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34.それぞれの朝

 なぜこうなったのかは分からないんだけど、夜も更けて今、オルンさんの家でみんなが雑魚寝とゆうのをしている。どこにも足の踏み場はない。


 昼頃から始まった焼肉大会は、そのままなぜか夜まで続いて、たしか大人たちがお酒を飲みだしてから、形相が変わっていった気がする。


 この辺りは果物の一大産地で、色々な種類の果物が豊富に収穫されるらしく、ジャムやお菓子に加工されるのは勿論のこと、その果物で色んな種類のお酒が造られているらしい。アビーさんがその果物のお酒をいたく気に入ると、どんどん酒宴に変わっていって、最終的に賑やかな宴になった。


 ノアとピートさんと、この辺りの名産とゆう果物やお菓子をたくさん食べて、お腹がいっぱいになったので、温泉にゆっくり浸かって出てきたら、小屋の中は雑魚寝大会に変わっていた。そこら中に空の瓶が転がっている。そして外の宴はまだ続いているようだった。


「あ、エミリア。ちょうど良かった。ちょっとそこで待ってて。」


 ノアがロフトの上から顔をだすと、はしごを降りてきた。ひょいひょいと人の隙間を見つけて歩いて近づいてくると、私の手を取ってふわ~と浮かび上がって、ロフトの上まで連れて行ってくれた。


「エミリアがここで、このベッドで寝てみたいって言ってたから、ピートと作ったんだ。おいで。」


「……ノア、ありがとう!」


 感激のあまりに涙が出そうになる。どうしてこんなに特別に感じるのかは分からないけれど、念願の、ふかふかの、干し草の良い香りがするベッドが並んでいた。飛び込むべきか、大人しく横になるか、迷ってやっぱり飛び込んだ。


 干し草のベッドはズシャアーと体を支えてくれた。もう一度ノアが形を整えてくれて、今度はノアと二人でベッドに静かに潜り込んで、一緒に眠りについた。なにも夢をみないで、ぐっすりと朝まで眠った。


「だから!3つ作っただろう?なんで一緒に寝てんだよ。おかしいだろ。男女が一緒に寝ていいのは、7才までだろ?知らねえのか。小さい子供じゃねえだろうが。」


「僕とエミリアはまだ子供だ。いつも一緒に寝るのは当たり前だ。うるさく言われる筋合いはない。僕とエミリアが離れる事は決して無い。」


「うるせえよ!お前、何才だよ。おかしいだろ。」


「何才か知らない。」


「知らないってなんだよ!んな訳あるか!」


 目が覚めると、なにかピートさんとノアが言い合いをしていた。年齢の話しをしていたらしい。


「……おはよう。ノア、ピートさん。」


「ああ、おはようエミリア。待ってね。じっとして、僕が髪を梳いてあげるから。」


 朝のいつもの習慣にぼんやりとした頭でじっとする。寝起きでじっとしていると、また眠ってしまいそうになる。


「エミリア。ノアは何才なんだ?一緒に寝たらだめだろう?」


 まだ頭がぼーとして、ハッキリとしないけれど、何才……、年齢……。


「何才?かは知らないよ。私も自分が何才か知らないし。何才、年齢、うん、知らない。でも子供なのは分かるよ。」


 ピートさんが、ええ?とゆう顔で固まった。なにか変なこと言ったかな。私の髪を丁寧に梳かしながら、ノアがピートさんに得意そうに答える。


「そう、だから、僕とエミリアは、そうだな……、5才くらいだ。だから一緒に寝ても問題ない。」


「んな訳あるか!どう見ても俺と同じぐらいだわ!でも、まあその辺は……、ちょっと、じいちゃんにも聞いて来る。とにかく!常識とゆうのがあるんだ!」


 ピートさんがなにやらドスドスとロフトを下りて行った。ピートさんがなにを怒っていたのか、ノアに聞いてみたけれど、ノアもよく分からないらしかった。常識の話しが理解できない仕組みになっているらしい。種族の違いの話しかもしれない。私も、ちゃんと常識の話しを聞いてみないと、となんとなく思った。


