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46.暫くの間だけ

 アビーさんはサビンナの集落ではなく、森の入口の開けた場所に停めてある荷馬車の前に降り立った。森の入口にはちゃんとした道が延びていて、その道を行けばサビンナにすぐ着くようだった。森の道の方に向かおうとした時、後ろからラリーさんの慌てたような声が聞こえてきた。


「ああ、アビー!いま知らせようと!エミリアがいなくなったらしい!カラスに探させよう!大変なんだ!サビンナのどこにもおらんと、今ノアが……」


「エミリア!!!」


 荷馬車に戻ってラリーさんに声をかけようとした途端に、ノアにぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。速すぎたのか見えなかったけど、瞬間に移動したんじゃないよね?私に触れていなかったから、違うと思うんだけど。


「エミリアよ。どこに行っていたんだ?」


 そらからラリーさんに、こってりとゆう感じで怒られて、誰にも言わないで勝手にひとりで知らない所に行かない事、ちゃんと心配して探してくれた人に謝る事を約束している間も、ノアはずっと私に抱きついたまま離れなかった。


「ほんとに、みんなに心配かけて、ごめんなさい。もう二度どしません。……あ、でも、二度とないかは、分からないんです。どうやってあの場所に行ったのか、分からなくて……、アビーさんに連れて帰ってもらってる時に、森を上から見ていたんですけど、あんなに遠くまで歩けない気がして……、でも、憶えていないので、分かりません。歩いたのかもしれないし。」


「……詳しく、教えてくれる?エミリア、初めから、全部。」


 そこで初めてのノアが私から離れて、顔を覗き込んで聞いてきた。ラリーさんとアビーさんも話を促すように頷いた。それで私は初めから、ベッドに横になった時からの話しを始めた。なぜか夢でみた湖の森にいて、泉の女神様に、渡る人と言われたことなどを、なるべく思い出すかぎり詳しく話した。


「あ、あと、小さい子達の名前が分かったんです。幼精って言うらしいです。……でも、それが何なのかは、聞き忘れました。」


 話し終わると、予想外に、もの凄く重苦しい雰囲気になってしまった。全員が眉間に皺を寄せているし、ノアとアビーさんは顎に手をあてて深刻な顔でなにか考え込んでいる。私の話しも長かったけれど、それ以上に長い長い沈黙が続いている。……そんなに大変な事態になって、いるの?


「……つまり、新しい魔道具がいるとゆう事じゃな?」


「そうですね。連れ去られないようににないと。もしかしたら、その胡散臭い女神とやらに、エミリアを奪われる所だったのかもしれない。……許さない。」


 なんだか辺りの気温が上がった気がする。このメラメラした感じはノアじゃないよね?私、触ってないし。


「考えたんだが、居場所が分かる物の方がいいかもしれん。」


 ずっと静かに、目を瞑って腕を組んで考え込んでいたラリーさんが話し出すと、みんなが注目してラリーさんを見た。


「どうやって連れて行かれたのか分からん以上、防ぎようがない。そうなると何処に居ても迎えに行けるか、帰って来られる物が必要になる。」


 そう言うなりラリーさんは、もう一度腕を組んで考え込んでしまった。ノアとアビーさんも、なるほどと言いながら、真剣にラリーさんの話しの続きを待った。


「……うむ。やはり新しい素材が必要になる。そしてこの荷馬車の工房では足らん。ノア、エミリア、聞いてくれ、ここからしばらく別行動になる。わしらが戻ってくるまで、ここで待っていてくれるか?」


 アビーさんとラリーさんは、新しい道具を作りに出かけることになった。私のせいで、すごく大変な事態になってしまった。悲しくて、アビーさんとラリーさんの二人と離れるのが寂しくて、泣きたくなる。


「エミリア、そのような顔をするでない。そう長くはかからん。すぐに戻る。で、あろう?ラリー。」


「ああ、場所の見当はついておる。何日かのことだ。その間、大人しく待っておれるかな?エミリア、わしらが戻るまでノアから離れてはいかんぞ。」


 それからラリーさんは荷馬車の部屋に戻ると、しばらくしてから大きなリュックを背負って出てきた。その間アビーさんはカラス達を集めて話しをしていた。


「ノア、これを渡しておこう。この中に雲も入れてあるし、他の道具もいろいろ入れておいたから、持っておきなさい。」


 ラリーさんがノアにベルトがついた小さな鞄を渡した。腰に巻いて持ち歩けるので、両手が使えて便利そうだった。ラリーさんは私にもリボンがついた小さなポシェットをくれた。たくさん物が入って便利な鞄らしい。


 準備ができたので、もうすぐにでも二人が出発することになった。急にこんな展開になってしまうなんて、寂しくて悲しくて、気持ちが追いつかない。もう行ってしまいそうな、アビーさんに抱きついた。


「ごめんなさい。私のせいで、こんな……」


「エミリア、そなた分かっておらぬようじゃ。妾は、我らは、そなたを失うなど耐えられぬ。決して奪われる事などあってはならぬ。ラリーが、皆が安心できる道具を作るゆえ、持っていてほしいのだ。妾たちの為に。」


 アビーさんとラリーさんがそれぞれ暫くの別れの挨拶をして、雲の乗って飛んで行ってしまった。ふたりの姿が見えなくなってしまって、さみしくて寂しくて、しばらくノアにしがみついて泣いていた。ノアはその間ずっと何も言わず、やさしく背中を撫でながら、泣き止むのを待ってくれていた。たくさん泣いたら少し落ち着いて、ノアから離れようとすると、ギュッと抱きしめられた。


