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29.お礼を言いに 3

 ほかほかに温まって温泉からでると、オルンさんが用意してくれた洋服に袖を通した。もう着なくなったとゆう事は、誰かのお古なんだろうけれど、新品のように綺麗で、サイズもちょうど良かった。


 今まで、着る物になんの思い入れも無かったけれど、リボンや刺繍がついた白いシャツに、薄い桃色のワンピースが可愛くて、深い赤い色の上着は、ラリーさんの様に袖が無かった。着る物ひとつで、こんなにウキウキした気分になるなんて、初めて知った。軽くて、肌触りも良くて、とても着心地がいい。はやくノアに見せたくて、早足で小屋に向かった。


 小屋の中には、探したけれど誰もいなかった。玄関先の方で物音がしたので、扉を開けてみると、ノアとピートさんがどこから持ってきたのか、椅子とテーブルを並べている所だった。ノアがちゃんとサイズが合った服を着ていて、薄い青色のシャツに、黒っぽいズボンが、もの凄く似合っている。長袖のシャツをまくっていて、とても格好いい姿だった。扉にもたれて、しばらく見とれてしまう。


「……ノア。」


 小さな呟きに、ノアがすぐに気づいてくれた。一生懸命なにか運んでいたノアが振り返ると、その場でしばらく固まってしまった。


「……ノア?」


「エミリア。とっても可愛いよ。すごく似合ってる。可愛くて、ビックリしたよ。そうだ。髪の毛を結んであげよう。オルンさんに教えてもらった、三つ編みだよ。きっともっと、その洋服に似合うよ。」


 急ぎ足で近づいて来ながら、なにか早口で、褒めてくれている。手を繋いだと思ったら、椅子に座らされて、髪の毛を結んでくれた。どこから出したのか、リボンで髪の毛を可愛く結んでくれた。嬉しくなって、ノアを見上げて、お礼を言った。


「ありがとう。とっても嬉しい。」


ノアがおでこに手をあてて、はうあっとか、変な声を出した。


「ちょっと、待ってね。いろんな角度から見てみないと。ちゃんと結べているか、確認するから。」


 その時、ピートさんが玄関の扉の外から、呆れたように声をかけてきた。


「もういいかな。まだこっち終わってないんだけど。ああ、エミリア、とても似合ってる。ますます可愛いよ。そろそろ、ノアから離れた方がいいんじゃないか。こっちを手伝ってくれる?」


「僕とエミリアが離れることは……」


「うるさい。おいで、エミリア。手伝って。」


「はい。なにをしていたの?」


 ピートさんをお手伝いする為に、外に出る。ノアも一緒に外に出たので、玄関の扉は閉めておく。


「ちょっと早いけど、昼ごはんの用意だ。外で食べようと思って。とゆうか、俺はこれしか作れない。外で肉とか野菜とかを焼いて食べるんだ。外で食べたら、なんでも美味い。」


「そうなんだ。知らなかった。それで、なにを手伝えばいいかな。」


 玄関先の開けた場所に、テーブルや椅子や、金属の網を乗せた台やら、色んな物がゴチャゴチャに置かれている。


「じゃあ、野菜を切ってくれ。適当でいい。切って焼くだけだから。肉は俺が後で取って来る。」


 そうして張り切って野菜を切る係になったんだけど、丸くて硬い野菜に悪戦苦闘しているうちに、気づくと二人に、もう止めてほしいと懇願されていた。なぜか、また味見係になってしまった。まだなにも味見するものがないんだけど。ここに座っているだけで、本当にいいのかな?なにか、お手伝いをしたいんだけど……。


 網の台や、テーブルの準備が整って、ノアが野菜を切っている。ピートさんがお肉を小屋に取りに行って、私はお皿の準備をしたら、またする事が無くなって、なにもせずに座っている。どかで小鳥が鳴いていて、とてものどかで、天気もよくて、お外ごはん日和だなと思った。アビーさんがギュウッとなにか凄く怒って出て行ったのが、ついさっきの事とは信じられないぐらい平穏な一日になりそうだなと、その時までは思っていた。


 最初に感じた異変は、鳥だった。遠くの方で、鳥の大群が鳴きながら飛んで行ったと思ったその時、ドゴーーーーーーンと爆発するような音が響いた。至る所で、動物達が逃げる鳴き声がしている。


「なんだ?なんだ?なんの音だ?」


 大皿にお肉を山盛りのせて、ピートさんが小屋の中からでてきた。三人でその場で動かずに状況を見守っていると、やがて静かになった。何事かとドキドキしていたけれど、何事も起こらないと分かると、また平穏な雰囲気が戻ってきた。ピートさんが大きな串にお肉と野菜を交互にさしながら、ノアにのんびり聞いている。


