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49.卒業の遠足 1

「僕も今日から学校に行こうと思う。」


 いつものようにみんなで朝ごはんを食べていると、突然ノアがそう宣言した。全員が言葉の意味を考えていたのか、しばらくの間、沈黙の時間が流れた。


「ノアはもう学校に行かなくてもいいんだよね?」


「うん。一度断られているんだけど、もう一度、話してみる。だから今日はエミリアと一緒に学校の中に入るよ。僕は教室じゃなくて、先に先生の部屋に話しに行くけどね。」


「よく考えろ?もう学ぶ事がないんだぞ。話したからって、認められるわけないだろ。学校ってなにする所か知ってるか?」


「ピートは黙っててくれる?僕はよく考えてみたんだけど、学校に行ったことがないし、その辺の話しをしたら、いけそうな気がする。」


「いけるか!無理矢理とおす気か?やめとけ!先生達が気の毒だ。」


「僕はもういい方法を思い付いた。ずっと我慢する必要はない。」


 朝ごはんを食べている間も、ずっとノアとピートさんが話し合いをしていた。結局、決着は付かなかったみたいだけど、いつものようにノアも一緒に学校に向かって歩いた。途中でノアが小声で説明してくれた。


「エミリア、僕が一緒に学校で学ぶことになってもいい?実は思いついたんだけど、同じ教室にいて、エミリアの隣にくっついて座っていたら、魔法の練習ができるかなって思ったんだよね。ついでに自分で勉強すればいいし。」


「なるほど!そうだね。すごく良い考えだね。先生達に認めてもらえたらいいのに。私も一緒にお願いしようかな。」


「ううん。僕だけで話してくるよ。エミリアは教室で勉強していてね。おばあ様に約束したんでしょ。」


「そうなの。私、一生懸命勉強するって約束したんだった。今日も頑張らないと。」


 学校に着くと、ノアがひとり先生の部屋に向かう。、私とメイベルさんも教室に入って、いつものようにそれぞれの勉強を始めた。学校に通うようになって、もう何日も過ぎているのに、私はメイベルさんが初日に覚えてしまった所までまだ到達していない。メイベルさんはもう算数の勉強も始めている。


 今日も一生懸命集中して頑張ろうとペンを握りしめて書き始めていると、先生とノアが一緒に教室に入ってきた。ノアがとても機嫌が良さそうに笑っているので、学校に来る事が認められたのかもしれない。なぜか先生は疲れた表情をしていた。


「……みなさん、今日から一緒に勉強することになりました。ノアさんです。先生のお手伝い?もしてもらうかも?しれませんけど。みなさん仲良くしてください。……席はエミリアさんの隣です。……ええと、ごめんなさい。ジェイドくんと、ダレンくんは席を移ってください。ごめんなさいね、今日からこっちで勉強しましょう。」


 私の両隣りに座っていた男の子達が席を移っていった。それと同時にニコニコしながらノアが私の隣にピタッと椅子をくっつけて座った。


「ノア、学校に通えるようになって、良かったね。これからよろしくね。」


「ほんとに、諦めないでいて良かったよ。教室の席はそうなっていたんだ。メイベルさんの隣じゃなかったんだね。」


「メイベルさんはすごく先まで進んでるんだよ。算数の人はあっちの席なの。私はまだまだ追いつかないんだ。」


 ノアが一緒に学校に通えることになって、また何日か過ぎたある日、先生が改まってみんなの前で話をした。


「みなさん、もうお昼になります。今日の勉強はここまでです。そして、聞いてください。ジェイドくんが今日で勉強が終わりました。ですから、明日は卒業遠足になります。みんなで花畑に行きますから、いつもより早く学校に来てください。みなさん、ジェイドくんの頑張りに拍手をしましょう。」


 パチパチパチとみんなで拍手して、それぞれジェイドくんにおめでとうと言い合った。帰り道にメイベルさんに聞くと、サビンナの学校では、自分の学びたい所まで学んで、先生に合格をもらったら、卒業遠足をして、学校はお終いになるらしかった。残念ながら、私にはまだまだ先の事に思えた。


「エミリアさん!」


 後ろから呼び止められたので振り返ると、ジェイドくんが息を切らしていた。走ってきたようで、真っ赤な顔をしている。


「あ、明日の、卒業遠足にくる?」


「うん。行くよ。ジェイドくんの卒業遠足だよね。おめでとう。」


「ありがとう。……それで、明日の、は、花輪なんだけど、もし僕が作ったら、貰ってくれる?」


「花輪?花輪って、お花で作る輪のこと?作ってくれるの?もちろん……」


「待って!ちょっと待って!ジェイドくん、エミリアは花輪のこと知らないんだよ。エミリアも、簡単に貰っちゃ、……見たいわ!花輪をかぶったエミリアをすごく見たいわ。……いいんじゃない?記念にもらいましょう。ただの記念で!」


「エミリアの花輪は、もちろん僕が作る。僕が一番綺麗に花輪を作るよ。」


「ノアは、花輪がなにか知ってるの?」


「いいや、知らないよ。」


 ノアが知らないものを一番綺麗に作ると言っていたけど、賑やかな話し合いの結果、明日の卒業遠足で、一番綺麗に花輪を作った人が私に花輪をくれる事になった。花輪って、たぶんお花で作った花輪だと思うんだけど、先生が作り方を教えてくれるらしいので、私も作ってみたい。明日がとても楽しみになった。


