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人魚への転生

本文中にもありますが、一応前回をざっくり説明。

何か物足りない日々を過ごす主人公、カイトはシャワーを浴びていると、どこからか歌声が聞こえてきて意識を失ってしまった。

「うーん……」

「おじちゃん!シーカが!シーカの目が覚めたよ!」

 シーカ?誰だよそれ?

 首だけを動かし声のする方を向くと、半裸の幼い子どもが俺のことを心配そうに見つめている。


 とても長い間眠っていたような気がする。そのせいか頭がぼんやりしているし、足もしびれてうまく動かせない……


 そこでうんしょと体を起こして自分の下半身を見ると、腰から下が魚のようになっていて鱗に覆われ泳ぐための尾びれがあった。


「うわっ!!」


 思わず声が出てしまう。なんだ、どうなってるんだ!?

 そのショックで思い出した。


(俺は家に帰って、服脱いで、シャワーを浴びてたら女の人の歌声が聴こえてきて……眠くなって……じゃあこれは夢か?)


 と、この信じられない状況について考えていたら、少し老けている顔だが半裸の体格のよさげな()()()が急いだ様子でやってきた。そして彼がこっちに来るのを見て気付いた。男の人じゃない。


 男の()()だ。


 さっきからじっと俺のことを見ている子の下半身もおそるおそる見てみると、俺やあの男の人魚とつくりは一緒だが小さめの()()がついていた。


 あたりを見渡してみると今まで気が付かなかったが俺が寝ている所は柔らかい砂の上で、周りは水、水、水、つまり多分海だ。


 本当に夢じゃないのか?腕をつねってみると、痛い。

 まさか俺は本当に人魚になってしまったのか!?


「おお!シーカ!気づいたか!」

「でもおじちゃん、シーカなんかへんだよ」


 男人魚がこちらへ向かってくるのを見て、子ども人魚が訝しげに言った。


「魔法に撃たれて頭でもおかしくなったか?」

「ちがうよ!そんなんじゃなくてなんかへんなの!それにほら見て!」


 そう言って子ども人魚は俺の腰のあたりを指差すので、俺は男人魚と一緒になって自分の腰を見てみると、海の色と同じきれいな水色のうろこに中に確かにひとつだけ、濃紺の色が違ううろこが混じっていた。


「こ、これは……」

「おじちゃんどうかしたの?」


 そういってうなったきり、男人魚は黙ってしまい三人魚の間に気まずい空気が流れた。

 なにも言えない俺。なにも言わない男。二人を黙って見つめる子ども。

 そんな時間がしばらく続き、ふいに男人魚は言った。


「あんた、名前はなんていうんだ」


 俺は驚き、思わず目を見開いた。まさか、知っているのだろうか。俺がこの人たちの呼ぶシーカという人魚ではないということを。


 俺のその反応を見て、男人魚は疑問が確信に変わったようでなんともいえない、悲しそうな顔をした。


「おじちゃん?なにいってるの?」

「……ライラはあっちで遊んでなさい」

「……わかった」


 幼い人魚は不服そうな顔をしつつも遠くへ泳いでいった。

 このやりとりを聞くに、どうやら二人きりでなければ話せない内容のようだ。しばしの沈黙の後、彼はこう切り出した。


「あんた、異界からきたんだろ?」

「!?」


 やはり俺がシーカという人魚ではないことは既にわかっているようだ。それに異界ってなんだ。ここは地球じゃないのか。


「俺は地球というところで育ったんですけど、ここは違うんですか?」

「ああ、そうだ。ここはあんたの育った世界とは違う異世界だ」


 そう彼はよどみなく言い切った。


 嘘だ。信じられない。


 じゃあなんだ?俺は異世界の知らない人魚に乗り移ってしまったのか?そんなことってあるのか。

 だとしたら、地球の俺の体は?この体の持ち主のほうはどうなってるんだ?意味がわからないことが多すぎて疑問が次から次へと湧き出てくる。


「いいたいことありげな顔だな。だが、俺もそんなに多くを知っているわけじゃない。今からセイレーン様の所に案内する。セイレーン様なら全て知っているだろう」


 疑いの気持ちが顔に出ていたのか、思っていることを見透かされてしまった。彼はそう言うと、ついてこいと言って遠くにぼんやりと見える大きな岩のある方へと泳ぎだした。


 俺はなにがなんだかさっぱりわからなかったがそのセイレーン様って人に会えば、この状況を少しでも理解できるかもしれないと思って彼の後を追って泳ぐと、図らずも自分が本当に人魚になったことを肌で実感した。


 人間だったときに海で足ヒレをつけて泳いで、素足とは違って楽だなあと思ったことはあるが、人魚の泳ぐことに適した下半身はその楽さを軽々と凌駕するものだった。


 水の抵抗を受けづらいよう生え揃ったウロコ、人間と違い一つにまとまっていて力強く水を蹴る下半身、そしてガッチリと水をつかんで、ブンと振って水をかくだけで一気に進む尾びれ。

