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22.ノアと私の部屋

 なんとなくラリーさんが出て行った赤い扉を見ていると、スッと音もなく扉が消えて無くなった。


「そういえば、あの赤い扉はどうやったら現れるんですか?しばらくしたら消えますよね?」


 ノアに手で支えられてベッドから降りながら、側に浮かんでいるアビーさんに聞いてみた。


「うん?消える?エミリアには消えてみえるか?……それは、不便ではないか?そうか、ならば先に記憶させておくか。よし。中心木まで連れて行ってやろう。」


言うが早いか、途端にフッと体が浮いた。


「ま、待ってください!おばあ様。エミリアと僕は、自分で行きます。自分で!練習も兼ねて!だから、降ろしてください。」


「そうか?まあ、好きにするがよい。妾は先に行っておる。練習か、フフッ、そうじゃ、妾が魔法の使い方を教えてやらねばならぬ。ふむ。やはり、学校か……。」


なんだかブツブツ言いながら、アビーさんが部屋から飛んで行った。


「エミリア。手を出して。ゆっくりしてみるけど、怖かったら行ってね。」


 ノアと向かい合って、両手を繋ぐとゆっくりと二人の体が浮かび上がった。床から少し浮いた状態でフワフワと浮かんで、少し高く上がったりゆっくり降りるように着地したりを繰り返してから、今度は片手を繋いだ状態で、また浮かびあがる。体が羽のように軽くなって、手や足を自由に動かせる感覚が、とても楽しい。


「恐くない?もう一度降りて、歩いて行く?」


ノアが心配そうに顔を覗き込んで聞いてきたので、私は満面の笑顔で答えた。


「とっても楽しい!」


ノアも嬉しそうに笑ってくれた。


「ね、とっても楽しいね。体が軽くなって、フワフワして。ずっと浮かんでいたいくらい。」


「良かった。じゃあ、このままゆっくり、飛んで行こう。」


 ノアと二人で、手を繋いだままフワフワ浮かんでゆっくりと部屋を出ると、さっき部屋を出た時と同じ高さで、広いホールを見下ろしながら、ゆっくりと中心木の横に立っているアビーさんの近くに着地した。


「おお。上手いもんじゃな。魔力の扱いに慣れておるようじゃ。しかし、もっと速く移動できる飛び方も教えてやろうぞ。」


「いえ。速いのはいいです。怪我をしないように慎重にいきたいので。」


 アビーさんの理解できないとゆう顔が面白くて、思わず吹き出して笑ってしまう。


「フフッ。アビーさんは速かったり、勢いがある方が好きなんですね。」


「そうか?そうかもしれんが、速いとコツがいるのじゃ。膜を張るようにしてな。そうすれば、カラスどもとぶつかっても怪我をさせんですむ。」


「ああ、なるほど。それは教えてほしいです。膜とゆうのは……」


「おお。もう揃っておったか?もう少し待ってくれんか。まだ絨毯を取りに行っておらん。」


 食堂の入口の方からラリーさんが、なにか大きな袋を抱えながら出てきた。赤いリボンで可愛らしく縛っている大きな袋をアビーさんの足下に置いて、急いでまた食堂に引き返そうとしている。


「待て、ラリー。そう急がずともよい。今からエミリアを記憶させるのじゃ。」


「ん?部屋を作るのか?それともノアと同じ部屋にするのか?」


「ああ、どちらでもいいが?どっちがいい?」


 二人に顔を向けられて聞かれたけれど、ちょっと言ってる意味がよく分からない。チラッとノアを見ると、とてもいい笑顔をしていた。


「もちろん、同じ部屋でお願いします。」


えっと、つまりこのままでは、ノアと同じ部屋に住む感じになる?男女なのに?


「あの!別々でお願いします。……手間でなければ、ですけど。」


「妾はどちらでもよい。好きに決めるがよいぞ。」


「でしたら、どうでしょう。僕の部屋の中を増やすとゆうのは出来ますか?例えば、部屋の中にもう一つ部屋を作るとゆう事は可能ですか?……エミリア、どうだろう?僕はまだ、魔法に慣れてなくて、僕の近くにいてくれると心強いんだけど。嫌かな?」


不安そうにノアが見つめてくるので、安心させてあげたくなってしまう。


「私は、それでもいいよ。あの、でも確認なんですけど、私は、ここに住む訳じゃないのに、部屋を作ってもらってもいいんですか?」


 アビーさんを見上げて聞くと、心ここにあらずと言った様子で、床に直に広げた紙に、なにか熱心に書いているラリーさんの方を見ていた。


「ん?ああ……、なんでも……」


 両手の中からはみ出るぐらいの大きさの紙に、なにか文字や絵のような物を細かくビッシリと書き込んでいる物を書き上げると、ラリーさんが立ち上がって、アビーさんに手渡した。


