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121.迎えにきたよ

 温かいふかふかの布団の中でフッと目が覚めた。窓際にあるベッドで眠っていたようで、明るい日差しが布団の中にまで届いているようにぽかぽかとしていた。柔らかくて心地よい布団の感触に包まれながらまた微睡んでいると、どこかで陶器が派手に割れる音がして、驚いて、いきなりハッと目が開いた。


 布団の中で耳を欹てていると、また何かがぶつかったような音がして、女性がなにか怒鳴っているような声が聞こえてきていた。思わず布団から起き上がって部屋の中を見渡すと、見たこともない知らない部屋だった。


 どうしてここで昼寝していたのか、まだぼんやりしながら思い出そうとしていると、すぐ側の窓からコツコツと音がして、見てみるとカラスが一羽留まっていた。布団から出て窓を開けても、カラスは部屋の中には入ってこなかった。


「部屋の中に入らないの?外でクロを待ってるの?」


 窓越しにカラスと話していると、ゴオーッともの凄い風が窓から部屋の中になだれ込んできた。目をパチパチ瞬きしてから振り返ると、部屋の中にクロがいた。弾丸のように部屋に飛び込んできたのはクロだった。


「あ、クロ。久しぶりだね。よくここが分かったね。」


 クロはもの凄く機嫌が悪そうだった。嫌そうにグギイーッと鳴くと、そっぽを向いてしまった。


「怒ってる、よね?勝手に外に出ちゃったし。ノアも怒ってた?心配してるよね。帰ったら謝らないと。」


「怒ってないよ。大丈夫だよ。」


 声のした方に振り返ると、窓枠に足をかけて、手で大きく窓を開けて中に入ろうとしているノアがいた。光が反射してキラキラしていた。


「心配は、ちょっと、しちゃったけどね。あ、着替えたんだね。よく似合ってる。そうゆうヒラヒラした服もとっても可愛いね。」


 そう言って笑いながら部屋の中に降りたって、透明になって見えなくなる腕輪を外していた。それから私に近づいてくると、私の両手をもって手を繋いだ。


「さ、帰ろうか。」


「あの、ご、ごめんなさい。勝手に外に出ちゃって。宿の方に出たんだけど、なぜかここに来ちゃって。……えっと、それに、迎えに来てくれて、ありがとう。」


「ううん。いいんだよ。僕は怒ってないよ。僕が最初に言ってた予定通りにしなかったから、僕のせいだよ。それより、本当に無事で良かった。……話は帰ってからにしようか。鞄とか、靴はどこにあるの?」


「えっと、暖炉の所で乾かしてると思う。ディアさんも、たぶんまだそこに……。」


 ノアが取って来ると言って、また腕輪をつけて部屋を出て行った。私もノアの後について行こうとすると、クロが私の前に出てきて阻止された。すぐにノアが私の服や鞄や靴を持って戻ってきて、ディアさんも浮かんでついて来ていた。扉を閉める前に、また激しく陶器が割れる音がしていた。


「ヤッバ!ヤバいわよ。あの女!見つからないうちにサッサと帰るわよ!早く早く!どうやって帰るの?飛んでいくの?」


「鞄を持ってきた。エミリアは先に部屋に入ってて。神殿の個室に鞄を置きに行くから、それまで部屋の中で待っててくれる?その間に着替えてくれていたら、僕がその服をこっそり返しに行くよ。」


 ノアが荷馬車に繋がっている鞄をベッドの上に出して、私とディアさんは先に荷馬車の部屋に戻ってきた。


「はああ~あ。良かった。助かった。マジ、ヤバかったわ。あ、それ、さっさと着替えちゃいなさいよ。早く早く!」


 ディアさんに急かされながら、急いで元の服に着替えた。鞄や靴も元通りにつけてから、ふわふわのツヤツヤになる櫛でディアさんの形を整えながら梳いていると、ノアが部屋に戻ってきた。私達を見て、引き出しから櫛を取り出して隣に座ると、私の髪を梳いて髪を編み込み始めた。


「ごめんね。僕のせいで、怖い思いをしたよね。エミリアが集中して修行してるみたいだったから、邪魔しちゃいけないかなって思ってしまったんだ。でも、何日も部屋の中に閉じ籠っていたら、気が滅入っちゃうよね。本当にごめん。僕のせいだ。僕が間違ってしまったから……。」


「全然!そんな事ないよ!そんな訳ないよ。私が何も言わないで外に出ちゃっただけなのに、ノアが悪いわけないよ。」


「僕を、許してくれる?すごく、怖かったよね?さっきの部屋に閉じ込められてたの?ヒドいことされなかった?」


 それで私は、荷馬車の部屋から宿に出て、秘密のお水を見に行った所から、ノアが迎えに来てくれた所までの話しを詳しく話した。水に流された話をしているときには、凄く顔をしかめていたけれど、話しが終わるまではジッと静かに私の話しを聞いていた。


「そうか……、思っていたよりも、すごく冒険だったんだね。無事に戻って来られて、本当に良かったよ。……それで、その水のお姉さん達は、エミリアに何をしたのかな?」


 ディアさんの方を向いたノアが、ディアさんに詰め寄るように顔を寄せて聞いていた。すっかりふわふわの赤い羊の姿に戻ったディアさんは、逃げるようにふわ~と浮かび上がっていた。


