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123.聖女宮へ

「でも、あの、聖女様がニセモノかどうかは、会って聞いてみないと分からないですよね?」


 私の一言に全員がギョッとしたようになって、一斉に私を見た。とても驚かせてしまって申し訳ないけれど、先ほどから私は、とても良い案が頭に浮かんでいた。


「……エミリア。だめだよ?」


「は?なんだ?まだ何も言ってないだろ?ノアには言わなくても分かるのか?」


「とても良いことを思いついたんですよ。こんなに良い機会なんて、他にないですよね。私が聖女様の所に行けば、ニセモノの人か、悪い人なのか、犯人の人なのか、すぐに分かりますよね?神殿の人でも、入っちゃいけない所に入れるんですよね?それなら、つかまってみても、いい気がします。」


「だめ!!絶対だめ!!!」


 ディアさんがローブのフードから出て、私の肩に乗って大声で反対していた。突然耳元で大きな声で話したので、驚いてしまった。


「ディアさん、急にそんな耳元で大きな声では……。」


「なに言ってんの!さすがに黙っていられないわよ!分かってんの!?聖女宮にいる聖女って!あの暴れて、怒鳴ってた女よ!?分かってんの?」


「暴れて、ましたか?すみません。寝ていたので知りませんでした。そんなに怖そうな人には思いませんでしたけど、タオルを貸してくれたり、割と親切な人でしたよね?」


「の!の、の、のん気いいいい!!!キイイ!!このお~!だめだ……、ノア!なんとか言いなさいよ!エミリアが、危ないことしようとしてるわよ!」


「とにかく、落ち着いて。ぬいぐるみが話したら……、はあ~、もう、いいや。」


「ディアさん、私、聖女様の所に行きます。そうしないと、本当のことが分かりません。本人に聞くのが一番ですよ。私は、メイベルさん達の努力を無駄にしたくありません。……私と一緒について来て、くれますか?」


「……もう。何言ってんの?まだ分かんないの?私は、いつもエミリアと一緒なのよ。そんなの当たり前なの。」


「ありがとう、ディアさん。頑張って一緒に、真相を聞きましょうね。」


「あ、だめだ……、作戦が必要だわ。いきなりそんなこと聞いちゃだめなのよ。まずは仲良くなって、本音をひきださないと。」


「なるほど。仲良くなる作戦ですね。一緒に考えましょう。」


「待て待て二人とも!勝手に決めんな。ノアがいいって言ったのか?作戦を立ててるのはノアなんだぞ。二人とも、ノアの作戦の邪魔はしたくねえだろ?」


 ピートさんの言葉に私とディアさんは我に返って、そお~っとノアの方を見た。苦笑いしているノアは、私達に反対するつもりはなさそうだったけれど、近づいていって聞いてみた。


「私、聖女様の所に行ってもいいかな?ノアの作戦の邪魔にならないようにする。ちゃんと聞いてくるから。」


「エミリア……、危険かもしれないんだよ?凶暴な女の人みたいだし。だから、僕も一緒に行くね。羊だけじゃなくて、僕もエミリアといつも一緒なんだよ。」


「ノアは、朝からお城に行くんじゃないの?計画があるんだよね?」


「計画はただの計画だよ。王族なんて待たせておけばいいよ。大丈夫。」


「おう、ぞく?王族!?ノアさんは、いったい、なにを?なさって?えっ?」


 ザムエルさんが驚愕してしまって、立ち上がったり、腰を抜かしたように座ったりしていた。落ち着かない様子が、気の毒になってくるほどだった。


「ザムエルさん、僕は言いましたよね。僕達はこの騒動を全部終わらせる。神殿のあり方は変わるかもしれないけど、僕は信仰を持つ人まで否定しません。なにを信じようが自由です。ただ、それを利用して一部の人が歪んだ組織を形成しているなら、まるごと全部ぶっ壊す。……大丈夫。なるべく穏便にすませますよ。」


 ノアがザムエルさんに向かってニコッと笑いかけた。ザムエルさんは怯えたように震えてしまって、全然大丈夫そうではなかった。私はザムエルさんが気の毒になって、ちゃんとノアが優しい人だとゆうことを教えてあげた。


「ザムエルさん、ノアは本当に優しいんですよ。壊すって言うのは、たとえ話で、本当にボカーンと壊すわけじゃありませんよ。ノアはなぜか、誤解されちゃうんですよ。」


「はあ……、優しい……、そうですね……、はい。」


「それで!?エミリアは、今からつれて行かれちゃうの?それとも明日?せっかく一緒に勉強とか、ごはんを食べたりできると思ったのに。ホント迷惑。無理矢理なんだったら、私だって黙ってないわよ?」


