果物や、パンやクレープなんかでテーブルがいっぱいになった頃には、大人数の宴のようになっていた。


「エミリア見て、この赤い実、あっちにボウル一杯あるんだけど、とても美味しいよ。食べてみて。」


 ノアの両手の中いっぱいに、指で摘まめるくらい小さくて、丸い赤い実がたくさん入っていた。その可愛い宝石みたいに綺麗な赤い実を、1粒摘まんで食べてみると、甘酸っぱくてとても美味しい実だった。ノアと美味しいねと言い合って一緒に食べた。


「その実はジャムにしても美味しいんだよ。」


 後ろから話しかけられて、振り向くとジェイドくんが大人の男性と一緒に立っていた。手には大きな瓶を持っていて、なにか茶色いものがたくさん入っている。


「エミリアこれ、あの、僕のお父さんと作ったんだけど、僕が初めてうまく作れて、それで、だから、あげる!」


 横に立っているジェイドくんのお父さんが言うには、家業でシロップの加工をしていて、瓶の中身はサビンナで採れたシロップからできた飴とゆうお菓子だった。ジェイドくんは学校が終わったので、本格的にお父さんのお仕事を手伝っているらしかった。


 一生懸命に飴を作って上手にできたので、私にプレゼントしてくれるらしくて、とても嬉しくて、ありがとうと言って受け取ると、落としてしまいそうな程ずっしりと重たくて、横にいるノアがすぐに代わりに持ってくれた。


「それで、さっき聞いたんだけど、メイベル達と王都に行くんでしょ?」


「それは、まだ決まってないと思うよ?」


「え?さっき、あそこで……。」


 ジェイドくんが指さした方を見ると、メイさんとメイベルさんが囲まれていて、なにかいろいろな人に、贈り物を貰っていて、メイさんがいろんな人にお礼を言っていた。頑張ってねとか、手紙ちょうだいなんて言う声がこちらまで聞こえた。


 さっきまでメイベルさんは都会の学校に行けるかもしれないとは言っていたけど、どうやら行く事が決定したようで、とても嬉しそうに喜んでみんなと話していた。その姿を嬉しく眺めていたら、ジェイドくんのお父さんが話しかけてきた。


「王都に行くなら、重々気をつけた方がいい。最近はずいぶんと治安が悪いらしいんだ。私は仕事柄、商人に会う機会があるんだが、どんどんならず者達が増えていて、街道も危ないと言っていた。旅慣れた商人でも今は何人も兵士を雇うんだそうだ。」


 そして、ジェイドくんのお父さんは一段と声を落として、私達に合わせるように体をかがめて、小声で話してくれた。


「それに、エルドランは評判が悪いだけじゃない。この何年か、出稼ぎに行った者が誰も帰ってきていない。できるなら、近づかない方がいいと思う。それとなくでいいから、大きな学校なら、他の都会の町にもあると、伝えてみてくれないか。」


 心配そうにそれだけ言うと、ジェイドくんとお父さんは家に帰って行った。ジェイドくんが寂しそうな顔で、振り向いてバイバイと手を振ってくれた。もしかしたら、これが最後なのかもしれないと、キュンと切なくなった。


「エミリア、このような隅におったか。美味いものを持ってきてやったのだ。食してみよ。」


 アビーさんがお皿に焼いたキノコを山盛りにのせて元気に現れた。私とノアのお皿にキノコを取り分けると、アビーさんが珍しく、もりもり山盛りのキノコをたくさん食べていた。とてもキノコの味が気に入ったようだった。


 ラリーさんを見ると、とても上機嫌で大量のキノコを網で焼いていた。アビーさんが気に入って食べているのが余程嬉しそうな様子に、私はなんだか心がほっこりして、ノアに微笑んで美味しいキノコをみんなで食べた。確かに食感も香りも良くて、キノコの味がしっかり濃くてとても美味しかった。


「アビーさん、この間私キノコ採りに行きましたよ。たくさん美味しいキノコが採れたんです。出発までに、一緒にキノコ採りに行きましょう。」


「ほうほう。このキノコがそこらに、なるほど、そうか、そうか。」


 アビーさんは納得したように、美味しそうにまたキノコを食べ始めた。すかさずラリーさんが焼きたてのキノコを持ってきたので、とうとう面白くなってきて、嬉しくて笑ってしまった。


 みんながお腹いっぱいで、宴もたけなわになっていった。ちらほら家に帰る人達が送別会楽しかったわと言って帰って行った。いつの間にか、送別会になっていたようだった。出発はいつなのか聞いてくる人もいた。


 後片付けを始める頃には、贈り物はメイさんの家にすっかり収まっていて、テーブルや椅子が次々と片付けられていく。私とノアも、ピートさんとラリーさんについて、残った炭や、網や台を荷馬車の部屋に仕舞に行くお手伝いをすることにした。


