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21.私とノアの魔法

 どこかフワフワと浮かんで漂う感覚を、知っている。ここは、たぶん夢の中。いつもは、ただただ心地よく漂っていただけのような気がするけれど、今はいつになく意識がハッキリしている。後悔、懺悔、悲しい気持ち、そんな気持ちが、私の心を占めて悲しくて、悲しくて、辛くてならない。


 どうして、どうして、ごめんなさい。ごめんなさい。……どうして、いや違う。私のせいなんだ。あの雨の日、雨の中で目覚めた時には、もうノアと私は混ざっていたんだ。どうやったのかは、分からないけれど、ノアは私を助けようとして、助けようとしただけなのに、私が、ノアの魔法のなにか大事なものを、奪ってしまったんだ。


 だから私の髪の色はもともと茶色だったのに、アビーさんと同じ色の赤い髪に変わって、もしかしたらノアの髪の色は、もともと赤かったのかもしれない。ノアの体の中に魔法が籠って、私に触れていないと、魔法が使えなくなってしまったのは、私のせいだ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


「……リア!……エミリア!エミリア!エミリア!」


 ゆさゆさと体を揺さぶられて、目が覚めた。いつものように、すぐ目の前にノアの心配そうな顔があった。


「エミリア。ごめん。寝かせてあげたら、回復するのは分かっているんだけど、あんまり悲しそうに、泣いてるから。起こしちゃって。……大丈夫?」


 体を起こして顔を触ると、確かに涙で濡れていた。髪も濡れていたけれど、触っているうちに乾いてしまった。


「ごめん。ノア、私のせいで。」


 また、涙がどんどん溢れてきてしまう。もう取り返しがつかない。私は、ノアにどう償えばいいのだろう……。私の命を助けてくれたのに、なにも返せない。


「え?なにが?ど、どうしたの?泣かないで。エミリアはなにも、謝ることなんてしてないよ?なにか、悲しい夢をみたんだね?もう大丈夫だよ。」


ノアが慌ててアワアワしているけれど、私の涙は止まらない。


「違うの。……違くて。うう。」


「待て待て、ノアよ、まずはエミリアの話しを聞こうではないか。」


「そうじゃ。先ほど倒れたのだ。体の具合が悪いのであろう。まずは早う、聞き出すのじゃ。」


あ、違う。違う方向に、心配をかけてしまっている。


「体は、なんともないです。大丈夫。そうじゃなくて、私。」


 私は意を決して、話し出した。私のせいで、ノアの魔法が籠っていて、私に触れていないと魔法が使えないらしい事。私の髪。ノアの髪。土砂降りの雨の出来事。思いつくまま、全部。ああ、それに、あの小さい子達。あの子達が見えるようになったのも、ノアの魔法だったのかも。あの時の事も。全部、全部。私のせい。私が奪って……。


「待って、待って。エミリア、ちょっと待って、謝らないで。ああ、泣かないで。ごめん。話を遮ってしまって。でも聞いて、聞いてほしい。僕、なにも、怒ってないよ。不便とも思ってないんだ。不満なんて、ひとつもないよ。エミリアに触れて、魔法が使えるなんて、素晴らしいよ。最高だよ。」


「え?」

思いもしないことに、涙が引っ込んだ。え?どおゆうこと?ちょっと、思考が追いつかない。


「うん。だからね。僕はなにも困らない。むしろ、嬉しいんだ。」


「え?」え?なんで?


「あ、それに、僕の髪の色はもともと黒いよ。今と一緒だよ。あ、それに、小さい子?ええと、その子達はもともと見えた事ないよ。エミリアと出会う前にも。」


「え?」どおゆうこと?

困惑して、声が出ない。


「それに、もともと僕に魔法が使えるなんて知らなかったし。今までも魔法を使ったことが無かったし。もし、また今から魔法が使えなくなったとしても、なにも困らないよ。」


「うむ。ノアが困らないのなら、なにも問題無いのではないか?それに体内にある魔力を奪う方法などないぞ?そもそも奪う類のものではないのだ。魔力が籠っておるのはノアの体質であろう。ただの個性じゃ。元々使えぬものが使えるようなったのだ、良い事ではなか。あとは、そうじゃ、小さい子達とは、なんじゃ?妾は知らぬが、ラリー、なにか知っておるか?」


