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152.とても大事なお祝いの飴

 私達はなるべく静かに過ごして、メイベルさんの受験を応援していた。そうしているうちに、ノアはあまり出かけなくてもよくなって、ピートさんとベリーさんと一緒に頻繁に訓練していた。そして、よくベリーさんのことをスパルタとか鬼軍曹と呼んでいて、その時には、二人共がヨロヨロになっていた。


 そして、アビーさんとラリーさんはずっと荷馬車の中に籠って、私の部屋の模様替えをしていた。ラリーさんはとにかく毎日せっせと大量のハンガーをたくさん作ってくれていた。私がカレンさんに貰ったたくさんの服をアビーさんがとても気に入ったので、私は言われるままに毎日何回も着替えて、いつもヒラヒラした派手な服を着て過ごした。


 それからしばらくして、宿の中が一際ビリビリと音がしそうな緊迫した日々が続いたある日、メイベルさんが王都の学校の試験に受かった。メイさんと二人で私達の部屋に知らせに来てくれたメイベルさんは、編入試験には受かったけれど、飛び級試験には落ちたとゆうことで、すごく悔しそうにしていた。


 それで受かったのか落ちたのかが分からなくなって、焦ってピートさんと二人でみんなから離れて窓際でアタフタしていると、ノアが近づいてきて受かったから喜んでいいと教えてくれた。王都の学校は、すごく賢い人達が学びに行く所なだけあって、なんだか試験結果もややこしかった。


「おお?じゃ、やっぱりめでたいんだよな?試験に受かったんだろ?王都の学校に通うことになるんだよな?それなら飴を贈らないとな。王都にも祝いの飴は売っているよな?」


「いわいのあめって、なんですか?」


「エミリアは知らないのか?祝いの飴ってのは、節目の祝いに贈る飴だよ。結婚した時とか、赤ん坊が産まれた時とか、学校に行く年とか色々だけど、こんぐらいの小さいのがいっぱい、いろんな色の……、見たことないか?」


「見たことはありませんけど、王都のことなら、ベリーさんに聞いたら分かるかもしれませんね。」


「あ、そうか。俺ちょっと下に行って聞いてくる。やべえ、飴が無いかもなんて、考えたこともなかった。」


 ピートさんが慌てて飛ぶように早く走って部屋を出ていった。急いで出かけていったピートさんに驚いて目を瞬かせたメイベルさん達が、窓際にいるノアと私に近づいてきた。


「なによ、ピートのやつ。私におめでとうも言わないで出かけちゃってさ。感じ悪い。」


「メイベルさんおめでとうございます。ピートさんはいわいの……。」


「メイベル、合格通知は持ってきた?制服のことは何て書いてあったの?」


「え?ああ、そうそう。それをノアに聞こうと思って持ってきたのよ。エミリア、ありがとう。後でゆっくり喋ろうね。」


 メイベルさんは少し痩せてしまっていたけれど、もうすっかり元気そうだった。私は、元気で溌剌としたいつものメイベルさんの様子が嬉しくて、ノアとメイベルさん達がなにか話し合いをしている間も、ずっとニコニコが止まらなかった。


「じゃあ、やっぱり早い方がいいよ。明日みんなで行こう。ピートにも言っておくよ。」


 ノアとメイさん達の話し合いが終わって、メイベルさんと楽しくお話しをしながらお菓子を食べて、夕方になってメイベルさん達が家族の部屋に帰っていっても、ピートさんはまだ帰ってこなかった。私とノアが心配になって、ベリーさんの部屋を訪ねていくと、ピートさんはとっくの昔に帰っていて、王都に祝いの飴の習慣がないことを知らせると、もの凄くショックを受けた様子だったと教えてくれた。


「何も言わないで出かけたのかしら?ずいぶん落ち込んでたけど、大丈夫かしら。……あの、飴って、ピートが言ってるような飴じゃないとだめなの?たしか私、柔らかくて小さい飴みたいな物は食べたことがあるの。濃厚で美味しかったと思うんだけど、あと、つるつるはしてないけど、砂糖の塊みたいな物も見たことがあるわ。あれは割ったら小さくなるだろうし。……そうゆう、いろんな甘い物を箱に詰めて贈ったらだめなのかしら。」


