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43.テントでキャンプで

 ラリーさんの提案で、今夜はみんなで一緒にテントに泊まって寝ることになった。なぜか、頭の中にテントでキャンプでキャンプファイヤー!とゆう言葉が浮かんだ。なにか言葉が沢山で忙しそうだけど、楽しそうなイメージにワクワクする。


 晩ごはんにラリーさんが作ったシチューを食べてから、ピートさんのテントの中にみんなで入ってみる事になった。全員がテントの中に座ることはできても、寝転んで横になるには狭そうだった。


「だから、全員は無理だって。それに、エミリアもいんだろ?だめだめ!無理無理!第一狭いし。」


「ピートよ、安心しなさい。広くすればいいんだ。アビーが狭いところが嫌いでな、わしはいい物を持っとる。ちと調節が必要で難しいが、ま、なんとかなる。」


 ラリーさんがポケットの中から、なにかグニャグニャした輪っかを取り出すと、手のひらに収まる程小さな輪っかをテントの中の床面にピタッとくっつけた。ペタペタと押さえて馴染ませてから、輪っかをグイ~ンと引き延ばすと、テントの中がグワッと広がって、入口がはるか遠くに見えた。


「ひろっ!広すぎ!テントの入口遠すぎ!」


「いやいや、待て待て、調節がな。これぐらいかな……?」


 今度はグワッと狭くなって、テントの側面が迫ってくる。ラリーさんがグニャグニャと輪っかを動かす度にテントの中が広くなったり、狭くなったりする。


「目が!錯覚でおかしくなる!キモチわりい!いや、また広すぎ!」


 ラリーさんとピートさんが、テントのちょうどいい広さについて話し合っている。さっそく話し合いで解決する事ができて良かったと思う。ちょうどいい広さになるには時間が掛かりそうだとゆうことで、ノアと私は今のうちに部屋に布団を取りに行くことになった。


「エミリア、僕一人で持って来られるから、焚火の側で待っててくれる?夜は冷えるから、火の側で座っていてね。」


 ノアが一人で行ってしまったので、ひとりで火の番をして待つことになった。ぼんやり揺らめく火を眺めていたら、クロが私のすぐ隣に降り立ってきた。


「クロ、どうしたの?寒いの?もうごはん食べた?他のカラスはもう寝ちゃったの?」


 クロはフンッと鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまったけれど、私の隣からは離れない様子だった。今は火の側にいたい気分のようだった。


「ねえ、クロ。他のカラスさん達にも言っておいてほしいんだけど、ピートさんがもうちょっと、たくさん馬車を止めてほしいんだって。それで、これからは夜は荷馬車を走らせないんだよ。クロも、ピートさんの意見を聞いてあげてね。荷馬車を止めてって言ったら、止めてあげてね?話し合いで決まった、大事な事なんだよ。話し合いで決めたから、ピートさんともっと仲良くなれるんだよ。……聞いてる?クロ。」


「エミリア。」


 名前を呼ばれて振り向くと、ピートさんが立っていた。なにか妙に赤い顔をしている。テントの広さは決まったのか聞こうとした時に、突然ピートさんが抱きついてきた。クロがグギャーーと大声をだして、嘴と逞しい足でピートさんを攻撃し始めたので、ビックリする。


「いっ!痛ってえ!痛い!やめろ!カラス野郎!こら!痛え!」


「ど、どうしたの?クロ、やめて!」


 すぐにピートさんが私から離れて、クロと暴れはじめた。突然ケンカを始めたふたりに驚いていると、テントからラリーさんが慌てて出てきた。


「どうした?やめんか!ふたりとも!どうしたクロ?なにをそんなに怒っとる?やめんか!」


 ラリーさんが止めに入ると、クロがギイーーと聞いたこともない声をだして、飛び去ってしまった。もの凄く機嫌が悪そうだった。


「……ピートさん、クロになにしたの?せっかくクロに話してたのに、明日からおねがい聞いてもらえなくなるよ?」


「いや、あいつに何したってゆうか……、いや、まずかった。わりい。思わず、つい……。」


 ピートさんが、なにかモゴモゴ謝りながらテントに入ってしまった。私もピートさんに続いてテントに入ろうとすると、すぐ側にノアがいて、手を取って止められてしまった。


「エミリア。今日は部屋に戻って、眠ることにしよう。テントの中は危険だよ。今分かった。」


「ええ?なぜ?なにが危険なの?」


 なにがどうなったのか、テントにはピートさんとラリーさんだけが眠ることになった。私はテントで寝てみたかったけど、ノアがピートさんは男女一緒に寝てはいけない派だとゆう事を思い出して教えてくれた。そういえば、いつかの朝にそんなことをピートさんが言っていた気がする。


