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23.宝石みたいなクッキーの箱

 真ん中の広いホールに戻ってきて、中心の木の近くに置いたままになっている、赤いリボンがついた大きな袋の側まできていた。


「そういえば、この袋の中には、なにが入ってるんですか?ずいぶんたくさん……」


 と言おうとして、言葉が止まってしまった。一抱えもある袋を持ち上げると、ずっしりと重くガサッと音がした。え?これ、まさか全部、クッキー?


「手土産のクッキーだよ。先ほど焼いたのを土産にするんだ。」


「これは、ちょっと、……多いと思います。オルンさん一人では食べきれないかも、あ、一人お孫さんは居るかもしれませんけど、もう少し減らした方が喜ばれると思います。」


「なに?そうか。そういえば、さっき、エミリアも食べ過ぎて動けなんだか……。あんなに少なくて良いのか……。人族は小食なのだな。ならば、詰め直すのを手伝ってくれんか。」


はい。さっき、食べ過ぎて動けなかったのは、私です。恥ずかしい。


「はい。お手伝いします。そうだ、箱は無いですか?中に仕切りをして、クッキーの種類ごとに詰めたら、可愛いと思います。」


「箱か、なるほど。中に仕切りか、いいかもしれん。すぐに作ろう。」


 食堂にみんなで入ると、ノアがみんなの分のお茶の用意をしてくれる。その間にラリーさんが地下に行ってくると言って、奥にある入り口に消えていった。ノアが慣れた手つきで火をつけてお湯を沸かしたり、棚から茶葉をだしたり、箱の中からミルクを出したり、すっかり食堂の厨房を使いこなしていた。


「すごいね。もう、一人で使えるんだね。甘いミルクティーがとっても美味しい。ありがとう。」


「……ああ、エミリアに美味しいって言ってもらえるのは、とても嬉しい。僕はもっと、たくさん美味しいものを作ってあげたい。」


 お茶の味を褒めたら、ノアが予想以上に感激してしまった。目がうるうるして、今にも泣いてしまいそうになってしまった。どうしよう。


「男はみな、料理が好きじゃなあ。妾はそんなに面倒そうなことは、したくはないが。そうじゃ、茶請けにクッキーを出してやろう。減らすのであろう?」


 アビーさんが手をフイッとやって、棚の上に置いた大量のクッキーが入った袋を空中に浮かせると、赤いリボンがするっと解けた。袋の中のクッキーを全部一遍に空中に浮かせて、種類ごとに並ばせていく。上空に大量のクッキーが浮かんでいると、こんなにドギマギするとは知らなかった。いつ落ちてこないかと心配になる。


「どれにするのじゃ、その皿に入れてやろう。選ぶがよい。」


「えっと、そうですね。ちょっとドキドキしますね。これ、落ちないですよね。どれにしようかな。」


「あの大きめの、赤いジャムが挟んであるのはどうかな。最後の方に焼いたものだから、エミリアはまだ食べてないよ。クッキーとゆうより、しっとりした焼き菓子みたいな感じなんだけど。美味しいよ。」


 上空のクッキーを指さしながら、ノアがおすすめを教えてくれたので、アビーさんにお皿に入れてもらった。どこかの引き出しから、フォークが飛んできて、お皿の上にカチャンと落ちた。アビーさんがニコッと笑って、お皿を指した。本当に美しい美魔女だと思う。やっぱり孫までいるようには、まったく見えない。種族の違いなんだろうけれど、改めて見つめられると、美しすぎてドキドキしてしまう。


「……いただきます。」


 一口分を切って口に入れると、しっとりとした生地はどっしりと重みがあって、花のような香りのする赤いジャムが、たっぷりと中に入っていた。


「美味しいいいい!」


 口の中に広がる味はまったりと濃厚で、少しだけ酸味のある甘いジャムの良い香りが鼻に抜けて、小刻みに震えるほど、美味しかった。


「それは良かった。これは、ラビィのジャムを煮詰めたのを、たっぷり入れてあるんだよ。でも、一つだけにしようね。晩ごはんには、僕の作った料理も食べてほしい。」


 とても嬉しそうに笑いながら、ノアもお皿に入れてもらった丸いクッキーを口に入れて、晩ごはんに作る予定の料理の話しをしてくれる。お料理の話しを嬉しそうに話すノアと、今までアビーさんが食べて美味しかったと言う、様々な料理の話しを聞きながら、しばらく和気あいあいと、お茶の時間を楽しんだ。


「おお、良い香りがするな。わしにも一杯入れてもらおうかな。」


 地下に続く奥の部屋の方から、ラリーさんがなにか、キラキラ光るものを持ってテーブルまで歩いてきた。


「屑鉱石が大量に余ってあるんでな。箱を作ってみたんだ。中に仕切りも作ってみた。」


 ニコニコしながら、ドンッと重そうな音をさせながら置かれた「箱」は、私が知っている箱とは大分違っていた。外側の透明に輝いている箱型は、細かくカッティングした模様が彫ってあって、ダイヤモンドに見えたし、中の「仕切り」と言っているものは、緑や紫や赤や黄色の宝石を薄く加工したようなものを組み合わせて、仕切りを作っていた。


