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1.雨の中

 どこか遠くの方で、雨が降っている音がしている。微かに雨の音がする以外は、とても静かで日なたのようにぽかぽかと暖かい。どこかから、やさしく花のような香りがして、とても居心地がいい。


 ふわふわと浮かんで、くるんと回ったり、ポヨンと弾んでみたり、とても楽しい。このまま、いつまでも、ずっとここで、ふわふわ心地よく漂っていたい。


 それなのに遠くで聞こえていた雨音が、だんだん大きく耳障りになってきていた。どこかで子供が泣いている声が聞こえてきたけれど、姿はみえない。


「………エミー……エミ…リ…ア……エミリア……!」


 どこかで誰かが、泣きながら名前を呼んでる。エミリアって、誰のこと?……もしかして、私のこと?私の名前、エミリア?……う~ん?……そんな気がするような、しないような?


「……エミリア……おねがい……おきて……目をあけて……」


 ああ、そうか、私、眠ってるんだ。……でも、まだ眠っていたい。もうすこしだけ、あとちょっとだけ、もう少ししたら起きるから、このまま……居心地の良い夢の中が名残惜しくて、目を開けて起きるのをためらってしまう。


 ふと冷たい風がおでこをかすめて、前髪を巻き上げた感触がした。ポツポツポツと、絶え間なく雨粒が顔に落ちてきている……?えっ?私、外で寝ている?どうして外で?早く起きなきゃ!と思った瞬間に、どこか高い場所からヒューーーンと落下する感覚に目が覚めた。


「うひゃあ~ああ~あ!」


 心臓がバクバクと破裂しそうに脈打っている。呼吸が苦しくて咽て咳き込んだ。落ちたと思ったけれど、私の体は初めからここに横たわったままだったようだ。しっかり目が覚めたのはいいけれど、そこからが大変だった。


 まず、思っていたよりも3倍は激しく雨が降っている。こんな土砂降りの雨の中を、どうして今まで眠っていられたんだろう。まあ、そんな事よりも、とにかく、とにかく!


「痛~い!あちこち痛い~!足が、腰が、背中も、頭も、どこも全部いった~い!なんで?どうして?」


 どこもかしこも軋む音が聞こえてきそうに痛むし、あちこち擦りむいているみたい。手のひらの擦り傷に気をつけながら、とにかくゆっくり上体を起こしてみる。泥だらけどころか、泥の中から今這い出してきましたとゆうぐらい、泥まみれ。


 えええ?私は、何をしていたんだっけ?ここは、どこだろう?ため息を吐きつつ、片手で体を支えながら周りを見渡してみる。激しすぎる雨のせいで視界が悪いけれど、目を凝らしてよく見てみると、すぐ側でうずくまっている子供がいた。


 驚いて叫びそうになったのをなんとか堪えてから、声をかけたけれど反応はない。背中が微かに上下に動いているので、寝ているのかもしれない。泥人形みたいになっている私には、言われたくはないだろうけれど、頭を地面につけているので、長い黒髪が泥に絡まっていて、大変に汚い事になっている。


 こんな所で寝ていたら風邪をひいてしまうし、なんとか起こしてあげなくては。体を少しひねって、泥だらけの子供の体をなるべく優しく、すこし揺すってみた。


「もしも~し。起きて~。イテテ。ここで寝てたら風邪ひくよ。イタタ……。」


 それにしても、そこら中が痛い。足も挫いているのか、ズキズキと痛む。足首を触ってみると、出血はしていないようで、少しホッとしる。よかった。ガバッと音がする勢いで、隣で寝ていた子供が泥を巻き上げながら顔を上げた。


「エミリア!よかった!生きてた!僕、間に合わなくて!ごめんっ!僕……!」


 泣きながら話してくれた話によると、私はつまずいて小さな崖から落ちたらしい。つまずいて、崖……!……小さいけど、崖!憶えてないけど、全然、憶えてないけれども。


 もしかして、危なかったんじゃ?命が危険だったんじゃないの?この男の子の事も思い出せないんだけど、どうやら助けようとしてくれたみたい。長い黒髪のせいで顔が見えなくて、そもそも泥だらけで顔立ちは分からない。


「エミリア。大丈夫?どこかケガしてない?どこが痛む?」


 必死にあちこち触りながら、心配してくれている。……誰かは、まだ分からないけれど、知っているなら、早く思い出せたらいいのになと、まだぼんやりしてズキズキと痛む頭で思った。


「……どこもかしこもが、イタい。」


 男の子は焦ったように立ち上がりながら、私の手を持ち上げた。「エミリア。僕の家に行こう。ここから少し歩くけど、歩けないならおぶって行くし、僕と手をつないでいたら、エミリアも中に入れると思うんだ。行こう。」


 思いのほか強い力で手を掴まれたけれど、ゆっくり優しく抱き起こしてくれた。話しているうちに、いつの間にか小雨に変わってきていた。地面がビチャビチャで歩きにくいし、ズキズキと足は痛いし、頭はガンガンと痛む。


 男の子に支えられて歩きながら、まだぼんやりする頭で、ゆっくり考えてみる。この男の子は誰だったかな。私は何をしていたのかな。そもそも、わたしって、私は……


 息が上がって、頭が痛くて、ゼーゼー息をしながら、だんだん薄れていく景色をどこか遠くの方に感じながら、ゆっくりと意識を失ってしまった。

「夢と魔法の旅」に出るのは、少し先になります。

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