 それにしても干し草のベッドは寝心地が良くて、まだまだここに横になっていたい誘惑にかられる。けれど、ノアが髪を可愛らしく結んでくれたし、ここはノアの木の家じゃないから、顔を洗ったり、朝の身支度をしないといけない。頑張って干し草の誘惑を振り切ってベッドから出て、ロフトの階段を下りた。


 昨日と違って、雑魚寝している人は一人もいなかった。あけ放たれた玄関から、昨日の焼肉の網の上でそれぞれにパンを焼いて、朝ごはんを食べている人達が何人も見えた。頭を押さえてうめき声を上げている人も何人もいた。


「ああ、二人ともおはよう。朝ごはんはミルク粥とパンのどちらにするかね。チーズもジャムも豊富にあるぞ。」


「……えっと、それじゃあ、私はパンでおねがいします。」


「僕はミルク粥にします。エミリア半分ずつにしよう。ミルク粥、食べてみたいでしょ。」


「どうして分かったの?ノアは私の思ったことがよく分かるね?」


 ビックリするくらい、ノアは私の心が読めると思う。ノアがとても嬉しそうに、満足そうに笑った。


「甘味が足りなければ、そこにある蜂蜜やらジャムやら、好きに入れておくれ。」


 と言いながら、オルンさんがすぐにミルク粥や、パンを持ってきてくれた。ノアと半分こにしたミルク粥は優しい甘さで、食べ過ぎた朝にはちょうどいい気がした。パンも新鮮な果物がゴロゴロ入ったジャムも、それぞれ美味しかった。


「アビーさんとラリーさんはどこだろう?もう起きてるかな?」


ノアに聞くと、ちょうど温かい飲み物を持ってきてくれた、オルンさんが答えてくれた。


「アビー殿はさっき、屋根の上で寝ているのを見たよ。ラリー殿は外で兄貴とパンを食べてたな。網を気に入ってくれたようで、1つ持って行ってくれる事になったんだ。ピートに炭を積むように言っておかないと。あとタレも忘れんようにしないといかん。」


「そうだ。ピートさんも一緒に行くことになったんですか?昨日ピートさんがそうなるかもって……。」


「ピートが言い出してね。迷惑でなければ、連れて行ってくれ。なかなか要領も良く、気が利く子だよ。そうそう学校のことも頼んでおいたんだ。一緒に通うといい。どこの村でも読み書きは教えてくれるだろうが、大きな町に行くと、役人になって出世ができるぐらいに、賢い子が行く学校があるらしい。まあ、あいつは勉強があまり得意じゃないみたいだがね。体を動かしている方が性に合うと言っていたな。もっと幼い頃は、兵士に憧れていた。強い兵士になると言ってな。」


 オルンさんが可笑しそうに笑いながら話してくれた。ピートさんはもっと小さい子供の頃、商人について、荷馬車を守りながら旅する兵士に憧れていたらしい。村人達の大事な積み荷を狙う悪い奴から、売り物を守る強い兵士になると言って、いつも棒を振り回していたらしい。想像すると可愛い。


「じいちゃ~ん、羊毛って、あれ全部持って行く訳じゃないよなあ。けっこうあるけど。」


「いやいや、荷馬車が決まったら全部積めるようにしておいておくれ。オルケルンなんて、めったに行けるもんじゃないし、マリーに手紙も書くから、一緒に届けてほしい。店でなにかと使ってもらえるだろう。」


「二人とも、ちょっと場所を取るかもしれんが、お願いしてもいいかな。一番下の娘がオルケルンで店をやっとる男に嫁いでいてな。服を作るんじゃが、羊毛は役に立つだろう。うちの羊の羊毛でな。なかなか質が良い。」