「こわっ!こっわ!顔が怖いっ!笑った顔がなぜか怖いわよ!気持ち悪い!あっち行ってよ!」


「……エミリアに何をしたのかと、聞いているんだ。どうゆうつもりなんだ?」


「知らない!知らないのよ!お姉さん達は知らなかったの!私のお姉さん達の仕業じゃないんだから!だから、どうゆうつもりも分からないわよ!」


「そうなんだ。お姉さん達じゃなかったんですね。それは、言いがかりで申し訳なかったです。」


「そうなの~。違ったのよ。ほら、まだまだ綺麗になってないじゃない?だから、あんまりウロウロしないんだって~。」


「そうなんですね。それは不便ですよね。はやく全部綺麗になったらいいですよね。」


 ふと見ると、ノアが顎に手をあてて何か難しい顔をして考え込んでいた。心配になって顔を覗き込むと、私に気がついたノアがニコッと微笑んだ。


「とりあえず、エミリアはしばらく水辺に近づかないようにしようか。それに、もう部屋に閉じ籠っていなくてもいいから、今から神殿の中に行く?これからしばらくは、メイベルやピートと神殿で過ごすことになると思うんだけど、明日からにする?」


「今から!今から行くことにする!やった。メイベルさん達は元気?」


「メイベル達は、いつでもうるさいぐらい元気だよ。ピートもね。……あと、羊は今まで以上にエミリアから離れないように。」


「分かってるわよ。ホント、うるさい。」


 私はノアの後について、鞄の取っ手の方から神殿の部屋に出た。驚いたことに地下の部屋の個室ではなくて、窓がある明るい個室の部屋だった。


「地下の部屋じゃなくなったの?ここは?」


「ああ、見張りが減ったみたいだから、みんな地上の部屋に移ったんだよ。この部屋の隣はメイベルの部屋だけど、今はたぶん、図書室……、かな?」


 私とノアは神殿のローブを羽織ってから個室の部屋を出た。神殿の地上部分は、廊下もどこの部屋の窓も大きくて、明るい雰囲気だった。私の部屋は階段のすぐ近くの部屋なので、迷子にならずに一人でも戻って来られそうだった。


 ノアについて歩いていくと、しばらくして大きな両開きの扉の前に着いていた。装飾が施された重厚な木の扉を開けて中に入ると、天井まで届きそうなたくさんの本棚が列になっていて、隙間なく数え切れないほどの本が並んでいた。


 分厚い本がたくさん並べてある本棚の間をぬけると、机が何列も置いてある開けた空間にメイベルさんとピートさんがいた。メイベルさんは高く積み重ねた本に囲まれるようにして、机の上で何かを熱心に書いていた。隣に座るピートさんは、薄い本を頭に乗せて眠っていた。


「ピート、起きろ。しばらくエミリアについてて。僕は先に服を返してくるから。」


「あ!エミリア。久しぶり!修行は終わったのね?私の隣に座って。一緒に勉強しましょうよ。やった!学校のときみたいね。」


「ああ?……めしか?」


「寝ぼけてんじゃないわよ。ちょっと、そこどいて!エミリアが座るのよ。」


「ここに、前の席に座りますから。私はここでいいですよ。」


「エミリア、念の為に、ピートから離れないでね。僕も服を置いたらすぐに戻ってくるから。」


 ノアが図書室から出て行くと、ピートさんは完全に起きたようで、私の隣に座りなおした。メイベルさんも席を立って、私の為に本を持ってきてくれると言って、本棚の方に歩いて行った。


「エミリアは何してたんだ?ノアがカラス達と慌てて出てっただろ?なにかあったのか?」


「えっと、ちょっとお外に……。」


 ピートさんは、外、とゆう言葉にピクッとなった。まさか一人で外に出かけたんじゃないだろうな、とゆう心の声がハッキリと聞こえる気がした。怪訝な顔をして、ピートさんが口を開こうとしたのと同時に、メイベルさんが戻って来た。私用にたくさんの本を両手に持って来てくれていて、何冊もの分厚い本をドサッと机の上に置いた。


「うん。これぐらいかしら。簡単な文字と数字の本を選んでみたんだけど、どっちからにする?好きな方から始めましょ。」


 ピートさんが本の山をチラッと眺めてから私を見ると、紙とペンを用意してくれた。良い笑顔になって、テーブルをぽんと叩いた。


「……頑張れ。」


「……ピートさんは、何をするんですか?」


「俺は、護衛だよ。間違っても、一人で外に出かけないように見張ってないと。な?」


「……はい。」


 私は大人しく席に座って、分厚い文字の本を開いた。とても簡単な文字の本には思えなかったけれど、目の前の席に座ったメイベルさんを見てみると、ニコニコと嬉しそうにしていた。私は、嬉しそうな笑顔のメイベルさんが目の前にいるのにまだ慣れていなくて、嬉しくて、しばらくただじっと、メイベルさんを見ていた。

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