食べてしまってはいかがでしょう〜無実の罪で投獄されたので、姫様の婚約者を甘いお菓子の材料にします〜
権力者×言いがかり=無実の罪
* * *
王宮のパティシエ、ジュリアーノの罪状は「作る菓子が美味しすぎること」刑は縛り首が妥当との判断。
投獄され、沙汰を言い渡されたジュリアーノは、鉄格子に組み付いて獄吏にわめきたてた。
「おいこらいい加減にしろ! 美味しすぎて何が悪い!? 『菓子作りを命じた姫君が、あと少しだけ、もう少しだけと堪え性無く食べ続けてついにコルセットが締められなくなり、その自分に甘い性格とたるみきったボディが婚約者に愛想を付かされた』のがいちゃもんの理由だよな!? 俺はどうすりゃ良かったんだよ。作らなきゃ命令違反、命じられただけの量をきっちり作れば縛り首、王家の横暴ここに極まれり!」
ジュリアーノの足元を、ちゅう、と鳴きながらねずみが走り抜ける。
あごひげを指で扱きながら耳を傾けていた獄吏は、んん~~と唸ってから、頷いてみせた。
「少なくとも今ので王家批判の罪は加わったようだ。刑の正当性が増した」
「そういうのを揚げ足取りって言うんだよ!! もともとどんな正当性もない。俺は無実だ! 無実の人間を処刑なんかしてみろ。王家滅びるからな!!」
呪いの言葉とともに、がつん、とジュリアーノは鉄格子を蹴り上げる。足に衝撃。「いっ」と小さな声をあげて、息を飲んだ。
「本当に、気の毒だが、こればかりはどうしようもない。現に君はその手管で、結婚を控えたうら若き姫様を骨抜きにし、堕落させてしまったわけだから。この色男が」
「いかがわしく言い換えんなっ。こっちは堕落させる気もないどころか、懸想したことすらねーよ。仕事相手は仕事第一だっつーの」
ジュリアーノは陰々滅々とした声で吐き出した。足の痛みのせいで、だいぶ勢いは弱まっている。
その様子を見届けてから、「次に生まれ変わるときはもう少しマシな人生だと良いな」とほのかな優しさをチラ見せしつつ獄吏は立ち去った。
残されたジュリアーノは、盛大に溜息。
(街の菓子工房で名を挙げて、王宮に召し抱えられて……。できる限りのことをしようと研鑽の日々、努力に努力を重ねて菓子を作り続けてきたのにこの仕打ち。俺の人生は一体なんだったんだ)
空気の淀んだ牢獄。湿った石床。逃げ場などなし。
本当に、このまま権力者の八つ当たりで自分は死んでしまうのだろうか?
あまりの事態に、嘆くことすら忘れてジュリアーノはその場に蹲る。
そのとき、場にそぐわない、鈴の音のような声が響いた。
“腕の良い菓子職人さんがこんなことで死ぬなんてもったいなさすぎる。力をお貸ししましょう!”