 一緒にテントで寝ていたら、危うく嫌われてしまう所だった。危なかった。これからせっかく仲良くなる予定なのに。気づいて良かったけれど、テントは楽しそうだったので、少し名残惜しかった。


 次の日の朝から、クロがちゃんと他のカラス達に話してくれたようで、頻繁に休憩で止まりながら進むことになっていた。地図に載っていない道を行くので、ピートさんが見覚えのある道を確認しながら、進んでは止まりを繰り返した。


 それでも走っている時は他の荷馬車より速いらしく、お昼頃にはもうすぐサビンナに着くとゆう道に入る事が出来た。もうこの道を進むだけになったのだけど、いままでと違って、カラス達は早く進まず、ゆっくりな速さに変わった。


「……道が悪いな。これ以上狭くなると、この荷馬車は通れんだろう。」


「サビンナは小さい村だから……、村とゆうより、集落に近いかもしれない。いい村なんだけどな。」


 ピートさんが景色を眺めながら呟いていると、とうとう荷馬車は止まってしまった。木が生い茂っていて、この大きさの荷馬車は通れないみたいだった。


「……ごめん。俺がサビンナが良いって言ったから、やっぱり違う町か村に行こう。荷馬車が通れないんじゃ、不便すぎるし。ここじゃなくても、別に……。」


「ピート、大丈夫だ。せっかくここまで来たんだ。親戚に顔を見せてやりなさい。わしは一旦ここで荷馬車で待っておるから、クロを連れて行って荷馬車を置ける広場があれば知らせてほしい。アビーを起こしてから合流する事にする。」


「そういえば、アビーさんはずっと眠ったままなんですか?どこか体の具合でも悪いんですか?」


「いやいや、エミリア。心配しなくとも、アビーはすこぶる元気だ。魔女は自由でな。寝たい時に寝て、食べたい時に食べるんだ。なにも心配することはない。いつもの事だ。」


「そうなんですね。今までずっと部屋から出てこない事がなかったから、ちょっと気になっていたんです。アビーさんがいつも通り元気で良かったです。」


「そうか、そういえばあっちの家にいるときは、よく起きておる気もするな。まあ、アビーの好きにするだろうさ。」


 私達三人はそれぞれ、最低限必要な物を入れた鞄を持って、歩いてサビンナの村に向かうことになった。クロもつかず離れずついてくる。三人でしばらく歩いて、獣道みたいな道をずっと歩いて行くと、バケツのような物をくっつけた木がチラホラ目に付くようになっていた。そのバケツの周りを、小さい子達が踊るような変わった動きをしている。


「ピート、村までまだ遠いのか?まだまだあるなら先に、エミリアに昼ごはんを食べてもらいたいんだけど。」


「もう村に入ってるぞ。バケツがそこら中にあるだろ?」


「え?今、村の中にいるの?」


 私はもの凄く驚いた。家のような建物が見当たらなくて、木が生えた森の中で、小川が流れていているから驚いたんじゃなくて、そこら中に小さい子達がいるのに、村だと言われて驚いた。


 人が住んでいる辺りには小さい子達はいないものだと思っていた。ホルコット村にもまったくいなかった訳じゃないけど、オルンさんの小屋の辺りでさえ、小さい子達はもの凄く少なかった。だから、自然と棲み分けがされている物なんだと思っていた。こんなにそこら中にいるのに、村だと言われて本当にビックリする。


「なんでここが村の中なんだ。誰もいないだろ?家もない。ここは森の中じゃないか。」


「違うって。サビンナは木を切らないんだ。シロップが採れるんだから、当たり前だろ。あ、ほら、あれ。」


 ピートさんが指さした方を見ると、テントをすごく分厚くしたような壁面に絵が描いてある家が見えた。改めて見渡して見ると、森の中に点々と同じような家が在ることが分かった。


「ピートさん、ここに人が住んでるの?ずっと同じこの場所で?」


「うん?ああ、ここに住んでる。村ってゆうより、集落になるのかな?でも、けっこう人数はいるはずだぞ?」


「……そうなんだ。本当に、小さい子達がこんなにいるのに、村なんだ。」


 知らなかった。畑だけじゃなくて、小さい子達と人が一緒にいるんだ。ここでも、なにか協力し合って生活しているのかな。小さい子達と一緒に住んでる村もあるなんて、なんだか不思議な感じがする。


「小さい子達ってなんだ?エミリア?……おい?」


 もうこの辺は、そこら中の木にバケツが付けてあって、甘い香りが漂っている。小さい子達はここでもやっぱり同じように、バケツの周りをくるくる囲んでいて、これは何をしているのか、気になって目を奪われてしまう。私はピートさんに話しかけられていても気づかないぐらい、小さい子達のご機嫌な、楽しげな踊りに見入っていた。

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