朝
今日も私の朝はコーヒーから始まる。
イヤホンを付けて、注文したコーヒーとホットサンドを席に持ってってまずタバコを一服。
少し冷めたホットサンドを食べながら、携帯でニュースと天気のチェック。
合間にコーヒーを飲んで、出勤前にちょっと休憩する。
気づいたのは偶然だった。
たまたま顔を上げたら、今日も『あの人』が座っていた。
特に目立つ様な感じはなく、携帯を見ながらタバコを吸っている。
顔が整ってる訳じゃないけど、ラフなTシャツに暗めの色のパンツ。
見慣れた景色に溶け込みそうな、落ち着いた雰囲気。
同じ空間に、同じようにコーヒーを飲みながらタバコを吸っている。
最初はただそれだけだった。
最初に気づいてから、どれくらい過ぎたんだろう。
『あの人』は今日もいる。
季節はとっくに感って『あの人』はジャケットをいつも羽織っていた。
毎日同じように携帯を見てる。
私がこっそり見てることなんて、気にもしてないだろう。
イヤホンから届く曲が変わり、よくコンビニで聞くラブソングが聞こえる。
変えよっかな…。でもその前にコーヒー飲みたい、今。
そう思って視線を変えようとした時。
ーーーあ。
目が、合った。
落ち着くために、まずコーヒーをひと口。
――多分気づいてないはず。一瞬だったし。
なんて思いながら、頬が熱くなる感じがした。
――熱いのはコーヒーのせいだ。
そう思いながら携帯を開く。
曲を変えるわけでもなくセットリストを滑らせる。
――動揺なんかしてない。今まで気になってなかったし。
誰に聞かれた訳でもないのに、言い訳を並べていく。
こんなに言い訳が出てくるのは熱くなる頬のせいじゃない、絶対。
ちょっと気になって、携帯越しに視線を上げてみた。
『あの人』は携帯をみたままだった。
ちょっとがっかり。
めちゃくちゃほっとした。
『あの人』はどう思ったのかな。
私も見られてたのかな。
色んな思いが出てくるけど、言葉にすることはできなくて。
またひと口コーヒーを飲む。
こーゆーの、学生以来だからわかんないよ。
なんて最後に思いながら今日も出勤前のコーヒーを飲み干し、トレイとカバンを持って外に出る。
いつもの朝とちょっと違う朝。
『あの人』はいつもの風景にいる、ちょっと気になる人になった。