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48.勉強は大変でも楽しいよ

「ああ、この文字が逆になっていますね。こっちにくるんじゃなくて、こっちに側にぐるん。そうそう。間違えないようにね。もう一度、初めから。」


 一生懸命に教科書を見ながら、何回も文字の練習をしているけれど、なかなか思うようには進まなかった。隣に座るメイベルさんは、次々と合格をもらって、私のはるか先に進んでいた。


「はい。みなさん、もうすぐお昼ですよ。今日の勉強はお終いです。また明日勉強しましょうね。しっかり復讐してくるように。寄り道してはいけませんよ。遊ばずにまっすぐ帰ること。では、みなさん、さようなら。」


 先生に挨拶して教室から出て、メイベルさんと手を繋いだ。学校の玄関を出ると、すぐ目の前にノアが座って待っていた。


「エミリア、学校はどうだった?楽しかった?」


「それが、あんまり進まなかったの。私、たくさん復習しないと。でも、メイベルさんは凄いんだよ。もう半分まで進んで、先生もたくさん褒めていたの。ね?」


「うん、まあ。でもエミリアも丁寧に書いてるって褒められていたよ?」


「そうだった?集中していたのかな?それは聞いてなかった。すごい!私すごく集中できたいたんだね?」


 ノアとメイベルさんと、メイさんの家に急いだ。すごく賢くてたくさん褒められていたメイベルさんの事を、メイさんに早く教えてあげたい。家に帰るとピートさんは糸とゆうのを紡いでいた。


「いや~またこれ、やらされるとは思わんかったわ~。永遠に終わらんから面倒臭いんだよなあ~。」


 メイさんは出来上がった布製品を届けに行ったそうで、家にいなかった。メイさんはいろんな頼まれた物を縫う仕事をしていて、とても綺麗になんでも早く縫えるので、仕事の依頼が後を絶たなくて、いつも忙しく縫い物をしているそうだ。


 私もピートさんのお手伝いをしたかったけれど、強行に止められてしまった。やってみたかったけれど、商売道具を子供が触ってはいけないらしい。メイベルさんもそう言っていた。


「あ、もう帰って来てたのね?すぐごはんにするから、待っててね。」


 待っててと言われたけれど、ノアが手伝いに行ってから、本当にすぐにごはんが出来てきて、みんなで野菜とたまごの麦のお粥を食べた。お粥とゆうのは甘くても、塩気がきいていても、どちらでも美味しい食べ物だった。


 お昼ご飯を食べながら、たくさんメイベルさんの学校での話をメイさんに話した。先生もたくさん褒めていたし、メイベルさんも照れながら、学校での話をメイさんに話していた。一日目から楽しそうで本当に良かった。メイさんもとても喜んでいた。


「この調子だと、すぐ卒業遠足になっちゃうんじゃない?」


「もうママったら、そんなの言いすぎだよ。一日目だよ?もお~。」


 お昼を食べ終わると、メイベルさんの提案で子供達が森にキノコを採りに行くことになった。晩ごはんのおかずになるらしくて、ピートさんが張り切っている。それぞれ籠を持って、森の奥まで歩いて行く。メイベルさんが食べられるキノコを教えてくれたので、みんなで手分けして探しながら歩く。


 この森は木が鬱蒼と生えているし、幼精達もたくさんいるし、すごく歩きにくい。けれど、しばらくすると私達がキノコ採りをしているのが分かったのか、幼精達が美味しいキノコのある場所を教えてくれるようになった。瞬く間に、籠がいっぱいになってしまう。


「すごい!エミリアはキノコ探しの名人だね。もう籠がいっぱいになったから、帰ろう。一度にたくさん取り過ぎるのはよくないんだよ。」


 メイベルさんとピートさんが弾んだ足取りで前を歩いている。私は後ろめたい気持ちになって、気分が沈んでしまう。幼精達が教えてくれていることを、言って良いのか悪いのか考えていた。


「エミリア、大丈夫?気分が悪いの?疲れた?どうしたの?」


「ううん、大丈夫。私、私がキノコをたくさん採れたのは幼精達のおかげなのに。私が凄いんじゃないんだよ。でも、幼精達のこと、教えていいのかなって、思っちゃって。」


「エミリアが幼精が見えるからキノコが採れたんだよ。エミリアが凄いで間違いないよ。でも、幼精のことは……、言わない方がいいかもね。特にここは集落の中にたくさんいるんでしょ?つまり身近にいて、一緒に生活してるんだよね。ここで暮らしてる人には見えないんだし、教えない方がいいかもしれない。その方が今までどおりにいられるんじゃないかな。」


「そうだよね。やっぱり言わない方がいいんだね。私もどうして集落の中にこんなに幼精がいるのか、分からないし。」


 早々に家に帰った私達に、縫い物をしていたメイさんは凄く驚いていた。こんなにたくさん、こんなに早くキノコを採れるなんてと感心していた。私はどうしても気まずくなって、ノアと二人の部屋に戻ると、今日の勉強の復習をしていた。


