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99.出発前は濡羽色

 いつもより早く目覚めて、いつもより素早く身支度を整えた。そして用意しておいた変装道具をもう一度入念に確認していると、ラリーさんが、引き出しがたくさんついた大きめの箱を持って部屋に入ってきた。


「お、二人とも早起きだな。もう身支度も終わっていたか。外出用に、新しく変装道具を作ってみたんだ。今から試してみてくれないか。」


 ラリーさんは持ってきた箱の引き出しの中から、飾りのついたリボンをひとつ取り出した。箱の中には、色とりどりのリボンや飾りがたくさん入っていた。


「女の子のおしゃれには、たくさんの種類があるんだろう?わしは詳しくはないんだが、髪飾りをいくつか作ってみたんだ。色を変えるには、やはり直接着ける方が手軽だと思ってな。」


 ラリーさんが作ってくれた髪飾りは、着けると髪の色が変化する物だった。ノアが引き出しを順番に開けて中を確認していた。どの引き出しも、いろいろな可愛い髪飾りでぎっしりと詰まっていた。


「髪色を変えると言っても、なるべく影響のない方法にしてみたんだ。少し不便に思うかもしれんが、先にこの飾りの中に髪を一本いれてな、それからその髪飾りをつけると、中に入れた髪と同じ髪色になる。なるべく単純な構造にしたんでな、中の髪の効果が切れたら、新しく髪を入れ替えてくれ。だが少なくとも数日はそのまま入れ替えずに使えるだろう。」


 ラリーさんはノアに説明しながら、しきりに簡易的に、簡単なと言っているけれど、変装にはとても便利な物に思えた。さっそくノアが自分の髪の先を少し切って飾りの中に入れた。ラリーさんが抜け毛で十分なんだと少し慌てていた。服や櫛や床や、探せばいくらでも髪の毛は落ちている物だとノアに説明したいた。


 ノアの髪の毛を入れた飾りの部分の色が、ノアの髪色の黒い色に変わっていた。ラリーさんがそれを確認してから頷いたので、ノアが私の髪飾りを、色が変わる髪飾りとつけ替えた。すると徐々に髪色が黒く変化していって、私の髪が全部すっかりノアと同じ黒い色に変わった。


「わあ、すごい!僕とお揃いの色です。エミリア、とっても似合ってるよ。すごく可愛い。」


 ノアがすごく褒めてくれるので、なんだかとても照れくさい。普段あまり髪の毛のことは気にしていないけれど、肩にかかっている髪に触れると、いつもの見慣れた赤い髪ではなかった。まだ慣れないけれど、艶のある黒い色はとても綺麗だと思った。


「うんうん。どうやら成功でよさそうだな。外してしまったらすぐに元に戻るのでな、外では気を付けなさい。さあ、もうお腹が減っているだろう。朝ごはんにしよう。」


 いつもより、しっかりたっぷりと朝ごはんを食べて、変装道具を着けて準備万端で、洋服箪笥から部屋を出た。下の階に下りていくと、ピートさんはもう準備ができていて、ソファーに座って私達を待っていた。


「うん。思っていた通りだな……。それは逆に目立つ。やり直し!」


「ええ!?どうして変装しているのに目立つんだ?たしかにエミリアの可愛らしさは隠れていないけど、いや!隠れていないからか!?だから目立っているのか?」


「ホントに、お前は頭がいいのに、どうしてだろうな……?はあ~、……まず、髪の色を変えたんなら、帽子もスカーフもいらんだろ。あと、その顔を隠してる黒い布はなんだ?」


「これですか?この布はアビーさんが悪者退治をしていた時に顔に巻いていた布だそうです。これがあれば、誰か知られずに悪者をぶちのめせるそうですよ。」


「……ぶちのめすのは、やめとけよ。お前が悪者に間違えられるぞ。……よお~し、分かった!一旦変装道具を全部とれ!全部!一旦全部!」


 私は言われるままに、あれもこれも、たくさんつけている変装道具を全部はずした。そしてテーブルの上に置いた変装道具の中から、ピートさんが眼鏡とマフラーを選んだ。それ以外の変装道具を全部鞄の中にしまうと、私はピートさんが選んだ二つだけをつけて変装した。


「ホントはマフラーもいらんけど、万が一の時には、マフラーで顔を隠すんだぞ。念の為だ。」


 万が一の時と、念の為の時がいつなのか、忘れないうちに聞いておこうとしていると、ピートさんが私の肩のディアさんを指さしながら忠告した。


「羊は髪の色が変わったんだから、そこにいたら目立つ。邪魔!一緒に行くならマフラーの中にでも入ってろよ。」


「言い方!私はお邪魔虫じゃないんだから!私とエミリアはいつも一緒なのよ。」


 ディアさんはプリプリ怒りながらも、言われた通りにマフラーの中にモゾモゾ入ってきた。ピートさんが、明日からは赤いマフラーにしたらもっと目立たないで済むと教えてくれた。なんだかんだ言っていても、ピートさんはとても優しいと思う。ディアさんにそう言ったら、フンッ!そうかしら?と怒ったように言っていたけれど、ディアさんもそう思っているような気がした。


 みんなで1階まで下りて行って、玄関ホールに着く頃には、私は、すごくドキドキしていた。とうとう外に出て、メイベルさん達を探しに行くことができる。私はいま王都にいて、この町のどこかにメイベルさんがいる。もう今日にも、メイベルさんを見つけることが出来るような気がしてきていた。再会した時の喜びの光景が、次々と浮かんできてしまって、涙が零れてしまいそうだった。


