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133.大仰な喧嘩

 私とノアが手を繋いで、池の畔のカレンさん達の目の前に降り立つと、二人はなぜかとても慌てた様子で、なんだかワチャワチャした動きをしていた。


「……すみません。お取込み中に失礼します。ええと、僕達ベリーさんを迎えに来たんです。悪者たちと一緒くたに飛ばしちゃって、すみませんでした。それに、突然なんですけど、カレンさんも僕達と一緒に来てください。」


「えっ?……え?私?」


「……オホン。私のことは気にしないで。私に何も謝らなくていいのよ。悪漢と一緒に飛ばされていなかったら、カレンさんを守れなかった訳だし。あっ、この部屋に侵入した不届き者達は縛って向こうの部屋に閉じ込めてるんだけど、どうする?まだ気絶してると思うけど?」


「放っておいていいですよ。それより神殿の中が騒がしいようなので早く脱出してしまいましょう。エミリアが飛んで帰りたいと言っているので、僕が雲を出しますね。詰めたら4人共座れます。」


「え?あの?待って?曇って?いえ……、いいえ、私は、一緒には行けないわ。私は、ここに居なくちゃ、いけないの。そう、約束しているから。……だから、私はどこにも行かないわ。」


 カレンさんはこの状況に戸惑いながらも、まだ教皇との約束を守ろうとしているようだった。それは……、カレンさんが守ろうとしているその約束は、メイベルさん達や私を神殿から解放する為に、カレンさんが犠牲になるものだとゆうことを今の私はもう知っている。だから、私はその約束は絶対に、カレンさんに守ってほしくない。


「カレンさん、お願いします。私達と一緒に来てください。私、カレンさんを誘拐しに来たんです。私達の為に、カレンさんに犠牲になってほしくありません。そんなのは、とっても悲しいです。」


「……エミリア、それで私の為に、戻って来たの?私を助けに?そんな、危険なことしちゃだめよ。教皇は王族なのよ。この国でも有数の権力者なの。……私が、逃げられるわけがないのよ。だから、私のことは忘れて、騎士様を……、ベリーさんだけを、つれて行ってあげて。」


「カレンさん、教皇は約束を守りませんよ。ここに居たらカレンさんの身に危険な……」


「カレンさん!!私が!私が生涯あなたを守ります!だから、私と一緒に来てください。私はもう王国の騎士じゃないけど、あなたに許されるなら私は、あなただけの騎士になります。」


「まあ……!騎士様。私の、……騎士様。」


 ノアがカレンさんを説得しようとしていると、突然、真っ赤な顔をしたベリーさんが大声で騎士になると言って、カレンさんとベリーさんはまた見つめ合っていた。二人の間にはノアが居たはずなのに、なぜか二人の距離はさっきみたいに近くなっていた。二人が見つめ合って手を取り合うとした瞬間に、ノアが邪魔をするように話だした。


「あ~、二人とも、邪魔をしてしまって申し訳ないんですけど、急いでいるので、そのくだりは宿に着いてからにしてください。じゃ、その辺に雲を出しますから、ベリーさんはカレンさんを担いででも乗せてくださいね。色々な話は宿に着いてからにしましょう。あ、そうだ、絨毯の方が広いかもしれない。たしか入れていたと思うんだけど。……ちょっと待ってくださいね。」


 ノアがそう言ってから鞄の中をゴソゴソしていた。鞄の中を覗き込みながら絨毯を探している間に、なにか部屋の外が騒がしくなっていた。大勢の走る足音が慌ただしく聞こえて、乱暴にそこら中の部屋の扉が開かれると、私達と池を取り囲むように、たくさんの兵士の人達がなだれ込んできた。


「そこにいる者達!誰も動くな!動けば直ちにたたき切る!我々は神殿制圧の命を受けた第8師団である!神聖な神殿を襲撃した不届き者ども、速やかにお縄につけ。お前たちはすでに我々に包囲されている!」


 一番最後に現れて、頭に被った兜に一際大きな羽をつけた男性が、大声で私達に話していた。ノアとベリーさんが、私とカレンさんを庇うように私達の前に立っていた。


「おお!聖女様!こちらにいらっしゃいましたか。我々が来たからにはもう心配いりません。皆、顔を伏せるんだ。聖女様がベールを被るまでは顔を上げるな。」


「はあ~。ジョニー、下を向いたままでどうやって悪漢を捕まえさせるつもりなのよ?まあ、私達は悪者じゃないんだけど。」


 ベリーさんがため息をついて、肩を少し上げて呆れたように話しながら、私達から離れて兵士の人達に歩いて近づいていった。


「む!?んん!?ベリルヌーイ兄上!?兄上がなぜここに!?さては兄上が!!悪漢共を率いて神殿を襲撃するとは!!そこまで落ちぶれていたとは!!メディデス家の恥です!!あなたは!!どれほど家名に泥を塗るおつもりか!!」


「その思い込みの激しいところ、変わってないわねえ。でも第8なんて出世したじゃないの。ジョニー、私達は悪者じゃないんだけど、教皇共に聖女にさている、カレンさんをつれて行くわね。私の邪魔をしないで、このまま神殿内部に侵入した悪者達を捕まえなさい。今は詳しく話している暇はないから、落ち着いたら後で話をしに行くわ。」


「私の!名前はジョルジニールです!私のことを、子供の頃のあだ名で呼ばないでいただきたい!そのふざけた喋り方も虫唾が走ります!騎士団最強の騎士の名が聞いて呆れる!犯罪に手を染めるなど!もう兄上はメディデス家の者ではない!!この場で私が成敗します!」