* * *
ほとんど光の届かない暗闇だったはずのそこに、ぼんやりと発光するトンガリ帽子・黒ローブの少女が忽然と姿を現していた。
(ふわふわの紅色の髪……甘酸っぱそう)
投獄以来まともな食事にありついていなかったジュリアーノの思考は一瞬、食に流れた。そんな場合ではないと、遅れて気づく。
「どこから現れた?」
「どこからでも。私は建物につく類の妖精なんです。お屋敷妖精とか、城妖精といいます。あなたが捕らえられてからの出来事を見ていましたが、ひどすぎます! お菓子を作るひとをあっさり殺してはいけません!」
外見年齢は人間で言えば十歳程度であろうか。子どもながらに整った顔立ちには、人離れした超然としたものがある。
はじめ、瞳は水色っぽく見えていた。しかし話しているうちに感情が高揚したのか、いつしか虹色の輝きを放っていた。
その目を見ていたら、不思議の存在であることはジュリアーノとしても疑いようなく、すとんと納得ができた。
鉄格子に背を預け、ジュリアーノはくすりと笑う。
「お菓子を作るひとだろうが、そうじゃなかろうが、こんな死に方はだめだよ」
「それはそうです。断固として許せません。私はいま諸般の事情で全力は出せないのですが、あなたに力を貸してさしあげます! ぜひとも思い上がった王家の豚どもに目にものを見せ、復讐を成し遂げましょう!」
「それは物騒だ。俺は、殺されるのは嫌だけど、復讐はほどほどで。二度とこんな権力の濫用をしないように、多少の痛い目を見てほしいとは思っているが」
(職場としては悪くなかった……。悪くないどころか天国だった。予算はたっぷり、使いたい材料も道具も一通り揃えられて、とにかく朝から晩まで菓子作りをしていられたんだから)
「あなたは甘い……!」
「甘いものは大好きだよ。好きだから作ってる」
不満げな城妖精の訴えを茶化して、ジュリアーノは微笑みかけた。城妖精は納得いかなそうに目を細めて渋面を作っていたが「まぁいいでしょう」といささか居丈高に言い放った。
「具体的な復讐方法です。あなたが問われた罪は姫君を太らせてしまったこと……。それは姫君が『もう少しだけ』と、ずるずるとお菓子を食べるのをやめられなかったことに起因している。誘惑に弱い愚か者め! その根性も叩きのめしてやる!」
「罵倒はそこまで。続きを」
(この城妖精、何か個人的な恨みでもないか……?)
ジュリアーノは訝しむように眉をひそめ、その表情を追ったが、城妖精は気づいた様子はない。こほん、と咳払いをしてから話を再開した。
「この上は、さらにさらに姫君の前に、とんでもなく美味しいお菓子をぶら下げてやれば良いんですよ」
「食べると思うぞ。姫様はそのへん、我慢できない体質だ」
「食べたいのなら、食べれば良いのです。ただし、口にしてしまったが最後、後悔と罪悪感が半端ない材料で作っておくんですよ、あなたが。あなたは、頼まれても美味しくないお菓子なんて作りたくないでしょう? ぜひとも腕によりをかけて、素晴らしく美味しいお菓子を作るのです! とんでもない材料で!」
うわぁ……。
城妖精があまりに邪悪な笑みを浮かべたので、ジュリアーノはドン引きどころではなかった。だが、今のジュリアーノに救いの手を差し伸べてくれる相手は他にいない。ひとまず最後まで話を聞こう、と決意して尋ねた。
「その材料って」
「姫君の婚約者、ダドリー卿です」
「人間?」
(部位は? お菓子作りに向く人間の部位ってあるか? コラーゲンか? ゼリーを作ればいいのか? いや、材料にした時点で、ダドリー卿、死なないか?)
ぐるぐる考えてしまったジュリアーノの手を取り、城妖精は笑顔で言った。
「さあ、ダドリー卿を捕獲しにいきましょう! 私がいれば城の中は自由自在に動けます。まずはあなたをこの牢獄から解放します!」
* * *
翌朝、夜明け頃。
「ジュリアーノ!? 投獄の件は!? 無事だったのか!?」
「うん。解放されたよ」
厨房で顔を合わせた司厨士たちにジュリアーノは大嘘を言い、脱獄してからこの方作り続けていたケーキを完成させた。
城妖精のはからいで、夜間は厨房に人間が近づけない結界が張られていた。
仕事のひとたちは入れないと困る、と城妖精にかけあって朝方結界を取り消してもらったところ、厨房のざわめきの向こう側に、早朝にも関わらず明らかにいつもより多くのひとの動き回る気配がある。
――ダドリー卿がお部屋にいらっしゃらない
――誰もお姿をお見かけしていないとのことだが
