表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音楽のない世界  作者: なか たつとし
2/11

音楽のない世界#2

 保健室は職員室の隣にある。斉藤君を保健室へ連れて行き、養護の先生に、頭のこぶの処置を任せて、私は、職員室へ行く。

 6年2組の担任の先生は、大橋先生だ。体育主任で、少しカッコいい。やせ形ではあるが、足のラインには筋肉がしっかりついており、陸上競技や、水泳の選手に居そうな体系だ。事実、大橋先生も、高校、大学と水泳の平泳ぎで国体に出ている。ただ、平泳ぎには当時、世界新記録を樹立し、その後、オリンピックで金メダルを取っていた選手が存在しており、

大橋先生は、その選手と同期で、全国大会で何度も対戦したが、その選手に勝てなかったという。

 つまり、そのようないじめがクラス内であれば、ビシッと指導してくれそうだが、見落としているのだろうか。

朝礼でも低学年の生徒から、「気を付け」や「礼」、「前へならえ」など、厳しく号令をかけていることから、怖そうな先生と言われているのを聞いたことがあるのに。

私は、大橋先生に裕太君の一件を話した。

「斉藤君・・・。伊藤先生、斉藤君と黒田君と言いましたよね。」

大橋先生も難しい顔をした。私も大橋先生と同じ表情をさっきまでしていた。

「そんな名前の生徒はうちにはいないし、伊藤先生も音楽の授業でかかわっているから、知ってるでしょう。」

大橋先生の口調が、少し厳しめな言い方に変わっている。生徒の顔と名前を覚えるのは教師の基本と言いたいのだろう。

「その、斉藤君という子が、6年2組と言っているので、聞いてみたのですが。私も、6年2組にそんな子がいた記憶もないですし。」

大橋先生の厳しい顔も解けていく。

「ああ、そうなの。とりあえず保健室に行ってみるか。」


 大橋先生を連れて保健室へと向かった。保健室の椅子に斉藤君は座っている、手には氷が大量に入った袋をもって、その袋を頭に当てて、こぶを冷やしている。

「斉藤君、6年2組の大橋先生だけど。」

 私が言った。彼の表情がこわばる。同時に大橋先生の表情も難しくなる。

「やはりうちのクラスの生徒ではないですね。伊藤先生。」

大橋先生が言った。斉藤君も同時に行った・

「僕の先生は、内田先生という女の先生だけど。」

内田・・・・。私と、大橋先生、そして、養護の先生も顔をしかめる。

「内田先生って。」

「この学校に内田という苗字の先生はいないよね。」

そんな会話になる。

「斉藤君、斉藤君の学校はどこですか。別の学校から来たのかな。」

大橋先生が、質問する。その可能性しかない。と私たちも思う。

「南区第三小学校です。」

斉藤君の答えに、私たちは驚く。

南区第三小学校。ここだ。

「斉藤君、階段から突き飛ばされたこと、お母さんに電話したいから、お母さんの連絡先、教えて。」

 母親の携帯番号らしき電話番号を斉藤君は言った。私は、メモする。数字だから間違う理由はない・

「伊藤先生、メモしたよね。電話してきて。僕は、とりあえず、校長先生と教頭背院生に連絡するから。」

 私は、そわそわしながら、職員室へ急いだ。

 職員室の電話で、その電話番号にかける。電話番号の数字も間違いなく合致している。

「お掛けになった電話番号は現在使わされておりません。」

そんなメッセージ音声が流れた。

 私は首をかしげる。もう一度実施する。しかし、何度やっても結果は同じだった。

 私は、自分の机に戻った。バックからスマホを取り出す。自分のスマホからなら。そう思って、電話の数字を押した。しかし、

「お掛けになった電話番号は現在使わされておりません。」

結果は同じだった。

「Aya What’s wrong?」

隣の席から、声がする。

「アヤ、ドウカシタノ。」

 英語専科でALT指導のリンダがそこにはいた。リンダはブロンドな髪に、青い目。典型的な欧米の女性の顔をしている。年も私と同い年で、仲よくしてもらっている。

 イギリス、マンチェスターの出身。強いサッカーチームが地元にあるからだろうか。サッカー観戦が好きで、日本に来てもJリーグの観戦によく足を運んでおり、ユニフォームも何着か持っている。

 斉藤君のことを彼女にも話す。

「ワタシモ、ホケンシツイク」

 そういって、彼女も保健室についてきた。


 保健室には相変わらず、斉藤君が椅子に座って、手で氷を当てながら頭を冷やしている。大橋先生はまだなのか、保健の先生と、斉藤君の二人だけだ。私とリンダは様子をうかがう。

「斉藤君、電話番号違うみたいなんだけど、本当にこれであってる。」

「合ってる。」

電話番号のメモを見せたが、それでもあっているという。

それと同時に不思議そうな表情をした。

その表情は、私ではなくリンダに向けられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