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132.不思議な思い

 アビーさんが神殿の一番高い塔の屋根の上に降り立った。王都の中心街は昼間のように明るくて、夜になっても賑やかな声が聞こえていて、外を歩いている人達も多いようだった。そのせいか足下の神殿の建物も賑やかな雰囲気のような気がした。塔の屋根の上から見渡してみると、神殿の庭や敷地内には人がいないようだった。


「アビーさん、飛んで行ったならず者の人達はどこに到着したんですか。外にはいないみたいです。」


「その壁の内側に放り込んだが、その辺に転がっておらぬか?」


「まったく見当たりませんよ。これはたぶん、神殿内に侵入していますよ。……急がないとはいけないんだけど、それより、おばあ様はあの見えなくなる腕輪を持っていますか?ちょと試したいことがあるんです。」


「腕輪か……、どこにやったか……。」


 アビーさんはポケットをゴソゴソして腕輪を探していた。私とノアはとりあえず屋根の上で座って待つことにした。


「ノアにはカレンさんがいる部屋の場所が、ここからでも分かる?」


「分かるよ。あっちの方だよ。部屋ってゆうより、あの池がある所に降りようと思ってるんだ。」


 ノアが指さした方向の先に建物に囲まれて、中庭のようになっている場所があった。あそこに池があるなら、もしかしたら、私が初めてカレンさんと会った池かもしれないと思った。あの時は宿の地下にある井戸に落ちたと思っていたら、なぜかカレンさんの居る聖女宮の中庭にある池に出てきたのだった。


 私は宿から神殿まで歩いたこともあるし、今は空を飛んできたので分かるけれど、宿のある場所と神殿は、すごく離れている。それなのに一瞬でカレンさんのいる池に到達していたことが、今更ながら、すごく不思議なことに思えた。


 井戸と池が繋がっていて、水が流れていたから地下で川みたいになっているとゆうことで、川なら始まりがあってどこかに繋がっていて、他にも、もしかしたらそこら中に繋がっているのかもしれなくて、水とは川とは何なのか、どうして地下なのかと考えていたら、頭がこんがらがってきた。


 ディアさんに聞いてみたくても、さっきからずっとディアさんは何処かに行っているみたいだった。そういえば王都に来てからはよく、どこかに頻繁に出かけている気がする。ディアさんにとっては王都は、お姉さん達がいるので、里帰りみたいなものなのかもしれない。王都が家なら、ディアさんはなぜあの場所の、あの湖にいたのかなと不思議に思った。


 もの凄く悲しくて、外に出ないで、ずっと湖の底に居たのは知っているけれど、どうしてサビンナの近くの、あの深い森に囲まれた湖にいたのか、あの場所に何かあるのかなと考えていると、突然、サビンナの学校の卒業遠足で訪れた、あの一面を埋め尽くすような花畑が頭に浮かんだ。


 岩間を抜けた先には、満開の花たちが咲き溢れていて、幼精達がたくさん楽しそうに踊っていた。その楽園のような幸せな光景を思い浮かべていると、あの良い香りまでしてきそうで、なんだか胸がドキドキした。元気な幼精がまったくいない王都や王都近辺を見てきたから、あの場所が、より特別な場所に思えた。


 卒業遠足のときに、草や土や、いろいろな色の花と同じ色の幼精達が、機嫌良く元気にふわふわと踊っている姿を眺めていたことは、私にとって楽しくて幸せな、とても大切な思い出だった。けれど、それの、何かが心に引っかかって、鼓動がいつまでもドキンドキンと脈打っていた。


 私はなにか、とても重要なことのような気がしているのに、それが何なのかが分からなかった。……なにが?なにか、大切なことを忘れている?……それは、なんだろうと不思議に思う。私は大事に一つ一つ紐解いていくように、お花や幼精や、あの場所のことに、思いを巡らせていく。


「あったあった!この腕輪であろう!妾はちゃんと無くさずに持っておるぞ。」


 アビーさんの大声にハッと気がつくと、いつの間にか手は胸の前にあって、私は手のひらの中の海の指輪を眺めながら、考え事をしていたようだった。一瞬で何かがサーッとどこかに散らばっていったような、どこかまだ現実じゃないような不思議な思いで、ノアが立ち上がっていって、腕輪を受け取る様をぼんやりと見ていた。ノアは腕輪をいろんな角度から見て確認していた。それで間違いなく見えなくなる腕輪だとゆうことが分かると、また私の横に戻ってきた。


「この腕輪をつけてみてくれる?この辺りは明るいから、もしこれで見えなくなるなら、それが一番安全なんだけど……。変化の組み紐は効かなかったけど、この腕輪はどうかなあ。……エミリア?どうかした?なんだか、……どうしたの?」