「僕には分からないけど、ピートには何かこだわりがあるらしくて……。」


「……そう。その飴の作り方を私が知っていれば、作ってあげられるんだけど。困ったわねえ。」


「あ!そうか、自分で作ったらいいんだ。飴の作り方を知っているか、おじい様に聞いてみます。おじい様はいろんな料理に詳しいから、きっと知ってる。」


 私とノアはとてもいい考えが浮かんで、はしゃいだ気分で階段を駆け上がって、ラリーさんのいる荷馬車に向かって急いだ。廊下も走って私達の部屋に入ると、扉を開けた途端にピートさんがいてぶつかりそうになった。ピートさんは、ちょうど今帰ってきたようだった。


「あ!おかえり、ピート。ちょうど良かった。飴のことなんだけど。」


「……無かった。王都には、祝いの飴はねえ。下町にも、中心街の方にも探しに行ったけど、やっぱり、……そうゆう、習慣はねえって。俺は、あんなに頑張ってたメイベルを、祝ってもやれない。」


 ピートさんはうなだれてしまって、とても落ち込んでいた。自分を情けなく思う気持ちや、疲れて落胆する気持ちで溢れかえっていた。


「……そんな訳ない。祝ってあげたい気持ちがあるのに、祝えないなんて、そんな訳がないよ。ピート、飴が売ってないなら、自分たちで作ろう。おじい様がきっと作り方を知ってるよ。おじい様は、料理のことは何でも知っているんだ。今それを聞きに行く所なんだ。僕達みんなで作った飴なら、メイベルはきっと喜んでくれるよ。」


「そ、そうか!?飴は、自分で作れるのか?……言われてみれば、人が作ってるんだから、俺達に作れないはずがないよな!?師匠は、作り方を知ってるかな!?よし!急いで聞きに行こう!」


 ピートさんが先頭を走って、部屋の中の階段を駆け上がっていった。そして、私達の部屋に置いてある鞄をガバッと開けて、大きな声でラリーさんを呼んでいた。


「師匠!師匠!聞きたいことがあるんだ!飴の作り方を知ってるか?ちょっと急いでて!出てきてくれ!師匠!」


「なんだなんだ?なにごとだ?なにがあった?」


 慌てて鞄から出てきたラリーさんは、片手におたまを持っていた。料理の最中だったようで、ラリーさんからは美味しそうな良い香りが漂っていた。


「飴の作り方とな?ふむ。小さくてつるつるしている飴か。ふむ。いろんな色があるんだな。ふむ。みんなで作るのか。ふむ。なるほど、贈り物か。」


「師匠、知ってるのか。知らないのか。飴は俺達に作れるのか?」


「うむ。飴はお前さん達にも作ることが出来るだろう。その飴の作り方は簡単なんだが、難しくもある。そこが楽しい所なんだが、みんなで一緒に作るなら、わしの言うことをよく聞いて、安全に十分配慮することを約束してほしい。食べる物を作るとゆうことは、とても重い責任が伴うものなんだ。」


 ラリーさんは真剣な顔つきになって、私達三人の顔を順番に見渡した。そして、最後にまた私の顔を見て、なぜか心配そうな困ったような顔になった。


「分かった。約束する。なんでも言うことを聞く。俺は、メイベルに祝いの飴を作って贈ってやりたい。」


 ピートさんがそう決意を伝えると、私とノアも一緒に頷いて、ラリーさんにみんなで約束した。


「そうか。それなら、みんなで飴を作れるようにわしが準備しよう。そうだな……、今夜、宿の厨房を使わせてもらえるように手配しておこう。しかしその前に、みんなで晩ごはんを食べよう。なにをするにも、まずはしっかりメシを食わねば始まらん。すぐに用意ができるから、みんな手を洗ってきなさい。」


 ピートさんは嬉しさで跳ね上がりながら手を洗いにいった。ラリーさんは嬉しそうにその後ろ姿を見送ってから、ポケットからまた木枠を取り出して、この部屋と荷馬車の厨房を繋いでから中に入っていった。