「ね、エミリア。明日は私が一番可愛い花輪を作ってあげる。楽しみにしていてね。」


 メイベルさんも張り切っていた。家に帰ってから、花輪のデザインのことでメイさんと盛り上がっていた。明日は家族で参加してもいいそうなので、ピートさんも卒業遠足に参加する事になった。明日はお弁当を持って行って、みんなでお花畑で食べるらしい。楽しみでワクワクして、なかなかベッドに入っても寝付けなかった。


「エミリア、起きて、そろそろメイさんの家に行ってないと、遅れるよ。」


「……美味しそうな香りがする……」


 起き上がると、なにか美味しそうな良い香りが部屋に漂っていた。そういえば、ノアがお弁当を作りたいと言って、昨日は荷馬車の部屋で寝たんだった。


「サンドイッチを作ったよ。エミリアが好きな白いソースを入れたんだ。あとお肉も入れたんだよ。僕は久しぶりに料理ができて凄く楽しいよ。エミリア、これからはたまにでもいいから、こっちで寝ようよ。」


 昨日はお花畑のことが楽しみすぎて、なかなか寝付けなかったので、まだまだ眠たくて頭がぼんやりしている。ノアが楽しそうで、良かった。


「ノアが楽しいなら、良いと思う。」


「やった!じゃあ、急いで支度しようね。遅れないように、まあ、遅れたら飛んで行けばいいよね。」


 荷馬車の部屋を出ると、クロが待ち構えていた。クロに卒業遠足の事を話して、一緒に行こうと誘ったけれど、ギャッと短く鳴いて飛んで行ってしまった。たぶん断られたんだと思う。残念。ノアと歩いてメイさんの家に着くと、家の前でメイベルさんとピートさんが外に出て待っていた。


「あ、今迎えに行こうと思ってたんだ。弁当は持ってきて……ないな?」


「いや、持って来た。鞄に入れてある。」


 ノアがいつも腰に巻いてある小さな鞄を指さしながら教えると、ピートさんが嫌そうに顔をしかめた。


「そんな所から弁当が出てきたら、みなさんがビックリすんだろ。こっちの籠に全部入れろ。そしてお前が持て!忘れたのか?俺は常識担当なんだよ!さっさと出せ。」


 ノアも嫌そうに鞄の中からお弁当を出した。たくさん入っているから、全員分を作ってくれたんだと思う。大きな籠がいっぱいになった。


「おっも!重いだろ。多過ぎんだよ。こんなに誰が食べるんだ。」


「いいか、ピート。このサンドイッチには肉が入っている。大量にな。貰ったタレで肉を焼いたものを、そう大量に入れてあるんだ。重いだろうな。」


 なぜかピートさんがビクッと体を震わせて、わなわなと震えながら、籠いっぱいに入ったサンドイッチの包みを凝視する。


「ノアさま。すみませんでした!俺が食べる!粥以外のものが食える!今日はなんて良い日だ!この籠は俺が持つ!」


 ピートさんも今日の卒業遠足が楽しみなようだった。メイベルさんとピートさんと、4人共それぞれがワクワクして、話しながら学校に向かって歩いた。学校の前には人だかりができていた。家族で参加する子供が多くて、お父さんやお母さんと一緒でみんな嬉しそうにしていた。


 先生が学校の中から出てくると、今日の挨拶と簡単に今日の説明をしたようで、最後に拍手が起こった。一番後ろにいたので、見えにくかったけれど、先生の横でジェイドくんが誇らしそうに笑っていた。先生のお話が終わると、みんなが続々と学校に入っていく。


 なぜ今から学校の中に入るのか不思議にだったけれど、謎はすぐに解けた。先生の部屋をぬけた通路の先のカーテンを捲って、塞いでいた大きな板をどけると、大きな岩が現れた。岩と岩の間に細い道が通っている。大人一人がやっと通れるぐらいの幅で、一人ずつ前の人に続いて、歩いて進んでいく。


 大人の人達は平気そうにしているけれど、暗い狭い岩の道は、子供達には怖くて、みんな家族と手を繋いで歩いていた。暗い道を前の人と距離をあけないように、えんえんと歩いていくと、洞窟に出たようで道が広くなった。所々に松明の明かりが付けてあって、さっきよりも明るくなったけれど、想像していた遠足の道とはだいぶ違っているように思えた。


 洞窟の中のどこかで川がながれているのか、水の音がしていた。みんなが静かになって黙々と歩いていると、列の前の方でワッと歓声が上がった。少し早歩きになって歩いて行くと、大きく折れ曲がった道をぬけた所で、外の光が見えた。岩を登るように外に出ると、そこには広いお花畑が広がっていた。


 色とりどりのお花に幼精達が群がってたくさんいて、サビンナに来てから初めてみる、開けた広い場所だった。長く暗い場所にいたので、よけいに眩しくて、神々しいほど美しいお花畑だった。


 辺り一帯には甘い蜜のような、花のような香りが漂っていた。幼精達は木に括り付けたバケツの周りと同じように、くるくる回る独特な踊りを、あちこちそこら中で踊っていて、ここがサビンナの集落の人達にとっても、幼精達にとっても、特別な場所なんだなと思った。

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