城に滞在していた、姫君の婚約者が行方不明。部屋のドアが不審な開き方をしていた、などと衛兵たちがそこかしこでやりとりをしている。地下牢に閉じ込められたパティシエの脱獄が騒動になっているかは不明だったが、時間の問題だろう。
作り上げたケーキを皿にのせ、銀の蓋をかぶせてジュリアーノは厨房を後にする。目指すは姫君の私室。
半地下の厨房から階段をのぼり、通い慣れた二階の部屋へと向かえば、侍女たちが忙しなく出入りしている気配があった。
ジュリアーノが近づくと「あらっ」という反応をする者もいたが、あまりにもいつもどおりにお菓子を携えて現れたので「投獄は悪い冗談だったのかしら?」くらいの反応の薄さ。
「姫様にケーキをお届けにあがりました。部屋へお持ちします」
姫君は、食べながら材料や作り方について質問することが多く、間に人を立てるとあまりにも迂遠になる関係で、ジュリアーノが直接面会することに関して特別に許可が下りていた。
新作のときは特に、こうして自ら運んで説明をする。その習慣があったからこそ、侍女たちはジュリアーノが部屋に足を踏み入れるのを見送ってしまった。
姫君は、コルセットを締め上げるのを諦めてドレスを身に着けたところだったらしい。ドレッサーの前に腰掛けて、栗色の美しい髪に侍女の手でブラシをかけられていた。
「あら。お父様が怒ってあなたを捕らえたと聞いたけど、無事だったのね!?」
鏡に映り込んだジュリアーノに気づき、ぱっと顔を輝かせて振り返る。
その明るい表情を見て、ジュリアーノは微苦笑を浮かべつつ、手にした銀の皿を差し出した。
「ケーキをお持ちしました。何やら今朝は騒々しいようですが、食欲はいかほど?」
「まぁまぁ、ケーキ? 嬉しい……! あなたのお菓子を食べられなくなったらどうしようって、ずっとそればかりが気になっていて……! 早速頂くわ!」
ブラシをかけていた侍女が、「姫様」と冷えた声で囁いた。「ダドリー卿が行方不明なのですよ。そんなことしている場合ですか」と。
ジュリアーノは、それを聞き止めてすばやく反応した。笑顔で。
「ダドリー卿ならこちらにいらっしゃいます。いまお連れしました」
「どこに?」
「こちらに」
厳かに銀の蓋を持ち上げる。
ジュリアーノが丹精込めて作り上げたローズ・ガトー。フランボワーズで染め上げたマカロン生地を土台に、薔薇のシロップを加えたクリームを挟みこみ、フランボワーズやライチを並べてマカロン生地をのせたもの。随所に薔薇の花びらやフランボワーズを飾った、華やかな一品。
姫君は指を組み合わせ、感嘆の溜息をついた。
「美しいわ……。食べるのがもったいないくらい。食べるけど」
「はい。もちろんこのケーキは姫様に食べて頂くために作りました。同時に、姫様はこのケーキを決して食べてはいけないのです」
「どうして? こんなに美味しそうなのに?」
もっともだ、と思いながらジュリアーノは試練を告げる。
「このケーキ、ダドリー卿なんです」
「ケーキが?」
「はい。材料にしてしまいました」
「ケーキの?」
静まり返った中で、ジュリアーノは銀の皿に乗せていたフォークを持ち、ぷすりと薄紅色のケーキに刺す。
「痛ッ」
ケーキが男の声で悲鳴をあげた。
* * *
いまジュリアーノを殺してはだめ。この不可解な状況を作り出したのがジュリアーノである以上、殺してしまったら取り返しのつかないことになるから。
姫君は押し寄せた王宮の高官や父王を説得し、部屋に近づけないことに成功した。
ドアは開け放たれ、殺気を帯びた兵たちが廊下に詰めているのは確認できるが、ひとまず命の保証はされている。
その状態で、ジュリアーノは、ケーキを挟んで姫君と向き合っていた。
「絶対に美味しいと思う……。食べてしまいたい……」
膝の上に置かれた手には、ぎゅっとフォークが握りしめられている。
ちらりと視線を流して確認しつつ、ジュリアーノは淡々と言った。
「食べたければ、食べて良いんですよ。ダドリー卿ですけど」
「ほんの少し、ほんの少しだけなら良いかしら」
「俺は構いません。この後然るべき方法でダドリー卿を人間の姿に戻したとき、どこか大切な部分が少しだけ欠けているかもしれませんが」
姫君は、青い目を潤ませながらケーキ越しにジュリアーノを見つめた。戸惑い、躊躇い。目に浮かんだ表情を思い、ジュリアーノも複雑な思いで見つめ返す。
(さすがに、これは食べるとは言いづらいよな。たとえ食いしん坊の姫様でも。作ったのに食べてもらえないのは寂しいけれど、こうして「食べない」訓練を積むことによってこれから姫を減量させる、のか……?)