「そうだよ。無理矢理とか、そっちが危険だぞ?明日でいいじゃん。明日の朝めしの後にでも、自分で聖女宮に行くって言っといてよ。場所は分かってんだし。」


「あの、私が今から話してきます。私が明日お迎えにあがって、聖女宮におつれ出来るように話します。それまで、あの、他の者に見つからないようにお願いします。」


 私はメイベルさん達とわかれて、神殿の個室から荷馬車の部屋に戻った。ノアはすぐに戻ると言って、またすぐに部屋から出ていった。ノアの計画を大幅に狂わせてしまったので、本当に申し訳なく思う。


「ノアになにか、お詫びとお礼ができないかな……、いつも忙しくしているし、美味しいごはんを作ってあげるとか、あ、そうだ、お菓子とか。」


「……止めてあげて。ここの厨房がいくら魔法で出来てたって、限界があるわよ。ただお礼を言うだけで十分よ。もう明日に備えて寝ちゃいなさいよ。今日も色々あったもの。疲れてるはず。体を健康に保つのも、立派な修行なのよ。」


「眠るのは、ノアと一緒に眠ります。ちゃんと待ってて、一緒に寝たいです。」


 私はベッドに座ってノアの帰りを待った。忙しくしているノアに、せめておかえりなさいと労ってから一緒に眠りたかった。起きて座っていたはずだけど、いつの間にか、こっくりこっくり首がゆれて眠ってしまっていた。夢かうつつか、ディアさんが話していて、ノアがクスッと笑って布団に包ませてくれたような気がしていた。


 朝になってノアが作ってくれた朝ごはんを食べると、私とノアは図書館に向かった。部屋に入ってすぐにメイベルさんが私達に駆け寄ってきてくれた。


「エミリア、危険だと思ったらすぐに逃げて帰ってくるのよ?乱暴な人だったら、話しなんて聞かなくていいんだから。我慢しないですぐ帰ってきて。無茶しないでね。分かった?」


「はい。分かってます。無茶しません。危険そうなら帰ってきます。」


「ずっとノアが一緒にいられる訳じゃないだろうからな。これ、もしもの時用に地図を書いてみたんだ。この地図の通りに帰ってきたら、この図書室につくから。無くさないように持っとけ。」


「ありがとう、ピートさん。二人ともありがとう。危険だったら、この地図を見ながらここに戻ってきます。」


 ザムエルさんはもう図書室の隅で待っていた。私は神殿のローブのフードを深く被り直して、ザムエルさんについて行った。ノアは小さな丸い白い鳥になって私のフードの中に入っていたし、反対側にはディアさんがのっていた。だから私はなにも恐れることなく、長い廊下を遅れないように歩いた。


 やがてとても大きな門の前に辿り着く頃には、たくさんの人だかりが出来ていた。遠巻きにして話しながら、私達を見ているようだった。聖女宮に入る為の大きな門をぬけると、そこは広い庭のようになっていて、建物の中にまた建物が建っているような、変わった造りだった。


 広い庭をぬけて聖女宮の建物に入ると、たくさんの女性達が出迎えてくれた。みんな同じ服を着て、頭から短いベールを被っているので、顔が見えにくくなっていた。ザムエルさんはこの先には入れないようで、何度も謝りながら帰って行った。


「あなたが、新しい侍女ですね。聖女様にお仕えする為には、とてもたくさんの決まりがあります。まずそちらをお教えしなければなりませんが、聖女様たっての希望で、あなたが到着しだい、すぐにつれて来るように申しつかっております。侍女のお仕着せに着替えるより先に、今からすぐについて来てください。」


 たくさんの年配の女性のなかでも、一番背の高い女性が私の目の前に出てきて、説明をしてから私についてくるように促した。とても急いでいるようで、早歩きになって廊下に出た。そうしながらまた早口で説明をしてくれていた。


「私達はふだん、あの先、聖女様の居住域には決して入ってはいけません。聖女様に呼ばれた時にのみ、顔を伏せて足下を見ながら入ります。顔を上げてはいけません。決して聖女様のご尊顔を拝してはいけません。目を合わすなどもってのほか。許されません。」