 アビーさんはさっきと同じ屋根の上で寝転んでいた。モフッと屋根に抱きついているので、たぶん寝心地がいいんだと思う。前を歩くピートさんとラリーさんに少し遅れて、籠や瓶を持って森の中の道をゆっくり歩く。森の空気を吸い込みながら歩くのは心地が良い。さっきまで焼肉の香りが充満した所にいたから、よけいにそう思うのかもしれない。


 のんびり癒されながら、ノアと歩いていると、少し離れた前の方からピートさんの叫ぶような怒声が聞こえた。ノアと慌てて荷馬車に駆けつけると、ピートさんがもの凄くラリーさんを怒っていた。


「なんで!?置きっぱなしなの!ここに!大金!置きっぱなしだめ!絶対!」


「網を用意していて……、邪魔だったから、置いて、忘れておった。」


 ラリーさんが荷馬車に金貨が入った袋をぽんと置いていたことに、ピートさんがもの凄く怒っていた。あまりの怒りように、ノアがピートさんを宥めにいく。


「まあまあ、誰でもうっかり忘れることはあるし……。」


「ない!!大金は忘れない!決して!置き忘れない!お前たちはそこになおれ!俺が今から言うことを復唱しろ!」


 ノアの言葉は火に油を注いだようだった。よけいに怒らせてしまって、私達は横に一列に並んで、「お金は決して外には置きっぱなしにしません。」と言わされて、ピートさんに二度としませんと約束させられた。


 置きっぱなしにしていたら盗られてしまうらしく、絶対だめと言っていた。ノアがボソッと「でも盗られてないし……」と言ったら、もの凄い目で睨まれた。震え上がるほどの迫力に、ノアもさすがに謝っていた。


 荷馬車の中に忘れ物がないように、ちゃんと全部片付けてから、まだちょっと怒っているピートさんをみんなで宥めながら、メイさんの家に戻ると、家の中がてんやわんやとゆう感じの大騒ぎになっていた。もう引っ越す準備を始めたのか、いろいろな物が出されていて、部屋に溢れかえっていた。何を持って行くの、持って行かないのと、忙しく行き来しているようで、慌ててピートさんが止めに入って行った。


 私達は邪魔にならないように一旦外に出ることにした。外に出ると、アビーさんが欠伸しながら屋根の上から聞いてきた。


「なにを騒いでおる。うるさくて眠れん。」


「急に決まったので、準備?でしょうか?……アビーさん、私も隣に座っていいですか?」


 アビーさんが浮かせてくれようとすると、ノアが手を繋いで屋根の上に連れて行ってくれた。屋根の上はマフッとしていて、モフッとした感じで、フワッとした雲とはまた違って、いつまでも寝転んでいたい感触だった。


「この集落の家は屋根の上で過ごす為に出来ているのではないか?居心地が良すぎる。」


 アビーさんがマフッと寝ころびながら、そんな冗談を言って笑う。ラリーさんのことも屋根の上にあげて、みんなで屋根の上で座ったり寝転んだりした。またピートさんに怒られてしまったり、行儀が悪いのかもしれないけれど、楽しかった。


 このまま家の中が落ち着くまで、ここで待っていようかとノアが言ったけれど、ラリーさんが思い出したように、私に向き直って言った。


「そういえば、女神に会いに行くと言っていたんじゃないか?」


「そうでしたね、……忘れていました。」


「べつに放っておいても、いいんじゃないか?用があるなら向こうから来ればよい。」


「ディアさんは、水の所以外行けないらしいです。たしか聞きたいことがあるって言ってました。ちょっと行ってきます。」


「それなら、みんなで行こう。アビーも、嫌がらんと聞いてくれ。エミリアが初めて泉に行った時の話しは聞いただろう。思ったんだが、自ら泉に行ったのか、呼ばれたのか分からんのだから、その泉に転移の石を置いたらいいんじゃないか?そうすれば、不本意に呼ばれても帰って来られる。」


「なるほど!やはりそなたは天才なのじゃ!名案じゃ!今すぐ泉に行こう!迷惑な女神とやらめ!みておれ!我が娘を誘拐するなぞ、許さぬ!」


「誘拐?ではないと思いますよ。……たぶん。それに、あそこは確か、メイさんが神聖な場所って言ってましたよ?勝手に置いたらおこられませんか?」


「人族にとっては、あれはただの石であろう。問題ない。邪魔にもならん。」


「……そうしたら、ディアさんが良いって言ってからにしましょう。どこかお邪魔にならない所に、こっそりなら良いかもしれません。」


 話がトントン拍子にすすんで、急遽今からディアさんの所に行くことになった。ラリーさんが袋から雲を出して屋根の上から雲に乗り移ると、みんなで森の奥の泉に向かうことにした。


 アビーさんが屋根を名残惜しげに見ながら、あの屋根が欲しいと言うので、ラリーさんが構造を教えてもらってから作ると言っていた。もしかしたら、荷馬車の屋根があのマフッとした屋根に変わる日が来るのかもしれない。それは、とても楽しみだった。

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