「どこかが欠けてしまうというのは、考えるだけでとても残酷ね。いっそ全部食べた方が情け深いんじゃないかしら」
ジュリアーノは耳を疑った。情けもびっくりな非情な言葉を聞いた気がした。
「ダドリー卿をまるごと? 本気で言ってます?」
「本気よ。だってもうケーキになってしまっているんですもの。腐らせるより食べた方がいいと思わない?」
「その『もったいない』感覚、俺は素晴らしいと思いますが……、婚約者いなくなりますよ?」
確認。
姫君は目をぱちぱち瞬かせ後、明るく笑って言った。
「私ね、ダドリー卿のことを、とてもお慕いしていたの。婚約が決まったとき、夢みたいって思ったわ。今のままだと婚約破棄されて、夢だった、で終わりそうなのだけど。食べてしまえば私たち、ひとつになれるし、婚約破棄もされないのよね。これ以上ない解決方法かも。美味しそうだし」
言うなり、姫君は椅子から身を乗り出し、フォークを突き立てるべく腕を伸ばしてきた。
ジュリアーノは弾かれるように手を伸ばし、台の上に置いていた銀皿を両手で掴むと、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。
「本当に!? 食べちゃうんですか!? 婚約者を!?」
「婚約者はいずれ夫婦となった暁に、美味しく頂くものではなくて?」
「どこの世界の話ですか!? ああ、えっと、間違いじゃないかもしれないですけど、まだお二人は結婚前ですよね!?」
「何を焦ってるの? この状況、ふつう、食べるでしょう?」
「食べ――」
絶句。硬直したジュリアーノが次の行動を決め兼ねたそのとき。
「彼女に食べられるなら本望だ。ジュリアーノくん、皿を台に戻してくれ」
ケーキが喋った。
* * *
「そもそも私に、婚約破棄する気などまったくなかった。それを、陛下と王妃様が気を回して。末っ子で甘やかしてしまったんですけど、あんなにぶくぶく太った姫ではお気に召さないでしょう、と。でもこれから結婚までには痩せさせますからどうぞそのままで、などと仰る。どうもお二人は容姿を過度に気にしすぎるし、自分たちの価値観を絶対だと考えすぎなのではないか。私はそう申し上げたのだが、婉曲すぎて伝わらなかったようだ。たくさん召し上がる姫は、今のままでじゅうぶんお可愛らしいというのに」
ケーキが喋っている。
姫君はうんうんと頷きながら、そーっとフォークを構えた。
「そうでしたの。父上も母上も、ひとの言うことに耳を貸さないところがありますから。ダドリー卿、ほんの少しだけ食べてもいいですか?」
「少しだけなら……」
んんんん、とジュリアーノは大きめの咳払いをした。
「どさくさに紛れて甘い空気にならないで頂けますか。ケーキだけに甘い空気、みたいな? いや面白くねーよ。そういうの、俺が出て行ってからにしてください」
言うだけ言ってから、ドアの方へと視線を流して「城妖精」と呼びかける。
途端、空間が紙のようにぺろんと剥がれて、城妖精とダドリー卿(人間)が姿を見せた。
「全力出せたら本当にケーキにしてやったんですけどね! 今はせいぜいここからそのケーキに本人の声を飛ばす程度ですよ。婚約者殿は無事ですよ!」
髭面で、やや姫君とは年齢差のあるダドリー卿。王家も無視できない資産家でもあり、それだけに国王夫妻も気を使っていたようだが、姫を見つめる目は温かい。
フォークを握りしめたままであった姫君は、唇を震わせながら婚約者の姿を見つめて、言った。
「ご無事でしたのね……! ご無事でないのなら仕方ない、ひと思いに食べてしまうまでと思っていましたが。人間の姿を確認できて何よりです。ケーキはもう食べても良いかしら?」
最後の一言は、ジュリアーノへ。
ふっと息を漏らしたジュリアーノは、口の端を吊り上げて笑って言った。
