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127.再会 1

 その時は突然訪れた。私達が食堂でお昼ごはんを食べていると、なんだかピカピカの神殿の服を着た集団が入口からぞろぞろと入ってきた。何事かとみんなが注目していると、その中の一人が私達を見下すように睨みながら見渡すと、突然話しだした。


「本日より神殿内の孤児院が廃止になります。すみやかに神殿から退去するように。下働きの聖徒は全員を裏口に誘導し、神殿内に戻らないように見張りなさい。以上。」


 私達みんなが何を言っているのかと呆気に取られていると、ピカピカの集団は、話は終わったとばかりにまたぞろぞろと入口の扉に向かって行った。


「孤児院ってなんだよ!?そんなんいつ作った!!」


 かろうじてピートさんがそう叫んだけれど、ピカピカの集団の人達は何も聞こえなかったようにさっさと食堂を出て行った。その人達が食堂から居なくなっても、私はまだ呆然として、何が起こったのかが分からずにいた。


「どんな言い訳をするのかと思っていたら、……なるほどね。」


「腐ってる!!あいつら全員腐ってる!!なにが聖職者だ!!ふざけんな!!」


「戻って来ないように見張りだって!見張りだって!!許せない!!絶対に許さないんだから!!」


「あの、孤児院とゆうのは?……どうゆうことですか?」


「そうだよ。みんなここから出て行くの?バラバラになるの?」


「今から?どこに行くの?私達どうなっちゃうの?」


 私の言葉に幼い少女達や、神殿の先生達が私達のもとに集まってきていた。口々に質問をしながら、みんなが一様に不安そうな顔をしていた。ノアは平然とした顔をしているけれど、メイベルさんはみんなを安心させるように宥めながら、頑張って笑顔を作っていた。


「大丈夫。なにも心配いらないわ。みんなこれからも一緒よ。そして準備が出来たらみんなを自分の家や住んでいた町に帰してあげる。なんにも心配することなんてないのよ。ちゃんとした計画があるの。今からみんなでこの神殿を出たら、美味しいケーキを食べに行きましょう。それからみんなが一緒に泊まれる宿に行くのよ。だからみんな急いで荷造りしてね。」


 子供達はみんな歓声を上げて喜んでいた。けれど神殿の先生たちはまだ不安そうな顔をしている。これからの説明がピカピカの集団の人達から何もなかったし、状況が飲み込めないと思う。


「先生達も希望する人は一緒に来てもいいですよ。僕達はこれから神殿の粛清を始めるけど、それまでの皆さんの身の安全を保障できるわけじゃありません。どちらかと言えば一旦は僕たちと一緒に来た方が安全だと思いますよ。宿をまるごと一棟借りているので泊る部屋は十分にあります。それにしばらく子供達の世話をしてもらえると有難いです。」


 神殿の先生たちはまだ不安そうに話し合いを始めていた。自分たちがこれからどうなるのか、神殿が家の人達にはより不安なんだと思う。


「無理強いはしませんけど、神殿に戻らないように見張りをする、とゆうのを拡大解釈したら下町と繋がる門を通れるんじゃないかな。なにしろ神殿の孤児院が突然廃止になったらしいし、それは大勢移動しますよね。ああ、荷物は最小限にしてくださいね。」


「いいからみんな、ぐちゃぐちゃ言ってないで一緒に来たらいいんだよ。自分たちの身の安全も考えろ?ノアが大丈夫っつてんだから、大丈夫なんだよ。ハイッ!みんな注目!今からみんな荷造りだ!用意が出来たもんから、またこの食堂に戻ってこい!急げよ!遅れたら置いてくからな!」


 子供達はみんなキャーキャー言いながら食堂を走って出て行った。神殿の先生達も何人か続いて出て行った。残った先生達はまだ迷っているようだった。


「……残ってもいいけど、身の安全って意味分かってますか?口封じに何をするかなんて、外道のすることは僕には分からないけど、最悪の場合、無くなるのは命ですよ?気をつけてくださいね。」


 ノアが平然と話す言葉を聞いて、残っていた人達も慌てて食堂を出て行った。私達もそれぞれ神殿の個室に戻って荷造りすることにした。私とノアは荷馬車に繋がる鞄をノアの鞄の中に入れるともう荷造りは完了だった。


 メイベルさん達と揃ってまた食堂に戻ってくると、もうみんな準備万端で、全員が椅子に座って待っていた。


「あ、神殿のローブを脱いでしまっている人は来てください。僕達は神殿の孤児院が無くなったから追い出される子供達とその付き添いですよ。みなさん宿に着くまではローブは脱がないようにしてくださいね。誰かに聞かれたらそのまま真実を話してください。じゃ、行きましょうか。」


 私達はぞろぞろと一塊になって神殿の中を歩いて行った。裏口と言っても私達がはじめに入ってきた入口とは違って、神殿の人達の人通りは多くて、すれ違う人達は物珍しそうに私達を見ていた。子供達はもう髪の色を変えていないし、集団になった金髪の子供達は注目を集めているようだった。


 メイベルさんも髪を隠すのを止めて堂々と歩いていた。裏口の門番の人達は怪訝な顔をしたけれど、ノアとピートさんの顔を見ると慌てて裏口の扉を開けてくれた。私たちはとうとう神殿の外に出て、青空の自由な空の下にでた。誰彼ともなく思わずと言ったように歓声が上がって、子供達も抱き合って喜んでいた。私もメイベルさんと抱き合って、おかえりなさいを繰り返した。暖かくて眩しいぐらいの陽気の幸せな小春日和だった。