 すべて宝石で出来たような箱自体が、キラキラと眩しいくらい輝いていて、控えめに言っても、宝物だった。なぜか、国宝とゆう言葉が頭に浮かんだ。


「外側は硬い鉱石を使ったから、落としても割れないだろう。」


 硬い鉱石って、やっぱり、それ、ダイヤモンドですかね?アワワワワとなって、言葉がなんにも出てこない。


「硬いのは良いが、なにやら重そうじゃのう。エミリアに持てるか?妾が浮かせて持って行ってもよいが。」


ノアが立ち上がって近づいて、ヒョイッと宝石箱を持ち上げた。


「うん。ちょっと重いけど、持てないことは無いですよ。僕が持つことにするから、エミリアは持たなくてもいいよ。ここにクッキーを詰めるんだよね?どの味のクッキーを入れるのか、選んでくれる?」


 まだまだ、アワワワワワとなっているんだけど、頑張って声を出した。


「あの、この、これ、ほ、宝、石で、た、たか、高、くて。」


「え?なに?どうしたの?エミリア?大丈夫?ちょっと、落ち着いて、これ、お水、飲んで?」


 今度は、ノアまでアワワワになってしまってので、なんとか差しだされた冷たいお水を、落ち着いてゆっくりと飲んだ。一息ついてから、なるべくはっきり聞こえるように話し出した。


「せっかく作って貰ったんですけど、この箱は、ちょっと高額になりすぎるので、贈り物にはむかないと思います。ごめんなさい。ちゃんと説明していなくて。」


「高額?これは、余っとる屑鉱石を使ったんだが。使えんか?」


「とても綺麗で、芸術品で、素晴らしいんですけど、この中にクッキーが入っていると、ビックリしちゃうってゆうか、お礼が大変になるってゆうか、本当に素敵で、勿体ないんですけど。」


「そうか、驚かせたらイカンな。ふむ。気に入ったのなら、この箱はエミリアにやろう。」


「いえ、そんな、それは……」


「そうですか。じゃあ、エミリアと僕の部屋に飾っておきます。」


「待て待て、妾はここにクッキーが入っている様子が見てみたいぞ。この中に入っておるのを、選んで食べるのだ。」


「あ、それはすごく楽しそう!私も見たいです。」


 それで、アビーさんとキャイキャイ言いながら上空のクッキーをふたりで選んで、宝石みたいな箱にアビーさんの魔法で詰め合わせた。


「「かっわいい~いい!」」


キラッキラの箱に色んな種類のクッキーが収まって、可愛いと美味しいの相乗効果で、最高の宝箱に仕上がった。


「このテーブルの上に飾っておいて、好きな時に摘まめるようにしたら、いいんじゃないかな?お腹が減ったら、食堂に来るよね。」


「あ!それは、すごくいい考えだね。保存食の瓶みたいにって事だよね?美味しいし、見た目も可愛いって最高だと思う。」


「保存食の瓶?」


 ビクッと体を震わすと、ラリーさんが険しい顔をして腕を組んだ。凛々しい顔立ちをしているので、なかなか迫力があって、ちょっと恐い。え?なに?なにか。怒らせちゃったのかな。と声をかけようとしたら、突然猛ダッシュで、地下に続く奥の入口の方に走って行ってしまった。


 なにが起こったのか確認しようと、アビーさんをみると、さっそくクッキーの箱を開けて、むしゃむしゃ食べていた。そして、なくなりそうなクッキーは食べたそばから、上空から飛び込ませて箱に詰めていた。なんだか、ホッと気がぬけた。


「……ラリーは暫く戻らんじゃろうなあ。なにか、思い付いたのであろう。ああなると、他が見えんのだ。地下でなにか作るのであれば、今日はもう外出は無理であろう。妾はもう満腹じゃ。昼寝してくる。」


 そう言うと、上空にあったクッキーをフイッとして、元の大きな袋に全部入れてリボンで結ぶと、欠伸をしながら、部屋からフワフワと飛んでいった。部屋から見えなくなってから、遠くの方でアビーさんの声がした。


「暇なら外に出てきてもよいぞ。遠くに行かんようにな。あまり閉じこもっていては気が滅入るであろう。この家は窓が作れんのが、不便じゃのお。……」


 窓がうんぬんの話しは遠すぎて、よく聞こえなかった。ふとノアを見ると、アビーさんが袋に入れたクッキーのリボンを、一生懸命解いていた。とても頑丈な団子結びになっている。たぶん、ラリーさんが結んでいたように、可愛いリボン型にするつもりなんだと思う。


 それを静かに見守って待つ間に、クッキーをひとつ口に入れて、開けたままになっていた箱をしめた。うん。やっぱり。美味しいし、可愛いし、最高の宝箱だと思った。

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