「食べてしまってはいかがでしょう。少しだけと言わずに、全部」
* * *
助命嘆願お願いしますよ、とダドリー卿と姫君に念押しをした関係で、ひとまず無罪放免となったジュリアーノは、すぐさま仕事に復帰した。
それからは、以前と変わらず、美味しいお菓子を作り続けている。
以前と変わったのは、一度姿が見えるようになってしまった城妖精が、ずっと身の回りに居座っていること。
今の姿は十五歳くらいの乙女。ふわふわのフランボワーズの髪を肩に流して、トンガリ帽子を被った格好のまま、ケーキの仕上げをしているジュリアーノの横に立つ。
「私も食べたい。『真実の愛』ケーキ」
「そんなダサい名前じゃない。仕上がったら食べていいから、もう少し待て」
何度となく改良を重ねてきた。現在はマカロン生地の赤を調整し、飾り付けには薔薇の花びらとすみれ色の砂糖菓子をのせて完成としている。
ちょうど良いから休憩にする、とジュリアーノは宣言した。厨房の隅のテーブルで城妖精と隣り合って座り、仕上げたばかりのケーキを食べることにする。
「私はねえ、お城のお茶会だとか晩餐会で山と積まれているお菓子を少しずつ食べてずっと生きてきたの。だけど、あの姫君ときたら、ジュリアーノが来てから、美味しい美味しいって残らず食べてしまうんですもの。私はいつもお腹を空かせることになって……、魔力も使えなくなるし体は子どもになるし。本気で殺意も湧いたわ」
フォークを握りしめて、暗い眼差しで虚空を見つめる城妖精。
ジュリアーノは自分のケーキをフォークで一切れ切り分け、そのまま刺す。城妖精が口を開けたタイミングで「いいから食え。今は好きなだけ食べられているだろう」と押し込んだ。
城妖精は、おとなしく咀嚼して飲み込んでから、ジュリアーノを見上げる。
「本当に美味しい……。ずっと食べてみたかったの、ジュリアーノのお菓子。いますごく幸せ」
「それはどうも」
熱い視線から顔をそむけて、ケーキを食べようとフォークを持ち直す。そこで、ジュリアーノは動きを止める。たいてい、城妖精は一度に一つでは足りないのだ。ジュリアーノの分も頂戴、と言われるのを見越して手をつけないでおく。
「それにしても、最近はずいぶん外見年齢成長してきたよな。人間の年取るスピードよりだいぶ早いけど、大丈夫なのか。そのまま老衰しない?」
「大丈夫。人間の食べ物を人間と食べると、人間に近づいて、そのうち人間になってしまうことはあるみたいだけど。人間になったら後はずっと人間のまま、歳を取るペースも人間並に……」
「それ、大丈夫のうちに入るのか? 俺はこのまま君にお菓子を供給していて本当に良いんだろうか」
(妖精を人間にしてしまっても良いものだろうか)
言ってから顔を向けると、城妖精はジュリアーノを見上げ、すみれ色の瞳に恥じらいを浮かべつつもきっぱりとした調子で言った。
「そのときは責任とって側に置いてください。ずっとあなたのお菓子を食べていたいんです」
ジュリアーノもまた真剣にその目を見返して、答えた。
「それを俺に言うってことは『愛の告白』になる。その意味で受け取ったぞ」
まあ、と頬を赤らめた城妖精だが、このときは瞳の色が七色に変化しなかった。その様子を見ながら(もしかしてもう、人間に――)と言いかけた言葉を、ジュリアーノは飲み込む。まだ半信半疑。それに、結ばれるには少し年齢が足りない。
代わりに、「ちなみに。俺は同じ言葉を姫様にも言われているけど、姫様の場合はビジネスの意味で受け取っている」と言い添えた。
話を半分しか聞かないで、城妖精は「やっぱりあの姫君は締め上げないと」と剣呑な調子で呟きをもらし、人間になるならこの辺の物騒な感覚をどうにかしてからだなぁ、とジュリアーノは思いを馳せた。
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