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50.卒業の遠足 2

 お天気も良くて、絶好の卒業遠足日和だった。お花畑に到着してすぐに、大きな石を丸く高く積んだ石碑をみんなで囲んで、サビンナの集落のみなさんが熱心に祈っている。あんまり集中しているので、これは何をしているのか、聞ける雰囲気ではなかった。ノアとピートさんも一緒になって、頭を下げて静かにしていた。


 しばらくすると先生のお話しがあって、それぞれの家族が、思い思いに過ごす自由時間になったようで、私達もお花畑を見てまわることにした。広々とした野原のような場所で、見渡すかぎりお花畑が続いている。いろんな種類のいろんな色の花が一度に同じ場所に生えていて、見惚れるほど綺麗で良い香りに包まれていて、歩いて見てまわるだけでも、すごく楽しい。


 子供達が走り回って遊んだり、大人達は楽しげにお喋りしたり、ここにいるみんなが、この場所をそれぞれに楽しんで過ごしていた。先生の合図で、みなさんがなんとなく集まってきて、それぞれお昼ごはんの時間になった。ピートさんが待ちに待ったごはんの時間に喜んでいる。


「それにしても、メイさんが作ってくれたお昼ごはんもあるから、4人では食べきれないね。」


「そうだな、そのジェイドって子は、どの子だ?祝いに肉のサンドイッチを分けてやろう。」


「ジェイドくんは……、あの人だかりの真ん中の子。晴れ着を着てるあの男の子。」


「うし。じゃあ、ちょっと渡してくるわ。いくつか先に貰ってくぞ。」


 ピートさんがサンドイッチを渡しに行ってくれている間に、三人でお昼ごはんの用意をする。籠には飲み物も入っているし、メイさんが作ってくれたシロップをクレープみたいな薄い生地でくるくる巻いた食べ物も、とてもいい香りがして美味しそうだった。


「エミリア、ここに敷物を敷いたから、この上に座って。冷たいジュースも持って来たんだけど、温かいお茶とどっちがいい?」


 みんなで座ってお弁当を広げて、メイさんが食べる前のお祈りを終えた所で、ピートさんが帰ってきた。メイさんが作ってくれたようなクレープの包みを抱えている。


「ピート、減らしに行ったのに、どうしてまた貰ってくるんだ。また増えただろう。」


「うっせ。付き合いとは、そうゆうもんだ。俺は腹ペコなんだ。いくらでも食う。」


 みんなで楽しくお弁当を食べ始める。メイさんが作ってくれたクレープは、シロップがたっぷりと入っていて、甘くて薄い生地がもちっと柔らかくて、とても美味しい。


「ノア、メイさんが作ってくれたクレープはもう食べた?とっても美味しいよ。」


「このサンドイッチ、とっても美味しいね。食べたことない味だけど、野菜もいっぱい入ってるし、この白いソースがすごく美味しい。」


「そのソースはエミリアが気に入ってるんだ。コクがあって酸味もあって、野菜に合うし、美味しいよね。」


「肉だ!!肉の味だ!俺はこのタレのサンドイッチをいくらでも食える。全部でも食う!」


 みんなでお喋りしながら楽しくお弁当を食べていたら、あっとゆう間に、あれだけあったサンドイッチやクレープが全部無くなってしまった。全員が食べ過ぎて、みんなで仲良く横になった。


「やべえ。苦しい。食べ過ぎた……。しばらく動けん。」


「はあ~。お腹いっぱい。見て、エミリア。空って寝転がって見ると、凄く広いと思わない?綺麗だねえ~。」


 しばらく横になってお喋りしていたけれど、ピートさんとメイベルさんがスヤスヤ寝息を立てて眠ってしまった。私は眠れなくて、座って幼精達の踊りを見ていた。お花や草や木の色と同じ色をしていて、いろんな色の子達がいる。みんな仲良く機嫌が良さそうにしていて、ここはとても幸せな場所に思えた。


 近くにいた緑色の子を撫でると、それに気づいたのか、そこらにいた幼精達が私に撫でてもらう為に群がって来てしまった。可愛く戯れてくる幼精達が、とても愛らしい。膝の上で撫でていたら、交代に順番になって座ってくる様子が面白くて、とても可愛い。


