第六十一話 デリラ・レポート①
「デリラ・レポート」
ダンサツこと、人間の勇者にして最終兵器の異名を持つケンタロウとダンメツことユーリ・アリア二名の襲撃を受けての一考察。
我が栄光あるエ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮には、100万を超える魔物・魔獣がおり、歴代でも強さと指揮能力に定評があるゲオルグ様が魔王であらせられる。
この現状でも、十分に人族の社会を支配し、魔族に平和を齎せると、誰もが信じ、悲願達成に向けて、邁進するばかりと思われた過日。
だが、現実は非情にして、非道であった。
我等は、己の持つ戦力を過信しすぎていた。
驕りであり、傲岸不遜であったと反省を促さなければならない。
ゲオルグ様の第三形態。
この最終奥義さえ用いれば、かのダンサツ・ダンメツの二人にも十二分に対抗し得ると考えていた。
だが、この考えもまた、激甘で過った考えであった。
今回、ゲオルグ様の執務兼居住区域である第九階層まで、ほとんど素通り同然で、ダンサツ・ダンメツの二人に侵入を許してしまったのは、我等配下一同の恥である。
無論、ダンサツ・ダンメツの二人に限ったことではないが、人族から送り込まれる勇者
に対して、今後もダンジョンは万全の備えをしなければならない。
だが現状では、我等魔族と人族は、いつまで経っても永劫に問題を解決不可能となってしまうやもしれない。
魔族と人族の間には、永年に亘り、差別と敵意、他方を虐げ続けると言う問題がある。
我等魔族としては、人族を支配し、魔族との差別や敵対関係を解決したいという悲願がある。
一方の人族はと言えば、我等魔族から支配されることを嫌悪している。
平行線である。このままではいつまで経っても、問題は解決されないであろう。
そこで、私、デリラはこの答えの出ない問題を私なりに考えてみる。
魔族に支配されたくない人族。
人族を支配したい魔族。
そもそもが、この根本前提から、パラダイムシフトを図る必要性があるのではないだろうか。
何故、人族を支配する必要があるのか。
と問われれば、「人族が、魔族を差別し、攻撃するからである」との答えが出て来るであろう。
これは、全ての魔族が抱える根本的な問題である。
だが、もう一度、この問題の本質を捉え直しては、どうだろうか。
問題の核心部分は、「差別」と「攻撃」この二つではあるまいか?
こう、仮定した時、問題は3つに分類可能になる。
1、人間を支配したい(手段であり目的ではない)
2、人間から差別されたくない(目的1)
3、人間から攻撃されたくない(目的2)
つまり、支配は手段であって、目的ではなくとも良いのである。
むしろ、目的1「差別」と目的2「攻撃」この二つこそが、最重要目的であることが証明される。
そこで、私から魔王様への提言となる。
目的1「人間からの差別を無くす」
目的2「人間からの攻撃を無くす」
この二つを目標として、新たなエ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮の運営計画を立て直すことを提言することとなる。
この新たな提言に基づいて、運営計画そのものを見直すならば、「戦争による支配」という手段は、必ずしも必要とはならず、むしろ「平和的な目的達成」が見込めるものと愚考する。