「私の話しを聞いていた?いいから、取り囲んでいる騎士達を下がらせなさい。上からの命令じゃなくて、自分の頭で正義を考えてみなさい。それに、私はもうこの話し方の方が慣れちゃったし、変える気はないわよ。お生憎様。」


 ジョニーさんと呼ばれている人の隣に立っている背の高い兵士の人が、ジョニーさんの耳元で何かコソコソ話していた。それで、怒っているジョニーさんの顔が更に険しくなった気がした。


「うるさい!ベリルヌーイ兄上!あなたは!どれほど騎士団を貶めているか分かっているのですか!腰抜けのロリニエールよりも酷い!!」


「……なんだと?ロリーのことを、腰抜けなどと、誰にも、そのようなこと、言わせない。……今すぐ、取り消しなさい。」


「ハッ!ロリニエール兄上が腰抜け以外の何だと言うのか!弱い!騎士など!騎士ではない!ロリニエールは腰抜けだ!弱虫だ!あなた達双子は、メディデス家の恥だ!不要なのだ!!」


 ジョニーさんはそう言うと、近くの兵士の剣を引き抜いて、ベリーさんの足下に投げてよこした。


「見たところ武器を持っていないようだ。その剣を取ってください。一騎打ちです。」


「ジョニー、副官の言うことは聞いた方がいいわよ。あんたが私に勝てるはずがないでしょう。」


「フッ!兄上は騎士団を辞めて何年経ったと思っているんですか。私は騎士として日々研鑽を積んでいる。子供の頃とは違うんです。一騎打ちの決闘だ!」


 その言葉が合図だったように、周りを取り囲んでいる兵士達が片膝をついて座った。ベリーさんが小さくため息をついてから足下の剣を蹴ると、正確に剣の持ち主の足下でピタッと止まった。


「私は騎士じゃないから、その剣はいらないわ。私が体術もイケるくちだって知ってるでしょ。私が勝ったら、騎士達を下げてもらうわよ。……聖女にされていたカレンさんは誰にも渡さないわ。」


「ふざけたことを。ここで命を落としても私を恨まないでくださいよ。自分の愚かさを呪うといい。聖女様は第8師団が責任をもって保護します。我々は教皇様から直々に命を受けているのです。」


「愚かなのは、あなたよ。ジョニー、騎士団員の前で恥をかかせちゃって、悪いわね。」


 二人の間にピリピリとした険悪な空気が流れていた。周りを取り囲んでいる兵士の人達も、その一触即発のような雰囲気を固唾を呑んで見守っているようだった。私の隣にいるカレンさんが動揺して震えていたので、私は寄り添ってそっと手を繋いだ。なんとなくカレンさんでも、誰が何を言っても、もう一騎打ちの決闘は止まらないような気がした。


「あの~お。すみませ~ん。ちょっといいですかあ~。お邪魔してすみませんね~。はいはい、すみませんね。すぐに済みますから。……ベリーさん、僕のこの棒を使ってください。硬いただの棒なんですけど。いくら何でも、剣に素手で勝ってしまったら、遺恨が残りますよ。騎士団長の面目が保てないでしょう。武器を何も持たないつもりなら、この勝負受けたらだめですよ。」


 手を上げたノアがやけに飄々として、のんびりした口調でベリーさんに近づいていった。そしてノアの鉄棒を渡しながら、なにかボソボソ話しているようだった。


「……ありがとう。じゃあ、この棒を借りるわ。気を遣わせちゃって、ごめんなさいね。ロリーのことを言われて、頭に血が上っていたみたい。」


「あと、急がなくても良いので、勝つならスタミナ切れとかにしてくださいよ。圧勝し過ぎたら、後々面倒くさそうですから。」


「……なんだか色々、悪いわね。でも私が負けちゃう可能性だって、あるわけだから。なんせあっちはほら、現役の騎士団長なわけだし。」


「それ、なにかの冗談のつもりですか?そんなの見たら分かるでしょう。いいから、面倒くさくならないように、終わらせてくださいよ。」


 ベリーさんとコソコソ話していたノアが、最後に大きな声で後腐れ無しでお願いしますよと言って、急ぎ足で私達の元に戻ってきた。そして、手を繋ぎ合っている私とカレンさんに気がつくと、こっそりと呟いた。


「大丈夫。絶対に負けません。実力差がありすぎるので、圧勝し過ぎないように注意してきました。これだけの人の前で負けて逆恨みでもされたら、面倒くさいですからね。」


 ノアが平然とそう言い放ったので、私とカレンさんは顔を見合わせた。私はノアを信頼しているので、途端に不安がなくなって、ホウッと安堵の息がもれた。


「カレンさん、心配いりませんよ。邪魔になってはいけないので、あっちの池の畔で座って待っていましょう。」


 私達がベリーさん達から更に離れて池の畔まで来ると、ノアが鞄の中から敷物を出して広げてくれた。私達はその上に座ってベリーさん達を見守ることにした。ノアが鞄から果物やお菓子を出してくれたので、みんなで食べながら待つことにした。


「なんだか、大袈裟な兄弟げんかだなあ~。」


 ノアがため息をついて呆れたようにそう言うと、カレンさんがフフッと笑った。カレンさんも、もう不安がっていないようなので、私も安心することができた。見上げてみると、アビーさんは透けたままの状態で、空中に寝転がっていた。


 面白そうにベリーさん達を見ていて、勝負が始まるのを楽しみに待っているようだった。周りを見渡すと、兵士の人達もなんだかワクワクしているようで、これから何かの楽しい催し物が始まるような錯覚に陥りそうになった。いつの間にか、深刻な事態ではなくなっていたようなので、まあ、いいかなと思った。

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