表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/174

51.おかえり、おやすみ

 長い岩場をぬけて学校を出てから、先生が卒業遠足の終わりの挨拶をすると、そこで解散となった。みんなにお別れの挨拶をして、それぞれが家路に急いだ。私達もみんなと同じように、自然と急ぎ足になっていた。メイさんの家が見え始めると、家の玄関からちょうど、メイさんが外に出てきた所だった。


「あら、おかえりなさい。ずいぶん遅かったのね?今ちょうど学校を見に行こうと思っていたの。」


 メイさんは私達があんまり遅いので、心配になって学校に行こうとしていた所だった。メイベルさんが楽しかった卒業遠足の話しをしながら、みんなで家の中に入る。メイさんがお茶を淹れようとしたその時、ピートさんがテーブルの上に、花輪がどっさりと入った大きな籠をドンッと重そうに置いた。


「はあ~重お~。手が痛ええ。花って重いんだな~。初めて知ったわ。」


「え?なにそれ?どうして花輪がこんなに?」


「あ、貰ったんです。花輪ってどれも綺麗ですよね。サビンナではこの花輪をこの後どうするんですか?なにかに使ったり、お部屋に飾ったりしますか?」


「え?ああ、うん、そうね。飾ったりするわね。約束の花だから、一生大事にするって聞いたことはあるわね。でも、こんなに?えっと、……どうして?」


「はい……、とても1つを選べなくて、みなさんが一生懸命作った花輪なので、全部貰うことにしたんです。」


「え?どうゆうこと?全部?貰ってもいい物なの?え?……誰にするの?」


「もお~、ママったら。記念に貰ったんだよ。記念!エミリアさんだよ、みんなあげたいに決まってるでしょ。それより見て、私が作った花輪、すっごく可愛いんだから!」


 まだ腑に落ちない様子のメイさんをおいて、メイベルさんが籠の中をゴソゴソして、自分で作った花輪を探し始めた。


「やだあ~、なにこれ~?花輪に混ざって、なんか変なのが入ってたよ。誰がこんな……」


「あ、それ、私が作った花輪です。先生に作り方を教わったので、私も花輪を作ってみたんだけど、ちょっと歪んじゃって。」


「「「……え?……花輪?」」」


 みんながゆっくりと私の花輪を二度見した。その姿がみんなそっくりな動きをしていて、家族や親戚は本当に仕草がそっくりに似るんだなと感心してしまう。


「エミリア、この花輪なんだけど、今から荷馬車の部屋に置きに行ったら、このまま綺麗な状態で保管できるんじゃないかなと思うんだけど、今から持って行かない?」


「そうだね!すごくいい考え!すぐに持って行こう。」


 そのまま大きな籠を持って行こうとすると、メイさんが籠を3つ用意してくれて、手分けして持って行くことになった。もうすぐ晩ごはんなので、置いたらすぐに戻ってくるようにと言うメイさんの声が台所から聞こえた。


 メイさんの家を出ると、もう夕暮れ時になっていて、三人で荷馬車への道を急いだ。森の入口に停めてある荷馬車が見えてくると、そこには、よく見慣れた人影が見えた。


 会いたくて、会いたくて、会いたかった二人は、私達に気づくと、両腕を広げて迎えてくれた。私は迷わず走ってアビーさんに飛び込んだ。ノアもラリーさんに堪らずに抱きついていた。


「おかえりなさい。おかえりなさい。二人ともおかえりなさい。」


「おお、ただ今戻ったばかりじゃ。二人とも、変わりなく息災であったか?」


「二人とも元気にしておったか?変わりはなかったか?めしはちゃんと食っておったか?」


 やっと会いたかった二人が戻ってきてくれた。ラリーさんは健康的にこんがり日焼けしていた。アビーさんは変わらずとても美しい美魔女だった。


「おじい様、ずいぶん日焼けしましたね。どこに行っていたんです?」


「おお、ちょっと海の方まで足をのばしてな。まことにあの海の美しさときたら、二人にも見せてやりたかったわい。いつか連れて行ってやろう。まあ、ほとぼりが冷めた頃にな。」


「ほとぼり?二人は何をしていたんです?素材を取りに行くと言っていましたよね?」


「もちろん!妾達は、極上の素材を引っこ抜いてきたぞ。深海の、極上の一品じゃ!ラリーが予定より日が経っていると言うのでな、加工する前に、そなたらの様子を見に来たとゆう訳じゃ。二人が元気そうで何よりじゃ。妾達は一旦工房に戻るが、そなたらはどうする?」


