【タナベ・バトラーズ】なんだかんだで成功、なのか?
大人しい女性ネイベリルは、珍しく、夫であるラベスの部屋にやって来ていた。
「すみません、いきなり……」
ネイベリルは両肩を縮めている。
元々華奢な身体をしているのだが、肩を内に寄せていると、より一層華奢に見える。
「いえ。来ていただけて嬉しいです」
ラベスはそう言ってぎこちない笑みを浮かべる。
彼もまた緊張しているのだ。というのも、ネイベリルが部屋へやって来るのはかなり珍しいことなのである。これまではずっと散歩に誘っても断られるくらいで、奥手なネイベリルとの関係にはなかなか進展がなかった。だからこその、この緊張である。
ラベスの自室の入り口付近にて、二人は向かい合う。
「少し……ここにいても構いませんか?」
「もちろん」
ネイベリルが自ら来てくれたことを嬉しく思いつつも、ラベスは素直に喜びきれない。否、一応喜んではいるのだ。ただ、それを表情や言葉選びに反映させることが難しいのである。かなり緊張しているということもあって、感情を上手く露わにすることができない。
「こちらの椅子を使ってください」
「あ……はい。ありがとうございます……」
ネイベリルは促されるままにテーブル近くの椅子に腰を下ろした。
そんな彼女の視界に入ったのは、一冊の本。
表紙には透明な硝子で造られた女性の像を連想させるイラスト。カラー印刷だが色数は多くなく、大人びて落ち着いた印象。しかしながら、女体の凹凸とラインがしっかりと描かれていて、心なしか恥ずかしくなるような雰囲気はある。
「あの、ラベスさん、これって……!」
「……あ」
「この本、知っています! これって確か、『悶える女体〜硝子製の彼女、艶出し処置し放題〜』という、アレですよね……!?」
その本というのは、ややアダルト路線のイラスト本である。
いつもは片付けているのだがうっかり片付け忘れていたラベスは気まずそうな顔をする。が、ネイベリルは気づいていないようだ。不快感を示すどころか、むしろ瞳を輝かせている。
「ラベスさんも持っていらっしゃったなんて……驚きです……!」
ネイベリルはらしくなくはしゃぎそうになっている。目をぱちぱちさせているし、表情も無意識のうちに明るいうちになっている。また、発する声もいつもより大きめだ。しかも声の質も活き活きしている。
「も、とは……」
ラベスはきょとんとすることしかできない。
「実は、その……愛読しているのです……!」
ややアダルト路線のイラスト本、それは、どちらかというと男性読者を対象として制作されたものだ。そのため、ネイベリルがその本を知っているなんて、ラベスは夢にも思わなかった。だから、ラベスは今、とても驚いている。そして、驚くと共に、戸惑ってもいる。
「ネイベリルさんが、ですか」
ラベスは半ば無意識のうちに顔の筋肉をぴくぴくさせてしまっていた。
「はい……はい、そうです。……あの、何か?」
ラベスの顔面がぴくぴくしていることに気づいたネイベリルは、おかしなものを見てしまったような不思議そうな顔をする。心なしか気を遣っているような表情ではあるが、それが中心となっている表情というよりかは純粋に不思議に思っているというような表情に近い。
「い、いえ! そんな、変な意味では! 変な意味ではないです!」
ラベスはらしくなく冷静さを欠いてしまう。
口から出る言葉は滑るばかり。
発する言葉はすべておかしな滑り方をする。が、だからといって黙ることもできない。気まずさゆえに。沈黙を恐れ、次から次へと何かを発するように努力してしまうのだが、それが余計に悲劇を引き起こしている。
「……すみません、正直に申しますと少し驚いてしまったのです」
ようやく少し落ち着いたラベスを見て、ネイベリルは少しばかり笑みを滲ませた。
くすくす、と、小さな笑い声を漏らす。
「ラベスさん、意外と可愛らしい方なのですね」
思わぬ展開で狼狽え情けないところを晒してしまったラベスだが、結果的にはそれがイメージ向上に繋がったのだった。
◆終わり◆