「じいちゃん達、昼ごはんには戻ってくると思うか。もっと肉を用意した方がいいかな?」


「さあ?でも多めに用意しておいた方が、いいんじゃないか?」


「だな。じゃあ、そっちの野菜は全部切っといてくれ。串が足らん分はそのまま焼く。」


 ピートさんが網が乗っている台の中にある黒い石に火を付けようとして、なかなか苦戦していた。藁みたいなものを、ふうふう吹いている。


「おっかしいなあ~。なかなか炭に火が移らん。」


「え?これが炭って言うの?さっきアビーさんが言ってた炭?……消し炭って。」


思わず、真っ黒な石を覗き込んだ。よく見ると石とゆうより、木のような模様が見えた。


「……消し炭、の事は気にするな。たぶん物の例えだ。言葉の綾だ。うんうん。」


 ピートさんがなにか納得するように頷く。それはそうだろうと思う。こんなに真っ黒になるには、なにか沢山の工程があるに違いない。すぐに出来上がるようには思えない。


「お、火がついたぞ。ふい~、やっぱ、じいちゃんみたいに簡単には、出来ないなあ~。なにかコツがあるのかもしれん。聞いとかないと。」


 ようやく火がついて、網の上に串にさしたお肉や野菜を乗せると、だんだんお肉が焼ける良い香りがしてきた。お腹も空いてきた気もする。ひっくり返しながらお肉を焼いていたピートさんが、


「あ、やべ、忘れてた。」


と、小屋に走って行ってすぐに戻ってきた。三人分のエプロン持って、配りながら説明してくれた。本当は料理をする前から付けていないと、怒られるらしい。慌ててみんなでエプロンをつける。ノアが可愛くリボンに結んでくれた。


 網の上のお肉がジュウジュウいって、そろそろ食べ頃だとピートさんが言った時、ゴオーーーーーーーーーと、遠くの空の何か所にも、火柱が昇っていくのが見えた。真っ直ぐに天に昇る炎の中に、青黒いような不気味な火がぐるぐる混ざって昇っていく。空のはるか上の方まで昇って、やがてフッと消えて無くなった。


 たぶんアビーさんがなにかして、今、解決して終わったのだと改めて感じた。

なんとなく、またホルト村は良い方向に向かっていく。なぜか漠然と、そう感じた。不思議となにかが正常に戻っていく感覚が、感動的で感慨深くて、そのまま、どこまでも広がっている、澄み渡った空を眺めていた。


「……エミリア?どうしたの?どうして泣いているの?」


 頬に伝う涙を、ノアが綺麗な布で拭ってくれる。なんと説明したらいいのか分からない。でもなんでも話すと約束したから、なんとか考えて、伝わるように言葉にする。


「……もとに、戻っていくのが、嬉しくて。」


 ノアが手を握って、「良かったね。」と微笑んでくれた。うまく言えないこの感覚を、ノアが理解してくれているのが嬉しくて、見つめ合って、私も微笑んだ。


「あ、あれ!あの青いの!じいちゃん達だよな!?帰ってきたぞ!」


 見上げると青い絨毯が、猛スピードで近づいてくる。端で見ているとこんなに速いんだと、なぜかヒヤッとした。凄く速いなと見つめていると、もう目の前まで絨毯が降りてきた。オルンさんは絨毯にしがみつく様に、寝ころんでいた。


「おお、ちょうどめしの時間か。肉の焼ける良い香りだ。炭で焼くと良い風味がついて美味いんだ。よしよし、みんなで食べよう。全部まるっと解決だ!」


オルンさんが絨毯からガバッと起き上がると、勢いよく立ち上がった。


「なんじゃ、なんじゃ、イカンイカン!なぜタレを用意しとらんのだ!塩だけではいかんぞ!まだじゃ、まだ食ってはいかん!すぐにタレを用意してくる!それでは焼肉ではない!待ってなさい!すぐじゃ!」


 そう言って、走る勢いで小屋の中に入って行った。なにか、この「焼肉」は間違っていたらしい。十分美味しそうなんだけど。我慢して、みんなで待つ事にした。


 アビーさんはお腹が空いていないと言って、絨毯ごと上空に浮いて、寝ころんで寝てしまった。疲れたのかもしれないし、お腹が減ったら降りてくるとラリーさんが言うので、「お帰りなさい。」とだけ言って、みんなでまたお皿をだしたり、準備をしてオルンさんを待った。


 言葉の通りに、オルンさんはすぐに戻ってきた。大きな両手で持つ鍋に、とろみがついた独特な香りがする茶色い液体をたくさん入れて持ってきた。


「もう焼いたものにはこれを付けて食べてくれ。今から焼く肉には、このタレをつけてから、焼くんだ。」


 なにか、ものすごく張り切って、目がキラキラしている。この焼肉がとても好きなんだと思う。みんなでタレをつけて、焼肉を食べた。独特な風味のするタレは、お肉にとても合っていて、すごく美味しい。タレが焼ける香りも、食欲をそそる良い香りがする。


 みんなで次々にお肉を焼いて食べるのも、楽しかった。ワイワイ盛り上がって、どんどん食べて、いつの間にか、オルンさんとラリーさんは焼肉によく合うと言うお酒を飲んで、全員が、もうこれ以上食べられないとゆうぐらいまで、お腹がいっぱいになって、ようやく長いお昼ごはんが終わった。


 満腹すぎるので少し休憩にして、温かいお茶を飲んでから、みんなで片付けを始めても、アビーさんは降りてこなかった。

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