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106.望まぬ再会

 この辺りの街灯が点かなくなったのは、たぶん私のせいで、この大通りの端から端までのすべての人達に迷惑をかけてしまったことが、とてつもなく辛くて、地面に沈み込んでしまいそうなほどに、心が暗く落ち込んでいた。


 ノアが私の隣に座り直して、いろいろとなぐさめる言葉を言っていた。ノアの声は聞こえているけれど、まったく頭に入ってこなかった。どれだけの、この町のどれだけの人達が不便な思いをしているのか、想像するだけで恐ろしかった。わなわなと震えていると、ふいに目の前に座っていたピートさんがガッタンと大きな音を立てた。ガタガタ騒がしい音を立てながら、厨房の方に入って行って、両手に荷物を持って戻ってきた。


「エミリア、見ろ。これがなにか分かるか?」


「……ろうそく?と、これは?」


「いいか、これはランプだ。どこにでも、部屋のいろんな所にある。あの壁についてるのもそうだし、宿の部屋にもいっぱいある。」


「……そう、なんだ。」


「この2つ。変な感じはするか?気持ち悪くなったり。」


「しない、けど……?」


「こっちの燭台はよくテーブルの上に置いてるだろ?火を点けると明るくなる。こっちのランプは家のいろんな所にある。灯油の油を足して使うんだけど、これも火を点けて明るくなる。夜に部屋が明るいのは、これらのおかげなんだ。」


「……そう、なんだね。」


 ピートさんがランプと燭台を持って照明の話しを教えてくれていた。ノアも急に何の話をはじめたのか不可解そうな顔をしていた。


「つまり、この2つはいいけど、あの!街灯はだめなんだ!」


 ピートさんが窓の外の街灯を指さして、急に大きな声を出した。ノアも私もその大声にビックリしたけれど、厨房からベリーさんも何事かと顔を出した。


「あれは、あの街灯は王都にしかないだろ!?あれは錬金術師が点けるんだろ?それなら錬金術師が悪いに決まってる!!エミリアは何も悪くない!!」


「……ど、どうゆう……?」


「お、俺は知ってる!!俺はエミリアが良いことをしたと思ってる!!エミリアは……、エミリアは、水を綺麗にしたり、草をブワーッて生えさしたり、体を治したり、なんてゆうか、だって、それは、それは……」


「……ピート、止めろ。」


 ノアが怒ったように、すごく低い声を出して立ち上がった。ノアとピートさんが顔を見つめ合って、睨み合っていた。


「エミリアに、なにも押しつけるな。エミリアはエミリアだ。……忘れたのか?」


 ピートさんがガタンと力が抜けたように椅子に座った。珍しく狼狽えたようになって、目が泳いでいた。


「忘れてない……。俺は、そんなつもりじゃなくて。そうじゃなくて、エミリアが、違うのに、なんか違うのに、落ち込んでるから、悪くないのに、悪いみたいに思ってるから……。」


 ノアもため息をつきながら、私の隣に腰をおろした。突然に、睨み合って仲違いしてしまった二人の顔を交互に見て焦ってしまう。私のせい?……のような気がするけれど、今の今まで仲良くしていて、朝も一緒に訓練をしていた二人がどうして?……押しつける、って何のことだろう。ノアを見ると、ニコッと笑われてしまった。


「僕が思うに、つまりピートが言いたかったのは、あの街灯はエミリアのせいじゃないから、気にしないでってことだと思うよ。」


「……そ、う?そうなのかな?ノアとピートさんはどうして怒って……」


「怒ってねえ……。俺は気にすんなって……、言いたくて……、そんだけ。ノアとも、ケンカしてる訳じゃないから、気にすんな。」


「僕も怒ってないよ。だからもういいんだよ。」


 いつの間にか始まっていた睨み合いは、いつの間にか終わっていた。なにか不思議な思いがする。私が腑に落ちない気持ちでいるうちに、ノアがランプを持ち上げてシゲシゲ見ながら、熱心に仕組みを観察していた。蓋をあけたり、匂いを嗅いだり、一通り見終わると、コトンとテーブルの上に置いた。


「照明って、つまり火だよね。この蝋も油も燃やしたら火がついて明るくなる。あの街灯はどうして、油を足したりして使えるようにならないんだろう。どうして、しばらく直らないのかな。……あの街灯の燃料はなんだろう。」


「たしか、昼間みたいに明るくなるって自慢してただろ。街灯も燃料も錬金術師が作ったんだろ?だったら良い物のわけがない。エミリアは気にすんな。お前がしたことは間違ってねえ。」


「そうだよ。エミリア。あれはなにか変なんだから。照明なら他にもあるんだから、なにも困らないはずだよ。」


 この辺りの住人は確かに今困っているんだけど、それは変わらないんだけど、二人して熱心に励ましてくれるので、私は少し気持ちが楽になった。大通りの住人の人達に、迷惑をかけてしまった罪悪感に押しつぶされそうになっていたけれど、私もあの街灯がなにか変だと思っていたことを、思い出した。だから少し、これで良かったのかもしれないと思えた。


 そして、そうやって私の為に言葉を尽くしてくれていて、二人が私の味方で居てくれていることが、とても有り難くて心強かった。私は秘密にしていたことを、ぽつりぽつりと話しだしていた。


「今日は、金髪の人を探して、髪の毛をもらおうと思っていて、……それで、私が金髪の人になって、神殿に入れてもらったら、メイベルさん達を探しにいけるから……、だから、二人とも、協力してくれる?」