「アビー、こんな感じでどうだろうか。なるべく簡潔にしたつもりだが。違ってる所は修正してくれ。」


 手渡された紙を真剣に見つめて、時折手を動かしたり、小声でなにか言いながら、考え込むように上を見上げたりしているアビーさんを、三人で静かに見守って待つ。


「……ふむ。こっちを一つに纏めて、ならば、やはり増やしてから書き換えるか。うむ。よい。」


 そう言うと、ツカツカと中心に生えている木に近づいて、まっすぐに腕を伸ばして手をついた。アビーさんの触れている所から、淡く光る赤い複雑な模様が木の全体に広がっていく。繊細な線や模様が広がっては消えていく様子は、とても美しくて見惚れてしまうけれど、辺りのなにかがギュッと凝縮されて集められていく不思議な感覚が、少し恐ろしくもあった。


「よし、ノアから先にこの木に触れよ。妾が良いと言ったら手を離すのだ。」


ノアが手を触れると同じように淡く赤い光が流れていって、すぐに消えた。


「よし。もう手を離してもよい。次はエミリアの番じゃ。こちらに来て同じように、この木に触れるのじゃ。手のひらをしっかり付けて、しばらく離すでないぞ。」


 こわごわ木に近づいて、なるべくしっかり手のひらをくっつけるように木に触れた。瞬間に硬いはずの木肌が柔らかくなったように、ズズッと手が沈んだ気がして、思わず手を引っ込めそうになったその時、ビカッと眩しいぐらいに辺り一帯が白く光った。一瞬とはいえ目が眩んで、手を離してその場にしゃがみこんでしまった。


「なんじゃ、今の光は?」

「目が眩む……。」

「光るのは失敗ですか?」


 座り込んだ私を助け起こしながら、ノアが聞くとアビーさんがさあ?と肩を上げて、首を傾げた。


「分からんから、見に行くとするか。」


とラリーさんが指さす方向に、赤い扉が見えた。


「あ!1階に出来たんですね。便利!」


 扉の方に駆け出しそうになった私の手をとって、ノアがフワッと浮いてから着地した。止めてくれなければ、足がもつれて転けるところだった。


「大丈夫?一緒に歩いて行こう。」

ニコッと笑うから、なぜか頬が赤くなってしまう。


「……ありがとう。」


「赤い扉は自分の部屋だから、好きな場所に出せるんですよね?……違いますか?」


「いや。間違ってはないぞ。面倒でなければな。」


 全員で新しくできた赤い扉まで歩いて行く。扉に向かいながら、ノアはさっきラリーさんが書いていた紙を貰って、なにか難しそうな質問をしていた。ノアには、あのビッシリ細かく書いたものが読めるようだった。やっぱりノアって賢いんだね。


 扉の前までくると、ひとりでも入れるか試すらしく、私だけ先に部屋に入った。すぐに他の三人も部屋に入ってきて、みんなで部屋の中を見渡したけれど、特になにも変わっていないようだった。けれどよく探してみると、奥の方のタペストリーが掛かっている壁に、もう一つ入り口ができていた。扉はついていなかった。


「あ、なんか入り口が増えてます。あそこ!」

「む?扉がついておらんな?」

「え?失敗ですか?」

「いや、まずは見てみよう。」


 タペストリーを持ち上げて、入り口から中をのぞくと、驚くほど広い空間が広がっていた。所々に階段もついていて、たくさんの扉がついていない入り口の向こうにもまた、入り口が見える。ちょっと、広すぎない?部屋の中で迷子になると思う。


「ちょっと、これは、ものすごく広くて、迷子になりそうです。」

「失敗ですか?ここに書いてある部屋の構造と大分違うんですけど。」

「ううむ。しかし、狭いよりいいではないか。広いぶんには困らんであろう?」


「迷子になったら、困りますよ。エミリア、危ないから、こっちの部屋は使わないでおこう。僕がもっと、魔法に詳しくなったら、部屋を作りなおすよ。それまで、僕と同じ部屋でいいかな?この部屋には一人でも入れるようにはなったみたいだから、いつでも入れるよ。」


「うん。ノアがよければ、そうさせてもらう。迷子になって、出てこられなくなったら、危ないし。でも、あとでちょっと探検してみたいかも。その時は、一緒に来てくれる?」


「もちろん。僕はどこにでも、ついていくよ。」


 ひとりでは広すぎて恐いけれど、中がどうなっているのかは、興味がある。だって、もしかしたら、温泉とかあるかも。部屋の中にお風呂って、普通のことだよね?


「扉が一つもついておらんようだな?ふーむ。」


 ラリーさんはまだ納得がいかない様子だったけれど、先の予定もある事だし、部屋の探索はまた今度することにして、みんなで一緒に、ノアと私の部屋を出た。

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