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18.ノアの魔法

 夢の中で夢をみていた。変な例えだけど。深い深い森の中、綺麗な水が湧き出る湖のほとり、透明な水がぽこぽこ生きているように湧き出ている水源を、ぼんやり眺めていた。と思ったらいつの間にか、木どころか草一本生えていなくて土もない、石とガラスで出来たような四角い建物に囲まれた場所で、空まで届きそうなその高い建物を見上げていた。どこまでも続くはずの青い空が、切り取られたように狭く見えた。


 その不思議な光景がなぜか恐ろしくなって、顔を下すと地面には真っ直ぐな白い線が引かれていた。すぐ側をとても速いなにかが通り過ぎた。風がビュンと音を立てる程はやく、大きく、少しでも動いたら当たって砕けて、自分が無くなってしまいそうで、足がすくんで一歩も動けない。怖くて、ここから早く逃げ出したいのに。途切れる事無く通り過ぎていくこれは、なに?……分からない。なぜ分からないのか。分からない事が、怖くてならない。


 なにも、分からなくて、……まるで、魔法のように。魔法みたいに……、魔法。そう、魔法だ。魔法使いのおばあさん。あ、でも、アビーさんはとても若く見えて、美人で、おばあさんって感じじゃなくて……。


 突然パチッと目が開いた。すぐ近くの顔の目の前にノアの顔があって、ビクッとなったけれど、もう慣れた。


「おはよう。ノア。」


まだすぐ目の前に、心配そうなノアの顔がある。


「……もう朝?私、一晩眠っただけだよね。」


「おはよう。エミリア。今は朝だし、一晩眠っただけだよ。寝坊もしてないよ。……ごめんね。僕、心配で。」


 ようやく少し離れてから、申し訳なさそうに謝るのでちょっと切なくなる。ノアはたぶん、両親がある日眠ったまま起きなくなった事で、トラウマを抱えているんだと思う。起きてすぐ目の前に顔があって、ビックリすることぐらい、なんでもない。


