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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先端恐怖症

作者: e層の上下

 僕がキッチンに入り、明かりをつけると一番最初に目に飛び込んでくるのは、シンクでもコンロでもなく洗い物を乾燥させておく場所である。銀色の金網には今日の晩御飯に使ったお皿がある。そして箸も。

 箸は父と母、僕と弟の分がポケットに刺さっている。食べる方が汚れないように箸はさかさまだ。食べる方が上になっている。僕はその4膳の箸を見つめた。箸も僕を見つめている。箸はとがっていた。僕が皿に盛られた料理ならこのとがった箸をよくみるだろう。影のような手が僕に迫ってくる。次の瞬間、ぐいと箸が刺さる。僕の目に刺さった。そんな妄想が止まらなくなる。先端をのぞき込んだ瞬間、うしろから誰かが頭を押してくるのではないだろうか、という不安に押しつぶされる。脳まで貫通し眼は柔らかかった。僕は乾いた喉を潤すためにすぐさまコップで水を飲んだ。


 部屋に戻ると、まだ明るかった。弟の鉛筆立てには、きっちりと削ってある鉛筆が何本も剣山のように突き刺さっている。なぜ先を上にするのだろう。黒々とした芯には僕の赤い血痕が似合う。僕は大きく目をつぶり布団に入った。

 気がつくと僕は体が動かなかった。布団の中にいる気配がする。そこにぶーんと不快な羽音がした。蚊だ。僕の体の何倍もある蚊の王ベルゼブブは、けむくじゃらで大きな複眼で僕を見つめている。僕は目をそらすことができない。耳の中には小さな蚊が入ってきていて不快感がさらに増す。ベルゼブブはゆっくりと目の前まで来ると僕に覆いかぶさり、お尻の針を僕に向けた。ベルゼブブの体中に生えている産毛は

逆立っている。全て針のようだった。


 目を覚ました僕は目を触った。ある。全て夢だった。もう一度目をつむる。すると頭の中に剛速球の野球ボールが目の前に飛んできて、僕は跳ねるように飛び起きた。もう朝だった。

 

 登校途中に低学年らしき小学生が僕の方を指さしている。気が遠くなる、距離感がわからない。小さな人差し指で、僕の目は容易にほじくり回された。僕の目をラムネのビンに入っているビー玉か何かと勘違いしているのか眼球をころころと回される。人を思いやる気持ちもないその指はあっという間に僕の眼球をつぶした。つぶれたプチトマトになった僕の眼球はでろっと僕の目から滴り落ちた……。気がした。みんな僕を指さしている。大勢の手が僕の顔を覆う。もう何も見えなくなった。


 そんな僕にも光がさした。目をつむっても消えない光。頭が乾いていくようなまぶしさ。僕の体に突き刺さる線。太陽が僕の眼に入って来る。僕は外が怖くなった。


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