 どうするのか話し合う前に、ノアが籠の花輪を先に部屋に置いてくると言うので、ラリーさんに手伝ってもらって、荷馬車の部屋の中に籠を持って行った。


「アビーさん、私二人がいなくてすごく寂しかったです。メイさんもメイベルさんも優しくて、学校は楽しかったんですけど、二人に会いたいなって、何回も思いました。」


「な、な、なんと可愛いことを言ってくれるのだ!娘とはこんなに可愛らしいものなのか!?可愛すぎんか!?妾も、妾も会いたかったぞ!エミリア!愛い奴め!」


 アビーさんが私の手を取って高く浮かび上がった。そのままぐるぐると回る。なぜか頭の中に、遊園地とか、メリーゴーランドとゆう言葉が浮かんだ。とても楽しそうだった。アビーさんは凄く嬉しそうに楽しそうに、あはははと笑いながらどんどん加速していった。


 もう今はぐるぐるもの凄い速さで回転していて、なぜか今度は頭の中に、絶叫系とゆう言葉が浮かんだ。本当にその言葉のまま絶叫しそうな速さだった。楽しいから恐怖に変わってきた頃に、どこかでノアの叫び声が聞こえた気がした。


「あ、アビーさん、とても速っ……、すごく、……ちょと、とまっ……」


 止まってと言い終わる前に、私の手の力が抜けて、すぽっと手が離れてしまった。なぜか頭の中に、遠心力とゆう言葉が浮かんだんだけど、たぶんこれはそれどころじゃない事態だと思う。ブンッと飛ばされながらも、アビーさんがまだ、笑いながらぐるぐる高速回転している姿が見えた。


 このまま森に落ちて、グシャッとなる想像ができた時に、なにかが私にぶつかる勢いで飛んできた。……ノアだった。ノアが私に空中でしがみついていた。


 背中に違和感があって見ると、クロが私の服を足で掴んでいた。クロと目が合うと、フンッと大きく鼻を鳴らしてから、服を掴んでいた足を離して飛んで行った。たぶんカラスのクロでは、私を持って飛ぶことは出来ないと思うんだけど、助けようとしてくれたようだった。飛び去って行くクロの姿を見ながら、でもクロだし、あの筋肉質な足だし、いけるのかもしれないとも思う。


 クロから、がっしりと抱きついたままのノアに視線を移すと、泣いているのか、鼻をすんすん鳴らしていた。高い空の上にいるままで、ノアに声をかける。


「……ノア?大丈夫?……今一人で飛んできたよね?すごいよ。私に触れていなくても、飛べたんだね?やった!もう、これで……、熱い、ノア、すごくノアの体が!ノア、熱があるみたい!」


 ノアはなにも言わないまま、まっすぐゆっくりと地面に着地して、そのまま気を失って倒れてしまった。ノアの体がもの凄く熱くなっていって、しゅうしゅうと熱を放っているように見えた。


 地面に着地してノアが倒れてからすぐに、アビーさんとラリーさんが駆けつけてきた。ノアの様子を確認すると、アビーさん達がノアを荷馬車まで運んで、サビンナの森の入口付近に笑った顔の石像を設置すると、ピートさんに事情を説明してから、ラリーさんがノアを抱いて、アンドレさん達が眠るご神木の家に戻ってきた。


 ノアと私の部屋のベッドにノアを寝かせて、私達は祈るようにノアの回復を待った。そにまま何日か過ぎて、立ち上るような体の熱がひいても、ノアは眠ったままで起きなかった。何度眺めたか分からないノアのキレイな寝顔を、ジッと何時間もずっと見つめていた。


 ふといつかの朝のことを思い出して、ノアのおでこに触れた。はやく元気になって、はやく起きてきて。髪を分けるようにおでこを撫でて、ノアのおでこにチュッとキスした。ゆっくりと唇を離した瞬間に、パチッとノアと目が合った。


「ノア!!起きたの!?今!?前から!?アビーさん!!ラリーさん!!ノアが!!起きました!!」


「……僕は?どうしたの?なにが?」


 説明しようとすると、私達の部屋にアビーさんとラリーさんが飛び込んできた。二人とも一遍にノアに抱きついて、ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、良かった良かったとむせび泣いている。私もやっとホッとして、つられたように涙が流れた。