「良かった。今夜中にはなんとかなりそうだ。僕が美味しい飴を作れたら、エミリアに贈るね。飴ってなんだろうね。楽しみだなあ。」


「ありがとう。私も美味しく作れたら、ノアにあげるね。」


 晩ごはんの後に、みんなで1階にある厨房に下りていった。とても広い厨房には誰も居なくて、ラリーさんが設備をくまなく点検していた。その間に私達は全員が同じようにエプロンをつけて、頭に布を巻いて、しっかりと綺麗に手を洗った。そしてまず始めに、食べる物を作るときには、清潔にすることがいかに重要かとゆう、ラリーさんの長い大切な話をみんなで真剣に聞いた。


 それから、ラリーさんが説明をしながら飴を作ってくれた。飴はあっという間に出来上がって、型に入れた小さな飴を取り出して、ピートさんが恐るおそる口に入れると、カッと目を見開いて喜んだ。


「飴だ!!こ、これが自分で作れるのか!すげえ!うめえ!」


「そうかそうか。そんなに美味いか。どうやら成功だな。良かった。みんなさっきも言ったように火加減には気をつけてな。簡単だからと気を抜いていたら火傷をするぞ。色をつける場合は、わしが用意したこの色の素を少しだけ溶かせばいい。果物から作っていてな、それぞれ違った美味しい味になる。」


 私達三人はそれぞれ小さな鍋を持って、今度は自分たちで飴を作ることになった。ピートさんがよしっ!と気合を入れてから、砂糖が入っている壺を手にした。もの凄くみなぎる気合いと緊張を発していて、まるで戦いに挑む人みたいだった。


 飴を作る工程は、簡単に言えば砂糖等を煮詰めるだけだったけれど、私はどうやっても黒くて苦い飴しか作れなかった。ちゃんと鍋を見つめて、目を離していないのに、何回やっても一瞬にして焦げてしまう。そのうちの何度かは、なぜか鍋の中身が無くなって空っぽになった。まるで魔法みたいに不思議なことが、私の鍋の中で起こっていた。


 周りを見ると、ノアもピートさんも真剣に鍋と向き合っていて、ピートさんはどんどん、いろんな色の飴をたくさん作っていた。そしてノアは、楽しそうに見たこともない糸みたいな飴を作っていた。気になって見ていると、次はなにかぐるぐるして、ふわふわの雲みたいな飴も作っていた。ノアのことをお手本にしようと思っていたけれど、ラリーさんの作り方と全然違っていて、とても独創的で、私には真似できそうになかった。


「エミリア、わしの飴を手伝ってくれないか?この果物にそれぞれ棒をさして、鍋の中の飴をからめるんだ。こんな風にまんべんなく。……まずは食べてみるかね?」


 ラリーさんの飴は、いろいろな果物の外側を薄いパリッとした飴で包んでいて、口に入れると、甘くてカリッとして、それにじゅわっと酸っぱくて、とっても美味しい。それになんだか楽しい。


「美味しい!私にも、この飴が作れますか?」


「もちろん。どんどん棒にさしてくれ。これもまたいろんな色の飴だろう?」


「はい!とっても美味しくて可愛いから、きっとメイベルさんも喜んでくれます!」


 私達が大量に作った飴は、箱ではなくラリーさんが作った保存のきく瓶に詰めて、可愛いリボンを結んだ。すると、瓶の中に入った色とりどりの飴がますます綺麗に見えて、ものすごく素敵な仕上がりになった。


 本当はお祝いの席で渡す物らしいけれど、ノアとピートさんが話し合って、明日の朝、学校の制服を買いに行く前にメイベルさんに渡すことになった。私は、明日の朝がとても待ちきれない気持ちだった。みんなも同じ気持ちのようで、ドキドキ、ワクワクしながらみんなで協力して厨房の後片付けをした。


 ラリーさんが最後の片づけは、始めた時よりも綺麗にしなければならないと教えてくれたので、みんなで一生懸命に掃除をして、厨房をピカピカに磨き上げた。綺麗になると、たしかにみんなが清々しい気持ちになって、この厨房に充実した幸せな気持ちがほんわかと漂っていた。

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