「エミリア、憶えてる?僕とエミリアは半分ずつの大事な、……友達だよ。それはエミリアが、何でも、誰でも、渡る人でも、変わらない。エミリアはエミリアで、変わらないよ。……分かった?」


「……うん。ありがとう。嬉しい。やっぱり、ちょっと、不安だったから。」


 我ながら情けない泣き顔だと思うけれど、ノアの言葉が嬉しくて微笑んだ。ふたりで手を繋いで、森の入口に向かおうとすると、そこにクロがいた。


「え!?クロ?どうして?アビーさんと離れてもいいの?……もしかして、アビーさんに頼まれたんだね!?ごめ~ん!クロ。本当にごめん!もう絶対に外に行かない!」


 あんなにアビーさんが大好きなクロが、自分から私の側を選ぶわけがない。よっぽどアビーさんに頼まれたんだね!?申し訳なさに、また泣きたくなる。クロがいつも通りフンッと鼻を鳴らして背中を向けて歩きだした。ほんとにすみません。


 サビンナに戻ると、たくさん謝ってアビーさん達の事をピートさん達に報告して、それでなんとか元通りになったと思ったところでまた、一悶着が起きた。ノアが私から一切離れない宣言をして、同じ部屋で寝起きする事を報告すると、非難囂々だった。特にメイベルさんとピートさんの苦情が激しくて、大荒れの議論となった。


「それなら、僕とエミリアは荷馬車の部屋で寝起きする。おじい様達が戻ってくるまで、出てこない。それなら問題ない。」


「問題ない訳あるか!問題だらけだろ!」


「まあまあ、ピート。メイベルも。みんな、落ち着いて。ノアくん、分かったわ。二人には、二人部屋の方を使ってもらうわ。その方が安心なのよね?私には、子供達を安心に安全に守る責任があるの。おじい様達が戻ってくるまでの間だけ、同じ部屋でもいいわ。その代わり条件があるの。二人の部屋にメイベルもピートも入っていいこと。つまり、メイベルが一緒にエミリアと寝てもいいわ。どう?」


 メイベルさんがわ~いと喜んでピートさんも渋々了承した。ホントに、この7才以上は一緒に寝てはならないの強制力はもの凄いんだなと感じる。もしかして、私って、すごく非常識?でも、私が何才か知らないし。


「エミリア、今日は私と一緒に寝ようね。それで、明日は私とお絵描きして遊ぼう?朝から森にキノコを採りに行ってもいいし、シロップが出てくる所を見に行ってもいいし、明日も明後日も、ずっとメイベルと遊ぼうね?」


「え?メイベルは学校に行ってないのか?メイベルは何才だ?まだ学校の歳じゃなかった?」


 すごく上機嫌だったメイベルさんが、ピートさんの言葉で一気にシュンッとなってしまった。泣き出してしまいそうになって、下を向いて手を握りしめている。


「え?なんだ?俺なんか変なこと言った?」


 しばらく気まずい沈黙の時間が流れてから、メイさんが小さくため息を吐いてから話し出した。


「メイベルは、もうすぐ8才になるんだけど、まだ一度も学校に行ってないの。……嫌がって。」


 とうとうメイベルさんが泣きだしてしまった。ピートさんが心配して事情を聞くと、メイベルさんが7才の学校に行く直前に病気になってしまって、熱も下がって学校に行けるようになっても、自分だけ遅れているのが恥ずかしくて、学校に行けなくなってしまった。サビンナの学校では文字や簡単な計算しか教えていないから、いくら難しくないと、すぐに追いつけると言っても、もうすぐ8才になる今もまだ一度も行けていないらしい。ピートさんも黙り込んで深刻な雰囲気になった。


「メイベルさん、私と一緒に明日から学校に行かない?私も学校に行ったことがないの。」


 私の何気ない発言に、その場にいるノア以外の全員が息を呑んでもの凄く驚いた。そんなに言葉もでないほど、ビックリする事だったとは……。これは一日も早く学校に行かなくてはいけない。


「文字も崖から落ちてから忘れちゃったのか、まったく読めないし、書けないの。だから、メイベルさんと一緒に学校に行って、勉強したいんだけど。」


 ピートさんとメイさんが、崖……と驚いたように呟いたので、あ、小さい崖ですと教えておいた。二人とも何とも言えないような同じ表情をしている。親戚だから、顔が似ていても当然だなと思った。目を見開いたメイベルさんが、パチパチ素早く瞬きした後、おずおずといった様子で私に聞いた。


「エミリアは、その、恥ずかしくない?……他の子より、大きいでしょ?」


「他の子より大きいかもしれないけど、私勉強したいの。文字を覚えて、ノアみたいに本をいっぱい読みたいんだ。アビーさんとも一生懸命勉強するって約束したんだよ。」


「……そ、そう。そうなの。」


「だから、一緒に学校に行かない?私、サビンナのことも何も知らないから、メイベルさんがいてくれたら、すっごく心強くて、嬉しいよ。」


 それで明日からメイベルさんと一緒に学校に行く事になった。メイさんは泣きながら私にお礼を言ってくれたけれど、これからしばらくお世話になる私達の方が、たくさんお礼を言わなくちゃと、しばらくみんなでありがとうの応酬になって、なんだか可笑しくて面白くて、みんなで一緒に大笑いすることになった。

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