「エミリア?どうしたの?どこか具合が悪い?気分が悪いの?」


 ノアがハンカチを差しだしてくれるので、私は大丈夫だと事情を説明した。もう感極まったようになってしまっただけなので、どこも何も体調が悪くないことを話した。


「「まだ一歩も外に出てない……。」」


 ピートさんとディアさんの言葉が見事に綺麗に重なっていた。やっぱりすごく仲良しなんだなと思った。出かける前に、1階の捜索本部の部屋に寄っていく。書き込みはまた更に増えていた。大きな地図をみんなで熱心に眺めてから、私達はさっそく、とうとう宿の玄関の扉を開けて外に出た。


「……え?」


 そこにはどこかで見たような光景が広がっていた。無数のカラス達が宿の玄関付近に集結していて、地面や木々の間や屋根や塀の上が黒々と埋め尽くされていた。そしてすべてのカラス達がこちらを凝視している。三人共が呆気にとられて固まっていると、黒い集団の中からクロがゆっくりと前に出てきて、歩いて近づいてくる。それもなにか、どこかで見たような気がした。


「おい、この騒ぎはなんだ?まさか全員ついてくる訳じゃないよな?大袈裟すぎるだろ?目立つ!解散!さっさと解散させろ!」


 ノアとピートさんがクロに向かって抗議しているけれど、クロは鼻をフンッと鳴らすと横を向いてしまった。まるでノア達の声が聞こえていないように、毛繕いを始めていた。


「これ、この宿の評判が落ちるんじゃねえか?不吉がられたら、他の客が来なくなるぞ。」


「ええ?どうして評判が?カラスが多すぎたらだめなんですか?不吉なんですか?どうして?……クロ、大変だよ。宿に迷惑がかかるから、こんなに集まったらだめなんだって!みんなに元の場所に戻るように言ってくれない?いっぱいじゃないと、だめなの?アビーさんに教えてあげないと。……私、ちょっとアビーさに話してきます。」


 走ってアビーさんがいる荷馬車の方に行こうとすると、ノアに止められてしまった。ノアがアビーさんに話しにいくので、私達は玄関の前で待つことになった。待っている間に何気なく庭を見ていたら、庭の草木が元通りになっていることに気がついた。庭園は整えられているし、地面を埋め尽くしていた草がなくなっていた。


「昨日の草むしり大会で、ずいぶん綺麗になったんですね。ピートさんが優勝したんですか?」


「いや、違う。昨日までは、まだこんなに綺麗になってなかったから、これはたぶんノアのばあちゃんじゃねえか。……そんな気がする。」


 そう言われて視線の先を見渡してみると、庭園の向こう側の奥に草の山が出来ていた。なんとなく、ザッと一遍に引っこぬいて、ドサッとまとめて積み重ねたような草の小山にみえた。たしかに、アビーさんの魔法かもしれないと思った。


 カツンカツンとどこかで聞いたような靴音がして振り返ると、アビーさんがもの凄く気怠そうにこちらに歩いてきていた。その陰鬱そうな足音は、前にもどこかで聞いたような気がした。


「……ノアが、アビーさんに話をしに行きましたよ。」


「知っておる。ラリーに話しているのを、聞いておった。そのうちに戻って来るであろう。それよりエミリア、これだけのカラスがおれば、そなたも安心できよう?なにかあればすぐに妾達に伝わる方が、そなたも安心であろう?」


「私は、ノアとピートさんが居てくれるので心配していませんよ。それより、宿の評判が落ちる方が心配です。カラスがたくさん集まっているのは、宿に良くないそうです。他のお客さんが来なくなったら宿の人が困ります。」


「なぜカラスが集まっていてはいかんのじゃ。……勝手なことを。」


 アビーさんはますます機嫌が悪くなったようだけれど、カラス達に元の配置に戻るように言って、解散させてくれた。続々と飛び立って行くカラス達を見ながら、クロに指示を出していた。


「そなたは、エミリアにつけ。報告は怠るな。」


 それからアビーさんは私の顔をジッと見つめると、静かに気をつけて行くようにと言った。私はアビーさんに安心してもらいたくて、お昼には戻ってくる予定のことや、心配しなくても大丈夫なことを話していた。それから、ノアが戻って来るのが見えると、アビーさんは途端に、ピューッと飛んでいってしまった。


「今までアビーさんがここに、居たんだよ。」


「……そうだろうね。」


 ノアはもう怒っていなくて、クロの方に近づいていくと、手に持っていた丸いガラス玉がついた紐をクロの首にかけた。


「まだ完成していないから、あまり離れないようにって、おじい様が言ってたけど、何のことか分かる?帰って来たらまた返してほしいんだって。」


 クロが分かっていると言うように頷くと、ノアは私達の方に歩いて戻ってきた。もうとうとう、出発のときが迫っていた。またドキドキと緊張してきていた。


「じゃあ、そろそろ行こうか。説明は歩きながらしよう。」


「そうだな。エミリア、これだけは先に言っておくけど、今日はたぶん探すのは無理だろうから、あんまり焦りすぎないように行こうぜ。」


 宿の門に向かって歩きながら、ピートさんに思ってもみない、予想外のことを言われたので、思わず足が止まってしまった。


「え?どうして?」


「まあ、町に出れば分かるんだけど、とにかく都会はすっげえんだよ。俺達の経験上、とにかく慣れるまでは町を普通に歩けない。心して歩かないと大変なことになる。」


 ピートさんの話しでは、都会の、王都の町は、気合を入れて心してかからないと大変なことになるらしかった。……大変なこと?なにか恐ろしいことが?私は、恐怖に打ち勝つように拳を握りしめて、しっかりと地面に足をつけてゆっくりと歩きだした。

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