 ピートさんは、ものすごく眉間に皺を寄せていた。それから恐るおそる隣のノアを見ると、笑顔で頷いてくれていた。


「もちろん。僕はエミリアの一番の味方だから、協力するよ。」


「おい……、それは……、エミリアが潜入するのか?本気か?」


「ピートは何を言っているんだ?みんなで潜入するに決まってるだろ?どうしてエミリア一人が潜入するんだ。」


「分かってないのは、お前の方だ。攫われたのは金髪の、少女達、なんだぞ。つまり男はいらないんだよ。」


「なにか問題が?そんなの、男がだめなら金髪の少女になればいい。」


「分かったぞ。俺は今分かった。頭が良いと思っていたのは、俺の勘違いだった。まともなのは俺だけだ。」


 ピートさんがとてつもなく大きなため息をついて、頭をフリフリしていた。それから椅子に深く座り直した。


「それに!そんな危ない作戦、師匠やノアのばあちゃんが賛成する訳ないだろ!絶対に反対される。」


「それはやり方次第だろ。ピートは協力しないなら、先に宿に戻っていたらいいよ。僕とエミリアは今から町に探しに行くから。」


 ノアがもう立ち上がって行こうとすると、ピートさんも慌てて一緒になって立ち上がった。協力しないなんて言ってないと言いながら、先にお店を出て行ってしまった。私の秘密の計画にノアとピートさんの二人も協力してくれることになった。


 三人で町の中を、道行く人達の髪に注目しながら歩いた。大通りや、住宅街やお店の中や、いろんな所を歩き回ったけれど、金色の髪の人は一人もいなかった。


「おっかしいなあ~。金髪が一人もいないぞ?たまたまか?」


「今まで髪色なんて気にしていなかったから……。そこら中にいるもんだと思っていたんだけど、珍しい色だったのか?」


「いい加減、歩き疲れた!下町にいないなら中心街に行ってみるか?カラスは今日も見回ってんだろ?」


「中心街か……、あんまり行きたくないなあ。」


 町の中を歩きながら、空を見上げるとカラス達は建物の屋根の上に留まっていた。私達を見守ってくれているクロに聞けば、金色の髪の人の居場所が分かるかもしれないと思っていると、後ろから話しかけられた。


「やあ、やっと見つけた。やっぱりこっちにいたんだね。エミリア。」


 振り向くと、茶色い髪の男の子がいた。中心街の広場の階段で再会した男の子だった。すぐにノアとピートさんが私を庇って、その男の子の前に立った。


「俺たちにかまうなと言ったはずだ。忘れたのか。」


「そうだそうだ!つきまとうな!変態!」


「なっ!?変……!?私はエミリアに話しかけているだけじゃないか。おかしな事を言うな。なのに、どうしていつも逃げられるんだ?」


 あらためてそう言われると、私はいつもこの男の子から逃げていた。初めは側にいるだけでぞわぞわと気持ちが悪かったけれど、今は海の指輪のおかげで話すことができる。それなのに、毎回逃げているのもずいぶん失礼なことに思えた。


「あの、なにかご用でしょうか?私達になにかお話しがありましたか?」


「えっ?いや、改めて言われると……、君と少し話して仲良くなりたいなって……思って。」


「仲良く?……すみません。あなたとは仲良くできません。すみません。」


 申し訳ないけれど、近くにいるとぞわぞわしてくる人とは長い間話せないし、仲良くなれないと思う。だから、私じゃない他の人とお話して仲良くなった方がいいと思った。


「は!?どうして!?私のなにが気に食わないんだ!?なぜだ!?」


「ぷぷっ。振られたな。これで分かったろ。俺たちは忙しいんだ。向こうに行け。あっちに行け。」


「嫌だ!!私は!!一番美しい妃をもらうんだ!!誰よりも一番!!兄達みんなに羨ましがられるような!!その娘をよこせ!!邪魔をするならお前達なんか!!」


 その男の子が右手を高く掲げた途端に、どこか近くで物が壊れるような大きな音が複数響いた。同時に複数の悲鳴が遠ざかっていく。音のした方を見ると、物陰に突風が吹いたように物が散乱していて、色んな物が崩れていた。


「あれ?どうして?……おい?」


 男の子は辺りをキョロキョロしていた。誰かを探しているようだったけれど、私達も今は金髪の人を探している最中なのだった。


「すみません。私達人を探しているので、これで失礼します。あの、さようなら。」


「な!?どうゆうことだ!?何をした!?私の護衛をどこにやった!?」


「ご、えい?ってなんですか?どこって……?」


「……いいか?俺たちに訳の分からん言いがかりをつけるな。さっきも言ったように、俺たちは忙しいんだ。いいや。もう行こうぜ。おいお前、次にもしまた会っても話しかけんなよ。」


「待て!ちょっと待て!私を誰だと思ってる!不敬だ!不敬罪になるぞ!お前たちを捕まえてやる!必ず見つけ出して牢にいれるからな!!」


「誰かは知らない。知りたくもない。ただ、今は護衛も居なくなったんだろ?さっさと帰った方がいいんじゃないか?」


 私達は走って逃げるように、その男の子から遠ざかった。ノアが走りながら小さく、不味いことになったと呟いていた。私は単純に気味が悪くて、怖くなっていた。私達を捕まえて、牢に入れるって……。どうして?何もしていないのに?走りながら、もうあの男の子に会いたくないと思った。


 この町は、変なことばかり起こって、なんだかもう嫌な気分だった。早く、今すぐにでもメイベルさん達を助けて、もうこの王都から逃げ出したかった。この町は、やっぱりどうにも変だと思った。

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