「なにも、謝ることなんてないよ。」


 安心してもらえるようにニコッと笑って、頬を撫でた。その手に自分の手を重ねながらノアがまた心配そうになる。


「ちょっと、うなされてたみたいだけど、怖い夢でも見た?」


「うなされてた?夢でも見てたのかな?全然憶えてないけど。……そういえば、」


 バアーンといきなり勢いよく扉が開いた。


「朝じゃ!おう!起きておったか!よし。皆で朝食じゃ。連れて行ってやろう。」


 アビーさんが手をフィッとすると、体がふわっと浮いた。このままでは、またあの超高速移動が待っている。思わず慌ててノアにギュッと両手でしがみついた。


「おばあ様、いきなり浮かせて動かすのは止めてください。」


 ノアがアビーさんに向けて手を突き出した。とたんに浮いていた体が、ドスンとベッドの上に落ちた。三人共が驚いて、無言で顔を見合わせた。


「おお。驚いた。妾の術を消し去るとは……!なんと!そなたの魔力は強力なのではないか?籠っている魔力をどうやって使ったのだ?」


不思議そうにノアが両手を見つめながらつぶやいた。


「……分かりません。……分からないけど……、もしかしたら、魔法を使う時には、なんて言うか、ホワッと温かくなりますか?シュッと流れるってゆうか……。」


 ゆっくりと自分の手の平から、アビーさんに視線を移しながら、まだ半信半疑な様子でノアがおずおずと聞いた。


「む~ん。ホワッと、シュッとか。そう言われればそうかもしれんし……、よし。よく分からんから、もう一度やってみよう。」


ノアが一人ベッドから出て、アビーさんの目の前に立った。


「おばあ様、ゆっくり少し浮かせるだけにしてくださいよ。勢いよくも止めてください。落ちたら危ないので。」


「むむ。加減か。やってみよう。」


言ったとたんに、ノアが天井にぶつかる寸前までブンッと浮かび上がった。


「ヒイイッ!」


 思わず私が悲鳴を上げてしまった。アビーさんが小さな声で「しまった。」と呟いたのが聞こえたような気がした。


「おばあ様、ゆっくり下ろしてください。」


「おお。ノアよ。そなた笑いながら怒るとは、なんと器用な。顔は笑っておるのに怒っているとは、なんと面白い。面白い顔じゃ。ハハハハッ。可笑しい。アハハハハハッ。」


 大笑いしているからか、ノアが上空でビョンビョン上下している。天井にぶつかる程の高さではないけれど、いつ落ちてくるかアワアワ、ヒヤヒヤしてしまう。上がったり下がったりしながらも、手を前に突き出したり、反対の手を出してみたり、色々やっているから魔法が使えるのか、ちゃんと試しているところが真面目で偉いと思う。


「……もういいです。ゆっくり下ろしてください。」


 なんだか寒気がするほど低い声がノアから発せられた。部屋が寒くなる魔法があるんだとしたら、使えてると思う。アビーさんには効いてなさそうだけど。

案の定とゆうか、ノアがボンッと落ちた。


「いっ!……僕には魔法は使えないようですね。さっきのは偶然だ。では、僕はエミリアと歩いて行くので、おばあ様は先に行ってください。じゃ、お先にどうぞ。」


 よほど怒っていそうな言い方だったけれど、ベッドに戻ってきて、私の手をとるノアの顔をこわごわ見上げると、予想に反して優しい笑顔だった。


「大丈夫?……その、気持ち悪くなったりとか。」


「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。エミリアの顔を見たら、全部吹き飛んだよ。不思議だ。魔法みたいだね。」


「ん?エミリアも魔法が使えたか?どんな魔法だ?」


まだそこにいたアビーさんが話すと、ノアの笑顔に一瞬青筋がたった。


「おばあ様、まだ居たんですか。エミリアには魔法は使えませんよ。言葉の綾です。先に、行ってくださいね。僕とエミリアは歩いて行きたいので。」


「なあ~んだ。」


 と興味をなくした子供みたいに言ってから、宙返りしながら浮かんで部屋から出て行った。ノアを見ると、目を瞑って深呼吸している。吸って吐いて吸って……、落ち着いてきた頃を見計らってから、声をかける。


「そういえば、アビーさんが元気そうで良かったね。昨日はすごく眠そうだったから、ラリーさんがすごく心配してたもの。ね?」


 宥めるように肩に手をおくと、ノアがその手に自分の手を重ねてきた。そして包むように手をもつと、肩から下ろして撫でてから、いちどキュッと手を握った。


「ありがとう。エミリア。……そうだよね。僕の家族だ。想像していた家族とは、ちょっと違ったけど。」


「あのね、うまく言えないけど、怒った時は我慢しないで、怒ってるって言ってもいいと思うよ。もし私なら、思ってることは言ってくれる方が嬉しいと思うから。」


握った手を頬にあてて、ため息を吐いた。


「そうなんだ。そうだよね。僕、慣れてなくて。これからも僕と一緒にいて、教えてくれる?エミリアと一緒なら僕、うまくやっていけると思う」


「私でよければ。私も詳しいわけじゃ、ないんだけど……。」


 頬にあてていた私の手の甲に、ありがとうとお礼を言って、チュッと口づけした。顔が一瞬で真っ赤になって、ボッと火がついたような音がした気がする。

なんてゆうか、なんてゆうか、ノアって、ちょっと、うまく言えないけれど、心臓をドキドキさせるって言うか、汗が噴き出るってゆうか、普通?これが普通なの?ドキドキ意識しちゃう私がおかしいの?……あ、種族?種族が違うから?

あとでラリーさんに、種族の違いのこと、聞いてみなくちゃ。


「そろそろ朝ごはんを食べに行こうか?お腹減ってない?」


「あ、そうだね。待っててくれてるかも。急いで行こう。」


 手を繋いだままだったから、心臓はうるさかったけれど、早歩きで階段を駆け下りたからだと、自分に言いながら食堂に向かった。

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