「そろそろ行こうか。美味しいケーキを食べに行こうよ。歩きながら話そう。」


 私達の集団は注目を集めながらぞろぞろと下町に繋がる門のまで歩いて行った。何事かと話しかけてくる人には、子供達もそれぞれがそのまま話していた。


「金髪だから神殿に誘拐されてたんだけど、今から家に帰るんだよ。」


「誘拐されて来たのに、孤児院って言ってたの。今日追い出されたけど。」


「最初は地下に閉じ込められてたんだよ。」


「来たときは馬車の中で縛られてたから、外を歩くのはじめてなの。」


 いつも昼間は身分証も見せずに通れる門で、門番に足止めされると子供達は我先にと説明を始めた。門番の人達も困惑していて、道行く人達もみんなが私達に注目していた。門の周辺はちょっとした人だかりになっていた。


「き、君達は何を言っているんだ!?神聖な神殿でそんな……。」


「聖女様がおわします神殿でまさかそんな……。」


「あの、すみません。子供達は今解放されたばかりで疲れているんですよ。ここを通っていいですよね。ああ、もちろん子供達の身分証なんてありませんよ。ムリヤリ誘拐されて来たんですから。白と金の派手な神殿の馬車が何度も通ったことがあるでしょう。たぶん大半が夜中だったはずです。とにかく僕達は子供達をはやく労ってあげたいんです。今から下町のベリーさんのお店に行くんです。なにかあったらベリーさんに連絡してください。ベルヌーイ・ド・メディデスさん、知ってますよね。」


 門番の人達はヒイッと短く悲鳴を上げると、慌てて私達を通してくれた。子供達は意気揚々と美味しいケーキのお店を目指して歩いた。私達の集団はよほど目立つのか色々な人達が話しかけてきて、そのたびにみんながそれぞれ質問に答えていた。ノアもとくに止める気はないようで、私達は注目を集めたまま、ゆっくりと町中を歩いてベリーさんのお店に向かっていた。


「エミリア?ああ、良かった。元気そうで。」


 名前を呼ばれた方を振り返ると、カメオのお店であったことのある上品そうな老婦人が私に話しかけてくれていた。


「あ、お久しぶりです。すみません。商品をまだ取りに行けていなくて。」


「いいのよいいのよ。カメオはもう出来ているけど、そんなのはいつでもいいのよ。それより主人とどうしたのかしらって話していたの。元気そうで良かったわ。」


「ご心配をかけてしまってすみません。今からベリーさんのお店に行くので、また後でお店に行きますね。出来上がったカメオを見るのが楽しみです。」


「ふふ、そう。今からベリーさんのお店に?それなら、後で届けに行こうかしら。……それにしても、この人たちは?……神殿にいたの?」


 私が答える前に、もう慣れたように子供達が次々にスラスラ答えていた。その話を聞きながら、どんどん増えていく集団となって王都の下町をみんなで歩いた。人がまた人を呼ぶ形になって、信じられないほどの神殿の暴挙について、みんなが憤慨していて、口々に誘拐だ犯罪だと言いながら騒いでいた。ベリーさんのお店が見えてくると、ベリーさんは何事かとお店の外に出ていた。


「……派手ねえ。残念だけど、全員はお店に入りきらないわよ?」


「いいさ、いいさ。子供達だけでも、甘いものを食べさせてあげなよ。神殿がとんでもないんだよ。他はみんなここらの店に別れて入りなよ。みんな!お代なんてとるんじゃないよ!」


 たしか前にベリーさんのお店に野菜を持ってきた奥さんが、集まっている人達を采配していて、大勢になった集団がそれぞれのお店に分散して入ることになった。そして、私とメイベルさんも子供達もみんなでベリーさんのお店の中に入った。とても可愛い内装に幼い少女達もメイベルさんも目を輝かせて喜んでいた。


 ベリーさんは子供達が小物やお人形を触っても何も言わず、すぐに大量のケーキをドカンと持って来てくれた。食べきれないほどの可愛いケーキにみんながキャーキャー歓声を上げて喜んだ。みんなでいただきますと言って、好きなだけ次々に甘いケーキを食べていく。久しぶりのベリーさんが作ったケーキはとても美味しかった。


「それで、なにがあったの?みんなが無事に帰って来られたの?」


 子供達が美味しいケーキに夢中になっている間に、ベリーさんが自分の分のお茶を持って私達のテーブルに来て座った。ノアが順序立てて子供達が捕らわれていた神殿の話しをして、それからカレンさんの話を始めから全部話した。ベリーさんは聖女様を信仰しているようだったので、よほどショックを受けたのか、しばらく顔を青ざめたまま固まってしまって、言葉を失っていた。


「……ナレンス、と言った?ナレンスの集落と言ったの?……本当に?……そんな……、そんなことって……。」


「今はもっと発展して大きな町になっているんですよね。聖女にされているカレンさんが言っていましたよ。見たことはないらしいですけど。……これは僕の憶測ですけど、聖女を輩出した名誉ある村にはたくさんの褒賞があるってゆうぐあいなんでしょうねえ。で、その小さな村は、本当は、今はどうなっているんですか。ベリーさんは知っているんですよね?」


 ベリーさんが目を見開いて、驚愕した顔で黙ってノアのことを見ていた。私は思いもよらない展開に、なぜかざわざわと、なにか嫌な予感がしていた。

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