第七十四話 魔王対デリラ④ストライキ再び
デリラが怒りながら部屋を飛び出して僅か一時間後。
エ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮全体に、無期限ストライキ宣言が出された。
ストライキ宣言を出したのは、全階層のモンスター代表の連名による血判状の羊皮紙で確認済みである。
迷宮内の全施設から、冒険者や墓荒らし、第一階層ショッピング・モールと第二階層ファンシー・ゾーンからは来場者全てが追い出されるように地上へ溢れかえった。
宿泊施設までもが、客を丁重に地上部分へ送りだしてしまったのだから、どれだけ徹底しているかが分かると言うものだ。
地上部分には、既に、人間たちの街も近くに出来ており、地下大墳墓迷宮周辺にも、宿泊施設は稼働済みで良かった。
全ての来場者は、街や宿泊施設へ移動して、大きな混乱は無かったようだ。
あとで、なんと説明すれば良いのであろうか。
◇
それから、三日間。
吾輩は解決の糸口すら見つからず、一人で鬱々と過ごしていた。
今更、デリラやカーミラに尋ねるのも、魔王としてのプライドが許さぬのだ。
だから、最初から今回のストライキ騒動の一連の出来事を、吾輩なりに整理しながら思い返してみた。
最初に、不死軍団がストライキを始めたこと。
不満の内容は、『待遇の改善』であったっけ。
『死者としての尊厳や美しさを取り戻すこと』が解決へと繋がったな。
二番目は、スライム部隊であった。
レベルが上がり、知性が高くなった彼らは『自分たちに近い知的生物を生きたまま摂取することへの禁忌・嫌悪』を訴えた。
そこで、吾輩は『知能の高いものを無理に生きたまま摂取する必要性は無い』と許可を出したっけ。
三番目は、ゴーレム部隊。
彼らは、無機物故の命に対する崇敬の念を示しておったっけ。
『無駄に命を奪う必要は無い。むしろ、無垢な者やあまり抵抗しなかった者は助けて構わぬ』と命じた結果、彼らは喜んで従ったのであったな。
四番目は、微妙だが、カーミラの配下たちが中心であった。
ダークエルフの闇神官たちは、『好きなものを召喚したい』。結果ダンジョン内にファンシー空間が爆誕してしまったのであるな。
吸血鬼どもの願いは、呆れたものであったが『陽光の下を歩いてみたい』と、簡単ではあったが、吸血鬼故の苦悩の結果であったのであろうな。
そして、女勇者クリスの来訪とアホな男勇者一行の暴挙。
まさか、それが呼び水となって、ダンサツとダンメツの二人まで襲撃してくるとは、予想だにしておらぬから、心胆寒からしめた出来事であったな。ハァー。
『デリラ・レポート』を基に、新たなダンジョン運営計画を策定したら、今度は闇竜人族ドアーク、巨大オーガ種ガーグの脳筋コンビが、ストライキへ。
あいつらは、純粋に『暴れたい!』だけだったから、なんとか説得できたが、今後も火種が燻るやもしれぬな。
そして、今回のデリラ・ショックである。
これは吾輩命名であるが、デリラがストライキを決行した結果、全地下大墳墓迷宮内が、活動停止状態となってしまったのである。
それぞれの階層で各々が好き勝手にやってるらしいが、吾輩の元へは情報が遮断されておる。
これには、心底困った。