「いや。なんの事かは分からんが。小さいとは、どれぐらいの大きさなのだ?わしらドワーフ族は、他の種族に比べて小さいと言われる事があるようだが。」


「いえ。違います。ラリーさんの事じゃなくて、えっと、これくらいの。外にいっぱいいる。いろんな色の。あ、透けてる子とか。」


「これくらい?うむ?虫やなにかではなく?分からんな。聞いた事もないが。本の部屋で調べれば、なにか分かるであろうか?アンドレがずいぶん図鑑を集めておったからな。」


「おじい様、僕は本の部屋の本は、すべて読んだ事がありますが、見たことがありませんよ。」


 本の部屋って、ノアと一緒に入ったあの、黄色い扉のことだよね?あのすごい量の本を全部読んだって、凄すぎる。あの部屋の本って、確かいろんな文字で書かれてあるって言ってたよね。ノアってもの凄く頭が良いんじゃないかな。


「ノアって、頭が良いんだねえ。」


 思わず声に出して言っていた。照れたように顔を赤くしたノアが、嬉しそうに笑う。


「そんな、ことはないけど。僕は他に何もする事がなかったから……。でもエミリアに褒めて貰えるなら、本を色々読んでて良かったよ。」


 とても嬉しそうに笑うノアの顔を見ながら、私は切なくなってしまう。アビーさんもラリーさんも、すごく微妙な顔になっているし、とても気まずい。


「えっと!あの、そうだ!私!あの子達のことは、そんなに気にしてないってゆうか、悪い子達じゃないし、どこか大きな町とかだったら、たくさん本があるだろうし、そしたら調べられるし、えっと、だから、なんの話だったっけ?」


すごく焦る。誰にも、悲しい気持ちになってほしくないのに。


「ふむ。つまり、ノアのなにかを奪ったと思っておったが、誤解であったと。ならば謝る事はなにもあるまい。それに、分からぬ事は、考えても分からぬ。」


 そうかな?謝る事はなにも無い?ほんとに?ノアは不便になったんじゃないの?もし私が魔法使いで、他の誰かに触れていないと魔法が使えなかったら、すごく不便で、嫌だなと思う気がするんだけど。奪ってないと言われても……。チラッとノアの顔を見ると、嬉しそうにニコッと微笑まれた。なぜか、ノアは嬉しそうなんだけど、どうしても腑に落ちない。


 それでも、アビーさんが言ったように、分からない事は、考えてるだけでは、分からない。これから、なぜノアの魔法が混ざっているのか調べに旅に出る予定だったし。もしかしたら、治せるかもしれない。それに、私は私の事を、知らなすぎる気がするし、自分の事もちゃんと分かるようになりたい。


 私は何なのか。何者なのか。小さい子達の事も含めて、調べたり、本とか、分かる人とか、探して、だから私は、私は私を探す旅にする!あれ?なんか恥ずかしい?なにが?自分探しが?自分探し(笑)え、なんだろ。笑っちゃう。うん、でも、それでいいかも。楽しいほうがいいよ。絶対。頑張るぞ!おー!


「やっぱり1回ちゃんと謝るよ。ごめんね。それと、ありがとう。助けてくれて。ノアは、不便になっちゃったのかも、分からないけど。でも私、一生懸命、治し方を探すから!いつか混ざってるの、元に戻そうね!私、その為に頑張る!」


私は三人にむけて、元気いっぱいに宣言した。


「おお。元気いっぱいなのは、良いことじゃ。良きかな。良きかな。」


「うんうん。前向きなのは、良いことだ。」


なぜか、ノアだけは微妙な顔をしてるけど、気合入れて頑張るよ、私。


「では、羊飼いの家には、明日行くことにするかな?今出れば、まだ明るいうちに帰って来られるが。体調はどうかな?」


「私は大丈夫です。どこも悪くないです。心配かけてすみませんでした。」


「気にせずとも良い。であれば、今から羊飼いの家に行くとしよう。妾はその後に結界を調べに行ってくる。」


「わしも一緒に調べよう。絨毯にするのだから、みんな一緒だろう。そうと決まれば、わしは今から手土産の用意をしてくる。」


 ラリーさんが慌てて部屋から出て行った。その慌てた後ろ姿がドタドタドタと音がしそうで、なんだかとても可愛く思えた。

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