 それらのおかげで、人間だった時とはまるで比べ物にならない程すいすいと泳げて、こんな状況なのに少し楽しくなった。


 自分の体の変化に驚いてはしゃいでいるうちに、いつの間にかあんなに遠くに見えた大岩についてしまった。人魚の泳ぎの速さたるや、おそるべしだ。


 男人魚がこちらを振り返って言った。


「さあ、ついたぞ。ここがセイレーン様の住みかだ。セイレーン様はここの一番奥にいらっしゃる。住みかの中に分かれ道はないから、迷うことはないはずだ。あんたが聞きたいことをなんでも聞いてくるといい」

「案内ありがとうございました」


 俺はそう言い大岩の方を向いた。大岩は近くで見ると、2つの巨大な丸っこい岩が支え合っていて、その支え合っている間に人魚が1人余裕で通れるぐらいのすき間が空いている。

 岩肌はとてもなめらかで、もしもぶつかってもケガをすることはなさそうだ。


 すき間を外から覗いてみると、手前の方は視認できるが、奥の方は暗くなっていて見通すことができなかった。ものすごく奥行きがあるふうには見えないのに、一体どうなっているんだろう。


 胸のうちに抱えた大量の疑問を解決すべく、俺はゆっくりと岩のすき間に潜り込んだ。


 大岩の中は外とは違い波の流れが全くなく、静まりかえっていた。ここだけまるで別世界のようだ。


「あーーー」


 あまりに静かなのでちょっと怖くなって声を出してみたが、俺の声は水に溶け込んでいってこの空間に響くことはなかった。水の中だから当たり前か。


 気を取り直して、俺はゆっくりと水をかいて奥へと進む。

 だが、1分とたたずに行き止まりにあたった。

 この穴をのぞいた時、奥のほうが見えなかったのはこういうことか。奥が見えないんじゃなくそもそも行き止まりだったようだ。


 しかしどういうことだ?男人魚は分かれ道はないので迷うことはないと言っていたが。

 周囲を見渡してみても、右にも左にももちろん足元――今はヒレ元――にも通れそうな通路らしきものはない。


 まさかな……と思い上を見ると人魚が通れそうな穴がこっちですよと丸く空いていた。

 人間が住むために大地に作った建造物ではこうはいかないだろう。まさに水中ならではの住居だ。


 ひとしきり感心したのち、俺は上方向へと泳ぎだした。相変わらず水の流れがないのでとても泳ぎやすい。

 ところで水の流れがなかったら空気と一緒でここの水も淀むんじゃないかと思うが、別に臭くない。どういう仕組みなんだろう。


「イテっ」


 考え事をしながら泳いでいたらいつの間にか天井についてしまったようで、頭をぶつけてしまった。


 今度は目の前に道がある。ただ、今までとは違い直線ではなく、上方向にゆるやかにあがるような曲線だ。とりあえず進んでみる。

 少し進むと、道は下方向へと曲がり始めた。そろそろゴールだろうか。これ以上ぐるぐると曲がりくねった道を進むのは勘弁だ。


 そう思っていると、道の奥から光が差し込んできた。本当にゴールのようだ。

 この先にセイレーン様とやらがいるのだろう。人魚族の偉いっぽい人と会うと思うとドキドキしてきた。

 セイレーンというからには性別は女だろうがどんな見た目をしているんだろう。もしかしてセイレーン様も半裸だったりするのか?顔はキレイなんだろうか、あるいは案外ブサイクだったりするかもしれない。


 そんなことを考えているうちにも少しずつ差してくる光は強くなっている。ついに穴を抜けると、そこには広々とした空間が広がっていた。そしてちょうど俺の真下には髪の長い人魚がいて、この人がセイレーン様だと確信した。彼女は部屋の中央で手を組んで何かを祈るポーズをしていて、その姿はとても神秘的だった。

 そしてやっぱり半裸だった、けれどちゃんと胸の周りには布を巻いていて少し安心したような、残念なような。


 とりあえず彼女の背後に泳いで降りてみたが、とても熱心に祈っているので声をかけづらく、どうすればいいのかわからなくて困ってしまっておろおろしていると、彼女の長い髪がさらりと揺れて、体がこちらを向いた。


「ようこそ、あなたが異界から来たという方ですね」

「こ、こんにちはセイレーン様」

「はい、こんにちは」


 よかった。ちゃんと普通に話せる人のようだ。問答無用で水中労働とかさせられたらどうしようかと思っていたところだ。


 セイレーン様の声はこの世のものとは思えないほど澄んでいて、風邪の時に飲むスポーツドリンクのように体全身にしみわたってくる。それに加えて、彼女の顔は美しく整っていてこの女性の顔が様々な組み合わせの中での正解です、と言わんばかりの完成度だ。

 その現実離れした存在に面食らって、あいさつをうっかりくちごもってしまった。


 だけど、彼女の声を聞いて俺はこの世界に来た時のことを思い出して直感し、確信したので勇気を出して質問した。今度はかまないように慎重に。


「俺をこの世界に呼んだのはあなたですよね?」

どうだったでしょうか?また読みたいと思ったらブックマークを、面白いと思ったら評価やレビューをして頂けると本当に嬉しいです。ここをこうしたほうがいいんじゃないかとか、この部分の表現は変じゃないか、などのご指摘も感想で書いて頂ければ参考にさせて頂きたいと思っています。もちろん、面白い!などのご指摘以外の感想もお待ちしています。

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