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31.寂しい夢と大カラス

 夢の中でまた、あの湖の森に来ていた。透明で綺麗な水の湖。とても静かで、今日は湖面も波打つ事なく、ただただ静かに厳かに水が湧き出ている。


 またウミョーンと手が出てこないかと、初めはドキドキしていたけれど、あまりの静寂に、湖の縁に座って、ただジッと湖面を眺めていた。


 ふと思いついて、静かに手を湖の水に浸けてみた。水面が静かに輪を描いて広がっては揺れる。静かに、微かに、誰かの泣き声が聞こえる。


「悲しい……悲しい……寂しい……寂しいわ……私の……私のユ……」


「エミリア!」


 揺すって起こされて、すぐ目の前にはノアの顔があった。頭のどこかで、ああ起きたんだと分かるけれど、まだ誰かの悲しみが色濃くて、悲しくて寂しくて、なかなか現実の世界に戻ってこられない。あまりにも、深い深い悲しい感情だった。すぐ目の前のノアが心配そうに、涙を拭う。起き上がれないまま、涙が止まらない。


「とても、寂しくて、悲しいの……。」


 すると、ノアがギュッと抱きしめてくれた。温かくて、少し重たい。そのぬくもりと重みに、徐々に現実に戻ってくる。


「朝じゃあーーーーー!!起きろーーーーー!!」


 バアーーーンと壊れる程の扉の音にビクゥッと驚いて、「ギャアーーー!!」とノアを突き飛ばしていた。


「なんじゃ、朝からなにを暴れておる。このお転婆め。元気があって良いが、今日は忙しいのじゃ!早う朝ごはんを食べてしまえ!早う早う!その後は、妾が魔法の先生じゃ!」


「おばあ様、朝から騒がしいですよ。食堂で待っていてください。朝から迎えに来なくてもいいです。エミリア、大丈夫?」


 突き飛ばしたのは私だから、ノアの方が大丈夫かなと思うんだけど、一応大丈夫と言っておいた。


「ごめんね。飛ばしちゃって。どこか痛い所はない?」


「全然。どこも痛くないよ。大丈夫。心配しなくてもいいよ。それより、エミリアは?なにか、悲しい夢をみたんだね。」


 なにかすごく悲しい夢だったような気がするけれど、アビーさんの勢いに忘れてしまった。悲しい気分が無くなったので、驚いた事ぐらい、なんでもない。それよりも、今日はなんと、ノアが初めてアビーさんに魔法を教えてもらう日だ。どんな魔法か、すごくすごく楽しみすぎる。


「もう全然、大丈夫!それより早く朝ごはんを食べに行こう?今日はノアが魔法を教えてもらうんだよ。すごく楽しみ!」


 みんなで急いで、食堂に向かう。ラリーさんが朝ごはんの用意をしていた。薄いお肉の上にたまごをのせて焼いていて、とても美味しそうだった。パンにたくさんの種類の中から好きなジャムを選んでのせる。ジャムは宝石瓶に入っていて、いろいろな色があって、とても綺麗で可愛い。

 

 甘いお茶にしようか、数種類の果物が入ったジュースにするかとても迷って、ノアの勧めで両方をノアと半分ずつにした。半分ずつって、素敵なことだと思った。


「今日は忙しいぞ。出発が近いんでな。わしは今から地下で道具を作るが、昼前にはオルンの家に行って来る。荷馬車をくれるそうだ。それを使えば、目立たずに旅が出来るらしい。中をアビーと改造して部屋を作って……。アビー達は、朝から魔法の練習だな。森でするのか?」