「あ、ううん!ちょっと考え事をしてただけなの。今は、カレンさん達を助けに行くことが優先だよ。」


 今は、ぼんやり考え事をしている場合ではなかった。私は気持ちを切り替えて元気よくノアから腕輪を受け取った。銀色の金属製の幅が太めな腕輪は、所々に宝石みたいなキラキラした石がはめ込まれてあって、格好いい大人の装飾具のようだった。見た目より軽いその腕輪を私の腕に通してみると、ギュインと縮まってちょうどいい大きさになった。


「ちゃんと外れないようになっているんですね。どうです?私の事が見え、……てるみたいですね。」


「うん……。何も変わりなく見えてるね。」


「ハハハハハッ。ラリーの万能な魔道具も、エミリアには通用せんようじゃな。そのように話したら、ラリーはまた工房に籠りっきりになってしまうであろうよ。新しい道具が出来上がるのはいいが、少々困りものじゃ。」


「この腕輪は僕が預かっておきます。エミリアはいつもの変装にしよう。えっと、眼鏡とマフラーと、あ、おばあ様は自分の魔術で見えなくしてくださいね。今からあそこに見える中庭に降りますよ。」


 ノアが変装道具を色々と出してくれて、ぐるぐる眼鏡やマフラーやスカーフや帽子を順番に全部つけてくれた。変装がバッチリ終わると、アビーさんがまた私を浮かせて引き寄せると抱っこした。そして手をフィッとすると、アビーさんが透けて見えた。


 準備万端整ったのでノアを見ると、見えなくなる腕輪をつけようとしていた手を止めて、不思議そうに私の足下を見ていた。


「んん?足下だけが見えない。部分的に消えたみたいになってます。おばあ様、エミリアに何かしましたか?」


「なんじゃ?どこじゃ?う~ん?」


 三人で私の足下に注目してみると、アビーさんの腕や、ローブが私の足にかかっている部分が消えて見えるようだった。試しにアビーさんがもう片方の手で私を抱きしめて包むようにすると、私を隠している部分が同じように消えたようだった。自分でみると、私の体のアビーさんのローブに包まれて部分だけが透けていた。


「……顔だけ出てますけど、顔も全部ローブの中に隠せませんか?」


「隠してもよいが、そのように全部包むと苦しくないか?窮屈であろう。」


「そうかもしれませんけど、頭だけ浮かんでいると、その、怖い感じに目立つと思うんですよね。」


「目立つのは困りますね。それなら、人が近くに来たら私の顔も全部隠してください。誰も居なかったら、顔だけ見えていても、体が半分消えていてもいいですよね。」


「それは……、う~ん。まあ、いいか。この腕輪のことは、今度おじい様に相談してみる。それより、僕がこの腕輪をつけたら、エミリアの目を疲れさせちゃうんだよね。ごめんね。なるべく早く終わらせるよ。」


「そんなの、いいよ。あんまりノアを見なければいいだけだから、気にしないで。」


 ノアがなにか微妙な顔をして、やっぱり早めに終わらせようと言いながら腕輪をつけていた。私はバッチリ変装をしているし、アビーさんとノアはそこに居ないみたいに見えないはずだし、今度こそみんなが準備万端整って、アビーさんとノアが目線の先の中庭に向かって飛びだした。


 ノアはチラチラ周りを確認しながら飛んでいたけれど、アビーさんはきにせず中庭を見つめたまま飛んで、すぐに池がある中庭を見下ろせる屋根の上に降り立った。すぐ側でガチャンとゆう音がして、ノアも隣に降り立っていた。


「おばあ様、ここからはエミリアを隠してくださいよ。この下はもう聖女宮ですから、別々に手分けして探しましょう。カレンさんを見つけ次第保護して、この池の所で集合することにしましょう。」


「それはいいが、下に誰か居るようだぞ?あれには見つかってもよいのか?」


「え?下に?どこです?あ、見えないんだった。どの辺か、言葉で教えてください。」


「うむ?ああ、あの池の、柱の近くじゃ。人影が見えよう?」


 私はアビーさんがノアに説明する前に、アビーさんが指さした方向を見た。影になっていて見えにくかったけれど、目を凝らして見てみると、池のほとりの端の方に、カレンさんとベリーさんが向かい合って立っていた。よく見ると、二人は手を取り合っていて、いつの間にか仲良くなったようで、二人の距離も近かった。


「は?あれは、どうゆう状況、なんだろう?」


「おお~い!カレンさ~ん!ベリーさ~ん!迎えに来ましたよ~!」


 私が屋根の上から二人に声をかけると、カレンさん達は弾かれたように離れてしまって、キョロキョロして私達を探しているようだった。


「なんだか気まずいけど、しょうがない。エミリア、一緒に降りよう。」


 ノアが見えなくなる腕輪を外して鞄の中に入れると、私に手をさしだした。私はその手をとって、ノアと一緒に手を繋いで屋根の上から飛びだした。振り返ると、アビーさんは私達の後ろを透けたままの状態で、なにか妙な顔をしながらついて来ていた。アビーさんにもノアが言うように、なにか気まずいことがあるのかなと不思議に思った。

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