 二人部屋には窓際に机があって、書き物が出来るようになっていた。紙とペンとインク壺が机の中に入っている。教科書がないのでお手本が分からないことに気がつくと、ノアがお手本を紙に書いてくれた。教科書よりも、もっと綺麗な文字で、全部の文字を分かりやすく書いてくれた。私は集中して、晩ごはんを食べ終わってからも眠る直前まで、文字の復習をしていた。


 朝になってノアに起こしてもらっても、髪の毛をセットしてもらっている間にも、眠くて眠たくて、何度も目を閉じてしまう。遅くまで復習しすぎたのかもしれない。うとうとしてしまって、首がガクンとなって、目を開けた。


「ノア、大変。私また服のまま寝ていたの。パジャマに着替えるのを忘れていたみたい。」


「そういえば、そうか。忘れてたね。エミリア。朝ごはんの前に荷馬車の部屋に荷物を取りに行かない?パジャマをまだ持ってきてなかった。」


 そうしてノアがメモを残して、二人で荷馬車にパジャマを取りに行く。森の入口の端に目立たないようにおいた荷馬車に戻ると、クロが荷馬車に降り立ってきた。こんなに朝早くから、私達を見守ってくれているなんて、クロはちゃんと寝ているのかな。ごはんとかどうしているのか、不思議に思う。


「クロ、おはよう。私達、パジャマを取りに来たの。クロはどこで寝てるの?ごはんは食べてるの?ずっと私達の側にいるの?もっとサビンナにいる時も出てきてくれたらいいのに。寂しいよ。」


 クロが嫌そうにフッと鼻を鳴らした。もう最近では素っ気ないクロの方が可愛く感じる。嫌がられてもギュッと抱きしめてしまいそうだった。


「エミリア?なにしてるの?……クロ。わざわざ降りて来なくてもいいのに。見張りを変わってもらったのか?……エミリア、行こう。」


 久しぶりに荷馬車の部屋に入ると、まったくなにも変わっていなくて、それが逆に妙に寂しくて、アビーさんとラリーさんに会いたくなってしまう。早く帰ってきてほしいと心から思った。あと何日ぐらいしたら、二人に会えるのかな。


「エミリア、ちょっと来てくれる?ネグリジェ、だよね?あれ、全部はいらないよね。選んで持っていきたいんだけど、どれか好きなのある?それにしても、あの人達、ちょっとおかしいんじゃないかな?ま、いいか、こっちに来てくれる?」


 しばらく入っていなかった私の部屋に入ると、前に入った時よりも少し片付いていて、ベッドの上にネグリジェが並べてあった。どれも同じに見えるんだけど、よく見るとリボンの位置や色が違うようだった。……どれでも、いいかな?


「どれでも、いいかな。違いがよく……?それより、着替えるのを忘れないようにしないと、今日も忘れちゃったし、決まりがいろいろあるんだって、メイベルさんが教えてくれて……」


「エミリア、メイさんの家じゃなくて、こっちで寝泊まりしない?決まりを全部覚えて合わせていたら、エミリアが疲れてしまうよ。その決まりって、たぶん町や村ごとに違うんだよ。それを全部覚えて合わせるのは、大変じゃないかな?この部屋にいれば、パジャマのことは気にしなくていいし、文字なら僕が教えてあげられるよ。ここから学校に行ってもいい。」


「……疲れては、いないと思うけど。」


 たしかに、パジャマって不便だなと思ったことがあるけれど、私、疲れていたのかな?知らないことばかりで、不安にはなっていた気がするけれど、この部屋で、ノアと二人でいた方がいいのかな。大変、なのかな。今、私。


「そう、それなら、いいんだけど。もし疲れちゃった時は、僕に言ってね。この部屋にいれば、安全だしね。」


 それから、ノアがパジャマを何着か持って、メイさんの家に戻る事にした。誰もいないからと、ノアが手を取って久しぶりに二人で飛んでいくことにした。メイさんの家の前でふわっと降りたって、手を繋いだまま玄関に向かう。家の中に入る直前にノアが小さくなにか呟いた。


「……僕たちは、どこで、生きていくのかな。」


 よく聞こえなくて、なんと言ったのか聞き返そうとした時に、メイさんがもうごはんよと呼ぶ声がして、ノアと慌てて朝ごはんを食べに急いだ。ノアがなにか弱音を吐いたような気がして、急ぎながらもノアを見て目が合うと、いつもと一緒の変わらない笑顔でニコッと笑ってくれた。だから気のせいかも、しれないんだけど。


 もう学校が始まってしまうからと、慌ただしく朝ごはんを食べて、バタバタしたまま学校に向かった。アビーさん達がまだ帰ってこないまま、また何日かすぎて、その間私達は、サビンナの人達と同じように過ごして、学校に行く生活を何日も繰り返していた。

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