思い出
「30歳になってもひとりだったら結婚しようよ。」
言われたのは、私がまだ高校生の頃だった。
その頃の私はというと、フラフラと夜に抜け出して遊びに行くような、普通っぽくて普通じゃない子だった。
家にいるのが嫌で、でも居なきゃいけなくて。
友達といるのは楽しいけど、近すぎるのも嫌で。
心を許せるのは彼だけだった。
学校の先輩だった彼。
気づいたら目で追っていて、隣に誰か居るのを想像しては嫌になった。
この後輩でいられる関係を壊したくない、と思って自分の想いを知らなかったことにしようとしたこともあった。
でも、この人の声がたくさん聞きたくて、いろんな笑顔を見たくて、1年間の片思いの後に告白をした。
今思い返せば、初めてで最後の告白だった。
付き合った、と言ってもべたべたすることはなかった。
いつものように学校で話をして、時々休みの日も会って。
変わったことと言えば、手を繋いだことだけ。
それだけでも満たされて、安心してた。
それだけで十分だった。
「いーよ。お互いひとりだったらね。」
いつもの夜遊びの帰り道、手を繋ぎながら話したことを思い出す。
ものすごく嬉しかったのに照れくさくて、素直に返せなくて不格好な返事になってしまった。
直接顔を見れなかったけど、私よりも大きい手がぎゅっと握り返してくれたのが嬉しかった。
それから何年も経って、今年37になる。
あの後ちょっとして、彼とはお別れしてしまった。
他に付き合った人もいたし、結婚もした。残念ながら、今度離婚することになったけど。
(あの時の約束、今さら思い出すなんてなぁ…。)
仕事前にカフェオレを買いに来た時、ふと思い出して浸ってしまった。
あの時は何を飲んでたか、なんて自分のことは昔過ぎて思い出せないのに、いつも彼が飲んでいたミルクティーだけは覚えている。
飲めない私に、これなら飲めるんじゃない?と教えてくれたこともあった。
幸せになってますように。
願いを込めて、いつもより甘くしたカフェオレに口を付ける。
さぁ、これを飲んだら今日も頑張るか。