 しばらく呆然と成り行きを見ていたノアが突然思い出したのか、顔つきが変わって、部屋の温度がメラッと上がった気がした。ノアがとても低い声をだす。


「おばあ様、エミリアに危ない事はしないでくださいと、あれほど言いましたよね。」


 それからノアのとても怖い、長いとても長いお説教が始まった。アビーさんが見たこともないほど、シュンと項垂れている。あまりにも、と思って声をかけようとすると、口にシーッと指をあてたラリーさんに部屋から誘い出された。


 部屋を出てホールに出るとラリーさんがお茶を飲もうと言って、一緒に食堂に向かった。お茶を淹れてくれながら、ラリーさんがクッキーや焼き菓子を出してくれた。


「エミリア、まず食べなさい。何日もろくに食べておらんだろう。お前さんの方が倒れてしまうぞ。ノアはもう大丈夫そうだ。」


「はい。でもラリーさん、アビーさんが凄く怒られていますよ。すごく元気がなくなっていたし、もうノアを止めてあげた方がいいんじゃないですか?」


「それは、ゆっくりお茶を飲んでからにしよう。今回アビーはたっぷり怒られた方がいいんだ。ノアも気が済むまで怒りたいはずだよ。まずは美味しいお菓子の時間だ。」


 そうして、私はラリーさんと美味しいお茶を飲みながら、サビンナでの話や学校の話しをしながら、甘いお菓子を二人でたっぷりと食べた。ラリーさんが焼くお菓子はいつも優しい味がして、とても美味しい。


「さてと、そろそろ行こうか。もういい頃だろう。」


 ラリーさんがそう言って、また二人で食堂を出て、ノアと私の部屋に向かう。部屋の中が、今度は凍えるように寒かった。ノアはベッドに座っていて、アビーさんは床に座っている。なぜか頭の中に、正座とゆう言葉が浮かんだ。とても窮屈そうな座り方で、アビーさんはとても体が柔らかいと思う。


「二人とも、もうそろそろいいんじゃないか?アビーはとても反省しているようだ。そうだろう?」


「いや、妾は、まだ反省が足りぬ。エミリアがとんでもなく危険に陥ったのだ。妾のせいじゃ。エミリアのあまりの愛らしさゆえに、我を失っておった。失態じゃ。」


「アビーさん、もういいんですよ。私も手を離してしまったのがいけなかったんです。ノアも、もうそんなにアビーさんを怒らないで。仲直りしてほしいの。」


「エミリア、でも、……分かった。もう怒るのはおわりにする。おばあ様、二度目はありませんよ。エミリアに危険なことをしないでください。」


「分かった。妾は肝に銘じるのじゃ。……それにしても、そなたの体はもういいのか?何日も眠っておったのだ。」


 アビーさんが途端にふつうに戻って、空中に浮いた。足を組んで手を頭の後ろに回してノアを覗き込んだ。そしておもむろにノアの手を取って、ジッと見つめる。


「ふむ。籠っていた魔力が、少し通るようになったようじゃ。だが総てではない。」


 アビーさんが離した自分の手を見つめると、ノアがなにか不可解そうな顔をしている。ベッドから立ち上がろうとすると、かくっと膝をついて、床に手をついた。またメラッと部屋の温度が上がった。


「……なんですか、この魔力は!多すぎませんか?こんなの急に制御できません!」


「多すぎると言われてもなあ~。そなたの魔力ではないか。そなたがなんとかせよ。心配せずとも、じきに慣れるであろう。」


 ノアがキッとアビーさんを睨んだあと、はあ~とため息を吐いた。顔を上げるとラリーさんの方を向いて、苦しそうに呟いた。


「……くっ!おじい様、なにか作ってください。これは、いくらなんでも……。」


そう言うとノアはベッドに入って横になった。目を瞑って苦しそうな姿が痛々しい。私は慌てて、ノアの側にかけ寄った。


「総てではないのか……、まあそのうち慣れるんだろうが、よいよい、ちょうど今は極上の素材が揃っているのでな。なにか作ろう。エミリアの分もあるしな。しばらく待っている間は、安静にしておやすみ。」


 それからノアは、ほとんどをベッドの中で過ごして、私はノアのお話相手係をしながら、ラリーさんが地下の工房で新しい道具を完成させるのを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