「全然。大丈夫だと思います。ラリーさんが部屋を作ると言ってたから、場所のことは気にしなくていいですよ。羊さんの毛で服が作れるなんて、着心地が良さそうですね。」


「毛糸になるんじゃよ。軽くて、温かくて、寒い時には、手放せんよ。エミリアにも、うちの羊の羊毛で服を作ってくれるように、手紙に書いておこう。」


「嬉しい!その服が出来たら、いつでもここの羊さんの事を思い出せます。」


「……そうか、寂しくなるな。行ってしまうのだな。もう、しばらくは会えんのか。それは、ずいぶん、寂しくなる。」


 オルンさんの言葉に、その場にいるみんなが、しんみりと寂しい気持ちになった。ついこの間知り合ったばかりの私達だけれど、こんなに仲良くなれて、別れがこんなに寂しいなんて、なんだか旅に出るのを止めて、ここにずっといたい気分になる。


「そなたはどうやら、なにも分かっておらんようじゃなあ。妾はなんの為に、転移石を置いたと思っておるのだ。望めば、毎日でもエミリアとノアに会えようぞ。」


 いつの間にか、アビーさんが部屋の中で浮いていた。空中で座るように足を組んでいて、とても体が柔らかいと思う。私が足を組んでもあんな風にはならない。あ、足の長さの問題?なるほど。


「え?どおゆう事ですか?」


「なんじゃ?エミリアも分かっておらなんだのか?昨日もあれでここまで来たであろう。妾達が道中で転移の石を設置すれば、ここに来る事など、至極簡単。あ、そなたは、無理じゃ。」


 ビシッとピートさんを指さして言った。ピートさんが目を瞬いたあと、別に残念そうでもなく、へえ~と言った。別にずっと旅する訳じゃないし、とオルンさんに言っている。


「であるからして、毎晩戻って、温泉に浸かることも可能じゃ。」


「……毎晩は、さすがに、ご迷惑なので……、」


「いやいや、エミリアよ、毎晩でもかまわん!なんと、そおゆう事なら、憂いなく送り出せる。ありがたい!アビー殿、重ね重ね世話になる。なんと礼を言えばいいのか。そうだ。毎晩ここに戻ってきて、ここで眠ればいい!なんと!便利な!」


 オルンさんがすごく興奮して、喜んでくれているけれど、さすがに毎晩は戻ってこられないと思う。……たぶん。


「アビー、ちょっと来てくれ。荷馬車を選ばんといかん。ロバも貰ってほしいそうだが、どうする?」


 玄関先からラリーさんが顔を出して、アビーさんを呼んだ。外の他の人と違って、ラリーさんは元気いっぱいそうだった。


「ロバなどいらぬ。邪魔じゃ。必要なら、カラスに引かせる。」


 アビーさんが外にスイーと飛んで行った。外の人が、ちょっとどよめいた。もしかしたら、みんな箒に乗って飛ぶと思っていたのかもしれない。考えてみたらなんだか、ちょっと面白い。どうして箒なのかな?アビーさんが言うように、乗り心地は良くなさそうだと思うんけど。


「どうしたの?エミリア。」


「うん。考えてみたら、面白くて。箒って乗り心地悪そうだし。どうして箒なんだろうね?それに魔法の杖。考えた人は想像力が凄いよね。楽しくて、面白いもの。」


「そういえば、そうだね。どおゆう発想だろうなあ。なにも箒じゃなくてもいいよね。そう言われれば、確かに面白いね。」


 絵本の通りの色々な不思議な道具を使う魔女は、身近な道具を使っていて、わくわくと楽しい気分になる。アビーさんとは、根本的に違う気がする。


「それは、錬金術師の影響かもしれんなあ。王都にいるとゆう錬金術師は、道具を使うらしいからな。箒や杖を使うのかは知らんが。そうなると絵本の魔女は、錬金術師なのかもしれんな。」


「じいちゃん、錬金術師ってなんだ?魔女とは違うのか?」


「わしにも違いは分からんが、魔法を使うなら、錬金術師は魔女なのかもしれんなあ。ああ、男なら魔法使いか。そうか、エミリア達が探すのは錬金術師なのかもしれんのか……。それは、困った事にならんといいが……。普通の人に、アビー殿の魔術に小細工など出来る訳がないしな。そうなるとやはり王都か……。錬金術師は王都にしかおらんし。随分遠い。やはり長い旅になるじゃろうなあ。」


 オルンさんは、感慨深げに私を見つめたあと、静かに、嫌になったら、いつでも帰っておいでと呟いた。

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