「人目につかん場所で練習するのじゃ。妾はちゃんと心得ておる。」


「そうか、それならいいんだ。昨日オルンが言っておったからな。気を付けねばならん……。」


「オルンさんが荷馬車をくれるんですか」


「そうだ。わしは作ろうと思っておったが、オルンの話しでは、目立たんとゆう事が非常に重要らしい。絨毯も目立つと言っていた。」


「なに!まさか絨毯が使えんのか?あの小さい絨毯は、あれは青いだろう?空と一緒の色ではないか。目立つはずがない。」


「わしもそう言ったんだが、目がいい人族には、目立つそうだ。孫が言っていたらしい。……白はどうだろう?雲のようであれば、目立たんかもしれんな。」


「……なるほど。それは良い。ふわふわした白い雲にしたら、乗り心地も良さそうじゃ。やはり、そなたは天才じゃな。」


 ふたりがどんな雲の乗り物にしようか、熱心に話している。魔法の話しはよく分からないけれど、ふわふわした雲に乗れるなら大歓迎だし、とても楽しみだと思う。完成する日が待ち遠しい。


 朝ごはんを食べ終えたら、とうとうアビーさんとノアと一緒に、魔法の練習に出発することになった。木の家から出ると、大カラスが待ち構えていた。アビーさんから、ひと時も離れませんとゆう気合が感じられる。


「さて、目立たん場所だな、まずは、あの岩場にしようか……。」


「アビーさん、その大きなカラスには、名前は無いんですか?とてもたくさんカラスがいますよね。」


「ん?名前か?カラスはカラスだろう?」


「ええ、カラスなんですけど、その一番大きなカラスさんは、いつもアビーさんから離れませんよね。なにか特別なんじゃないかと……、他のカラスと違うなら、名前があった方がいいかなと、まあ、ちょっと、思っただけです。」


 話している途中から、大カラスにもの凄く目を見開いて見られている。目がランランと輝いていて、ちょっと、顔が怖い。余計な事を言わなければ良かったかもしれない……。


「名前か、面倒だ。名はエミリアが考えよ。そなたが好きに決めて良い。」


「え!?」


 アビーさん、面倒とか言っちゃだめですよ。と言おうとしたら、名前決め係になってしまった。……困った。ものすごく大カラスに見られているし、いや、睨まれてる?


「黒いから、腹黒にしましょう。」


 腹黒……、それは……、あまりにも……。ノアのハッキリとした宣言に、固まってしまう。なにか大カラスに恨みでもあるのか、ノアに聞こうとした時、


「なんでも良い。では、そなたの名は、」


「待って!待ってください!クロ……、クロにしましょう。その方が呼びやすいですよ。とっても綺麗な黒ですし。その方が似合います。」


 大カラスは命拾いしたな、おい。とゆうような目でノアを見た。やっぱり、ノアとなにかあったの?顔がとても怖い。


「クロか。良い名だ。よし、そなたの長年の功績により、そなたに名を与える。そなたの名は、今からクロだ。一層励むがよい。」


 大カラス、改めクロは真剣な感激した目でアビーさんを見つめて、涙を流している。そして、翼を大きく広げてから閉じると、カアーと鳴いた。とても喜んでいて、最後に私を見て、威厳のある顔で一つ頷いた。もしかしたら、お礼を言われたのかもしれない。


「では、クロよ。さっそくじゃが、妾達はこれから人目を忍んで、魔法の練習をするのだ。岩場に人がいないか、先に確かめてまいれ。人が居るようであれば、別の場所にする。」


 クロがすぐに飛び立った。続いて今まで木の上に止まっていたのか、何羽ものカラスが後に続いて飛び立っていく。それから、アビーさんは小さな小枝を何個か選んで拾ってから、一番近くにある石像にみんなで触れた。一回触っただけなのに、アビーさんが望んだ岩場に着いたようだった。


「あれ?一回で着きましたね。アビーさんが一緒だからですか?」


「ん?いや、記憶したからではないか?」


 アビーさんが、クロのいる方に歩き出した。周りに人が居ないか確認している。何羽かで別れて偵察した結果、近くに人はいなかったらしい。いよいよ、ノアの魔法の練習が始まろうとしていた。

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