失恋
数回コール音が鳴って相手が出た。
「どしたの?」
「聞いてー振られたー…。」
家に着いてひとりになって、彼女に電話をした。
泣きそうになって言葉が出てこない私に、彼女はそっか、と一言呟いて次の言葉を待っててくれた。
「好きな人、出来たんだって。」
言葉に出してさっきの出来事を振り返る。
今日は久しぶりに会う彼の家に遊びに行って、今日こそ楽しく過ごそうと思ってた。
最近は連絡もまちまちになってきてすれ違う様な感じもあった。
もう終わりかなって思う事は正直なかったとは言えない。
会えなくなると考えてしまうから、気づかないフリをした。
でも、言われてしまった。
別れよう、って。
好きな人できたんだ、って。
聞きたくない言葉ってもっと時間をかけて言われるかと思ってた。
「そ、っか…。」
「うん…。まだ好きだし、一緒に居たい…。」
泣きそうになって俯いても、もう抱きしめてくれなかった。
ごめん、と謝るだけで、嘘だよ、なんて言われなかった。
大好きな笑顔を見たかったのに今日は凄く悲しそうで、笑ってほしいのに、別れたくないしか言えなかった。
困らせたくないなら、ちゃんとわかったって言わなきゃいけないのはわかってる。
言いたくないのはワガママだってこともわかってる。
頭でわかってても気持ちが全く追いつかなくて、困らせて…。
今日はもう帰るね、と言って家を出てしまった。
彼女はうん、うん、と話を聞いてくれた。
何を返す訳もなく、ただ、うん、と話を聞いて、
「大好きなんだね。」
と呟いた。
我慢してた涙が溢れて止まらなかった。
今でも大好きで、別れたくない。
でも彼には…好きな人がいて、それは私ではない。
ちゃんと分かってるけど、分かりたくなくて。
気持ちがぐちゃぐちゃで吐き出しても止まれなかった。
「なら、ちゃんとできること、しよ。した方がいいと思う。」
泣いて、泣いて、少し落ち着いた頃に彼女は言った。
「大好きで、大好きなんだってちゃんと伝えた方がいいと思う。あたしじゃなくて、彼に。」
…確かに。
彼女に言っても伝わらないし伝えられない。
「…でも、迷惑じゃないかな。」
「伝えなきゃ後悔するんじゃない?」
彼女の言うことは最もだ。
「伝えて後悔するのと、伝えなくて後悔するの、思い出して納得できるのはどっち?」
…納得できる後悔かぁ。
きっと伝えたら彼の悲しい顔を見て、言わなきゃよかったかなって思うだろう。
困らせたくないけど、これだけ好きなんだって伝えたい気持ちはあるし。
もしかしたら今まで伝えきれなかったとこもあったかもしれない。
もしも伝えなかったら。
モヤモヤしたまま、ずっと好きでいて言えばよかったって何度も思うだろう。
会えないまま何年も過ごして、その度思い出して、伝えたらよかったって思いながら過ごす…のかな?
そんなの嫌だ。
絶対嫌だ。
「多分…今は、ちゃんと伝えた方が後悔しても納得できる、と思う。」
すん、と鼻を鳴らしながら答える。
「なら、ちゃんと伝えてきな。しっかり伝えて、でも断られたら、きっぱり引きなよ。」
その方がかっこいい、と。
「振られるならかっこよく振られて今度はこっちが振ったことを後悔させてやればいいんじゃない?」
そんな簡単にいくかー!と言いたくなるけど、泣いたらちょっとスッキリしてちょっと笑えてきた。
多分電話した最初ならこんな話聞けなかったと思う。
けど気持ちはさっきより落ち着いてるし、グラグラもぐちゃぐちゃもしてない。
「いいね、かっこよく振られるって。ちょっと振られてくるわ。」
彼女にお礼を伝えて電話を切る。
まだ夜にもなってないこの時間。
今動かなきゃ、きっとこれから動けない。
立ち上がって、カバンを持って、玄関に向かう。
「よし、じゃあ伝えにいくかー。」
気合いを入れて1歩踏み出した。
後悔しても納得できる明日のために。