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音楽のない世界  作者: なか たつとし
7/11

音楽のない世界#7

 夫が車を置いて、家に戻ってくる。私と、裕太君を見て安心する。

 夕食を作り、裕太君と共に食事をする。新婚が、いきなり子持ちになってしまった。果たしてどうしようか。

 まず、裕太君はどこから来たのか、そして、彼の家家族はいったい何者なのだろうか。ピアノも、音楽という単語も知らないという。

 そして、彼のひいおじいさんと、ひいおばあさんは一体どのような人なのか、『音楽のない世界』で唯一音楽を知っている者だ。

 おそらく、彼は本当に音楽のない世界からきて、間違いないだろう。ピアノを引き取りに来た業者もそんなものは知らないと答えていた。処分するマニュアルがなければ話は別だが。

 いったいどこから来たのだろうか。と私は思う。

 裕太君を前に、夫にここまでのいきさつを話す。彼はピアノが弾けること、『音楽のない世界』からきているようで、彼の家族のこと、いじめられていること。すべてを話した。

「すごいじゃないか、ピアノが弾けるのか。しかし、その特技を誰も認めてくれないとは。一体何なのだろう。本当であれば、君は、もっと評価されていいはずなのに。」

 そういえば、自己紹介をしていなかったと思い、夫は言った。

「伊藤耕治です。よろしく。」

「私もしていなかったね。音楽の先生の、伊藤綾子です。斉藤裕太君だよね。」

 私が、そういった。彼は一瞬驚いている。

「はい、よろしくお願いいします。」

「どうしたの。驚いているけど。」

私が彼に聞く。

「あの、ひいおばあちゃんと同じ名前だったから。ひいおじいちゃんの名前も思い出せないけれど、そんなような名前だったから。」

「そうなんだ、それは嬉しいな。ひいおばあちゃんはその、ピアノが弾ける。つまり、黒くて大きなものが使える、ひいおばあちゃんかな。」

「そう。」

 裕太君が、答えた。

彼の家は、おそらく4世帯がともに過ごしている家なのだろう。誰かが、結婚して名字が変わったけれど、一緒に住んでいるのだ。今時珍しいな。と私は思う。


食事が食べ終わると、裕太君は宿題をやらないと、と思ったのだろう、ランドセルを取り出した。

「宿題?」

彼はうなずく。

 彼はランドセルを確認する。そう言えば彼の持ちものを確認していなかった。

 何か手がかりがあるのかもしれない、と思い、次の瞬間彼の持ちものを見て、唖然とする。

 

 そこには、ノートパソコン(ノートPC)があった。

 裕太君はキーボードを打ち、タッチ式の画面を触りながら宿題を始めているようだった。

「学校に、そんなものを持って来てはいけないんだよ、何で持っているの。」

私は、即座に裕太君に言った。

「えっそうなの。みんな持ってきているよ、これは僕のだけれど、自分のパソコンを持っていない人は、学校から配られるよ。」

私は、変だと思う。確かに、プログラミングの授業や、情報の授業は存在するが、生徒には、自分のノートPCは持って来てはいけないはずだ。すべて、学校の備え付けのPCで、そのような授業を行うようにしている。

 むしろ、学校には携帯電話を持って来てはいけないルールもある。情報化社会ではあるが、学校は授業をするための場所なので、授業と関係のないものは持ってこないルールが存在する。

 

 しかし、裕太君のパソコンの画面を見ると、明らかに彼は勉強していた。算数のようだ、平均の出し方について、宿題をやっているようだ。


 この状況を夫は見て私に行った。

「こんな時代になったのか。学校も。」

「まだ、そんな時代じゃない。生徒はこんなの持って来てはいけないの。」

私は言ったが、裕太君はその意見に反論しようとしていた。

「そうなんだ、でも、このパソコンが教科書なので、取り上げられると勉強はできないなあ。」

 そう言いながら、彼は黙々と自分のPCで宿題をしていく。算数の平均テーマで、問題を解いているようだ。

 いったいなぜなのだろう、とても違和感がある。

「ねえ、裕太君。終わったら、そのパソコン、私たちに見せてくれる?」

「いいよ。」

 私はふと思いついたことを言ってみた。


 夫と私は、夕食の食器の片づけをして、お風呂を沸かした。その間に裕太君は、乱打セルから取り出した、奇妙なPCで宿題をしているようだった。


 諸々の片づけが終わったと同時に、裕太君が、

「終わったよ。はいどうぞ。」

 と言いながら、彼のPCを見せてくれた。私と夫は同じように、夕食を共にした、リビングのテーブルの椅子に座り、裕太君のパソコンを見ることにした。


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