 そうして駆け足のように歩いていた女性が、突然立ち止まって私を見下ろすと、声を落として凄むように話した。ベールで顔が見えないのに、なぜか迫力があった。


「聖女宮で見聞きしたことは決して口外してはなりません。たとえどんなに些細に思えることでも、です。なにも見ず、なにも聞かないことが肝心なのです。」


 私が気圧されたように頷くと、女性も頷いてまた駆け足で歩き出した。とても急いでいるけれど、聖女宮はもの凄く広くて、部屋もたくさんあるようだった。そうして急いで歩いていると、大きくて豪華な扉の前に到着した。そしてその装飾がたくさんある金属の部分をカンカン鳴らしてから、そのままじっとして待った。しばらくすると、返事のようにカンカンなにかを鳴らす音がどこかから聞こえてきた。


「……あなただけ、この扉を開けて入りなさい。このすぐ先の扉は初めの扉を完全に閉めてから開けなさい。決して顔を上げないように、ご挨拶が終わったら、まっすぐに先ほどの待機場所に戻ってくるように。あなたは礼拝の作法も知らないと聞き及んでおります。教えることはたくさんありますよ。」


 ここまでつれて来てくれた背の高い女性は、私が扉を開ける前に、急いでまた駆け足でもとの来た道を戻っていった。私は大きくて重い扉を恐るおそる開けると、中に入ってからまず一つめの扉をしっかり閉めた。


 二つめの扉の中に入ると、昼間なのに薄暗くて、私はとりあえず灯りがついている部屋の方へ向かって歩いた。それにしても、初めて入る部屋なのに足下だけ見て歩くなんて、すごく不便に思えた。とりあえず聖女様に会うまでは普通にしていることにして、たくさんある部屋をキョロキョロしながら歩いた。そうして灯りが点いている部屋の近くまでくると、部屋の中から入りなさいと言う女性の声が聞こえた。


 私は下を向いて、なにかにぶつからないように手をさわさわしながら歩いて、扉のない部屋の中に入った。足下しか見ないで歩くのは、思ったよりも難しくてフラフラしてしまう。


「……なに、してるの?……踊り?」


「えっ?違いますよ?足下を見て歩いているだけです。なかなか難しいですよね。」


「……フ、フフフッ。面白い。いいのよ。顔を上げたって。」


「あ、そうなんですか?良かった。歩きにくいなって思っていたんです。あ、目を見たらだめなんでしたか?あれ?顔全部でしたっけ?さっき聞いたばかりなのに、忘れてしまいました。」


「プッ。可笑しい。あなたって、やっぱり面白い。フフッ。それにすっごく可愛いわ。いいの。いいのよ。私の顔を見たって。今日からあなたは私の侍女だもの。あなた名前はなんて言うの?」


「エミリアです。あの、私、挨拶が終わったら、すぐに戻らなくちゃいけなくて、着替えたり、いっぱい教えてもらうことがあるらしいので、また後で来ますね。」


「いいえ。……いいのよ。あなたは、ずっと、ここにいるの。どこにも、いかなくていいのよ。だって私の、私が選んだ侍女なんだから。それに、別に着替えなくてもいいわ。着替えたかったら、私が着替えを貸してあげる。」


「え?そうなんですか?着替えなくてもいいなら、このままでいいんですけど。じじょって、なんですか?なにか、お仕事ですか?」


「侍女の仕事?そうねえ……、お茶を淹れたり、かしら?じゃあ、さっそくお茶を淹れてもらおうかしら。厨房に案内するわね。」


「あ、そうだ。お姉さんは聖女様ですか?聖女様って呼んだらいいですか?」


 歩き始めていたお姉さんは、ビクッと体を震わせて、しばらく立ち止まってから、ゆっくり振り返ると無表情な顔で黙って私を見ていた。私は首を傾げて、もう一度お姉さんに聞いてみた。


「違いましたか?ここは聖女宮って聞いていたので、てっきりそうかと思ってしまって、お姉さんの名前を教えてもらえませんか?それに、聖女様は今どこに……?」


「あなたは、……エミリアは、なにも知らないのね。そう、そうなの……。私の名前は、カレン。もう誰も、その名前で呼ばないけど、あなたは、そう呼んでもいいわよ。私、私はね、うう、ううううう……。」


 カレンさんは、部屋の真ん中にある向かい合った長椅子の方に走っていくと、寝転んでうずくまってしまった。クッションを抱えて、顔を埋めたまま泣いているのか、呼びかけてみてもそのまま動かなくなった。名前を聞いてしまったのがいけなかったのか、私は困ってしまって、しばらくその場に立ち尽くしていた。

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