 お弁当を食べ終わった子供達がまた、走り回って遊んでいる。そう思って見ていると、みんな走り回って綺麗なお花を集めてまわっているようだった。


「メイベルさん、もうみんなお花を集めてまわってるみたいだよ。」


 私のその言葉に、微睡んでいたノアまでガバッと起き出した。メイベルさんは一瞬でスクッと立ち上がる。


「私としたことが!私が!一番可愛い花輪を作るんだから!」


 ノアとメイベルさんがピューと飛ぶように走って行ってしまった。ピートさんがのそのそと起き出して、ふわあ~と欠伸をしながら頭をガシガシ掻いた。


「エミリア、ごめんな……。」


 手際よく敷物の上を片付けながら、ピートさんがなぜか申し訳なさそうに、なにかを謝ってきた。


「俺が、サビンナに来たいって言ったから……、ここは、狭い集落だからな。珍しがられても、仕方ないんだけど。いつもあんなに見られてたら、そりゃ、嫌になるよな。ノアもイライラしてたし。田舎の村は、そうゆうとこあるんだよ。ここは閉鎖的ってゆうか。悪気はないと思うんだけど……。なんか、エミリアに見とれてるって感じだし。はあ~、シロップは確かに美味いけど、粥ばっかりだしな。ホントに、ごめん。今度はもっと、賑わった町にするから。」


「見られてる?って、なんのこと?」


 ピートさんがなにを謝っているのか、よく分からないんだけれども。いつも見られてる?誰に?不思議すぎて、首を傾げてしまう。


「ええ?マジか!?なにも……?気づいてない?……マジで?アレを?全部?」


 ピートさんがもの凄くなにか驚いているんだけど、サビンナは良い集落だし、このお花畑は幸せになるくらい綺麗だし、お粥はいつも美味しいし、なにか嫌なことがあるかな?あ、でもノアがイライラしてるって何のこと?


「ノアがイライラしてるって何のこと?」


「え?いや?それは……、さあ?……気のせいかな?」


「お粥はいつも美味しいし、サビンナは広くないけど、良い集落だよね。」


 ピートさんがなんとも言えない、困惑したような顔になってしまった。ああとか、うんとか言いながら、花を探しに行くと言って、みんなの所に行ってしまった。ピートさんを見送っていると、先生が作りかけの花輪を持って近づいて来ていた。


「今みなさんに花輪の作り方を教えてまわっているんですよ。見てくださいね。これをこうやって、こうして、ですね。そうしてこう繰り返しです。簡単でしょう。では、綺麗な花輪を作りましょうね。」


 先生が花輪の作り方を教えてくれて、また次の人に教えに行った。花輪の作り方は意外と簡単で、もう覚えてしまったので、私もお花を集めて花輪を作ることにする。綺麗なお花をすいすい編んでいく。編んで輪に、お花を編んで輪っかに……。


 でき上がったのは、なぜか、いびつな形のお花で出来た玉だった。なぜお花の玉が?輪っかを編んだつもりだったのに、私の手の中には、でろんとしたお花の玉がある。


 不思議に思ってしばらくそのお花の玉を見ていたんだけど、ふと、たま、の事を思い出した。女神のディアさんが、たま、を出してと言ったのは、この玉のことかなと思った。この玉はいびつな形だけど、この玉を手に包み込んだら、ちょうどディアさんが言っていた手の形になるような気がする。柔らかなお花の玉を優しく手の中に包み込んでみた。


 このお花の玉がもう少し大きければ、ディアさんが言っていた形になりそうだった。この形はなんの形なんだろう。今この手の中にあるお花の玉がなかったとしたら、なにを包み込むんだろう。私の、この手の中に、丸い……、丸くて、キレイな、これぐらいの大きさの、私の……。


「エミリア!見て!私の花輪!すっごく可愛いでしょ!白と黄色ばっかりにしたんだよ。可愛いでしょ~。」


 考え事をしていたので、メイベルさんの声にハッと我に返る。とても集中していて、お花畑にいることを忘れていた。今一瞬別の場所にいたような気さえした。


「わあ~。とても綺麗。それにとても綺麗な輪っかになっているし、とっても上手だね。」


「でしょ、でしょ。私の花輪が一番可愛いはず!あっちでみんな花輪を編んでるんだよ。向こうに一緒に行こう。エミリアが一番を選ばないと!」


 メイベルさんと手を繋いで、みんなが花輪を一生懸命に編んでいる場所に到着すると、みんなそれぞれ集中して花輪を編んでいた。ノアも端にいたので、隣に座る。ノアが編んでいたのは、なんとゆうか花輪とゆうより花冠といった感じの、豪華で凄く緻密な花輪だった。本当にノアは器用だと思う。ノアの器用な手先をジッと見ていると、手が止まった瞬間にノアがその花輪を私の頭に被せてくれた。


「綺麗だ。エミリア。……とても綺麗だ。美しい。」


 眩しいような顔をしたノアにうっとり見つめられる。周りからもほう~とノアと同じようなため息が聞こえた気がした。ノアがいつまでもずっと見つめているので、さすがにちょっと恥ずかしい。


 顔がだんだん赤くなっていくのを感じる。手を頬にあてると、またほう~とため息が聞こえた。目の前のノアを見ると、ノアの顔も赤い気がして、その頬にそっと触れてみた。


「ノア、私、気が付かないかも知れないから、ノアがなにか嫌な事があったら、教えてね。我慢しないで。ノアは私の大事な半分ずつの友達なんだよ。教えてくれるって、約束してくれる?」


 頬にある私の手に自分の手を重ねて、ノアが泣きそうな顔になってしまって、すぐには言葉がでてこない。私はノアと見つめ合ったまま、ノアの言葉を待った。


「……エミリア、僕の半分。僕のエミリア。……思いのままに。エミリアの思いのままに、僕は、なんでもする。なんでも、約束するよ。」


「なんでもは、だめだよ?」


 思わず少し笑ってしまった。なんでもなんて言ったら、私がもしとんでもない我儘を言ってしまった時に、ノアが困ってしまうよ。ノアがまた眩しそうな目をして笑った。ふたりで見つめ合って、笑い合う。


「ああ~、うん。ゴホンッ、ゲフンッ、お二人さん?……いいかな?ハイッ!解散!エミリア、みんなの花輪が出来てるみたいだから、選ぶんじゃないのか?選ぶんだよな?はいっ!並んで!」


 ピートさんがパンッと手を叩いて、花輪を持った子供達を並ばせていく。たしかノアとメイベルさんとジェイドくんの中で、一番綺麗に花輪を作った人を選ぶ予定だったと思うんだけど、なぜか子供達全員が並んでいた。学校で見覚えのない人も何人も混ざって並んでいるようだった。


 みんなが真剣な顔で、私を見つめている。ジェイドくんも緊張したように、花輪を両手で持っている。いつの間にかノアも並んでいた。花輪は私の頭の上にのせたままなので、手ぶらだった。


 本当に、本当に、本当に困った。みんなそれぞれ真剣に花輪を作ったことが分かるし、どの花輪もそれぞれ綺麗だし、選べなくて、泣き出して逃げ出したい気分になる。心底困った顔をしているのが伝わったのか、先生が助け船をだしてくれた。


「ええと、みなさんとても綺麗に花輪を編んでいますね。すべて素晴らしいです。どれもが一番で、エミリアさんも選べないでしょう。どうでしょう、すべてが一番なんですから、希望する人の花輪を、すべてエミリアさんに貰ってもらうとゆうのはいかがでしょう。綺麗な花輪をエミリアさんのご尊顔に、それぞれみなさんが作った花輪を戴く栄誉を賜るとゆうのは、いかがでしょうか?」


 先生の難しい話しに、そこにいる全員から拍手が沸き起こった。選ばなくてもよくなったようで安心していると、なにかのイベントが始まってしまった。長蛇の列に並ぶ人と、花輪を受け取って私の頭に被せる係の人と、花輪を外して籠に入れる係の人がいて、ノアは私のすぐ隣にいて、花輪で乱れた髪を直す係の人になった。

 

 これは、ちょっと大袈裟なんじゃないかと思うんだけど、花輪をくれる人と、少しずつお話しできるのが嬉しかった。ジェイドくんにも、ちゃんと今までの勉強の労いとお祝いを言えたので、本当に良かったと思う。


 たくさんの花輪を籠から溢れるぐらいに貰うと、先生の最後の挨拶を聞いて、みんなで帰り支度を始めた。いつもより遅くなってしまったようで、みんなが慌ただしくしている。

 

 また岩場に入る前に、お花畑を振り返ってみると、この場所から離れるのが、とても寂しく思えた。いつまでも、いつまでもこの場所が、このままであってほしいと願わずにはいられなかった。

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