第五十八話 魔王対絶対勇者⑦魔王の問いかけ
「コホン。そろそろ、吾輩からも一つ聞いて良いだろうか?」
「む? なんだ、言ってみろ。」
「構わないわ。どうぞ。」
二人とも同意してくれている。
これだけは、どうしても聞かずにはおれまい。
「第二階層までの道のりで、このダンジョンが他のは圧倒的に異なる姿を目にしてきたであろう。それならば、何故我が配下に手を掛けたのであるか!?」
思わずそう叫ばずにはおられなかったのである。
二人がクリスとやりとりしている間に、なんとか、治癒魔法の効果を重ねて、起き上がれるくらいまでは回復した。
「ああ。その件に関しては、こちらの落ち度・・・、とも言えんな。
所詮、魔物と勇者だ。
天敵同士なのだからな。
いつ何時交戦しても不思議ではないだろう。」
「それは、そうだが・・・。」
「だが、ゴールディ達が語った言葉は、本当では無かった。
だから、誤った情報に基づいて攻撃したことに対しては謝罪しよう。
だが、こちらも手加減はしてある。
お前の配下どもは、間もなく目を覚ますだろう。」
「なに!?
それは、本当なのであるか!?」
「ええ。私たちだって、むやみやたらと攻撃してる訳じゃないのよ。
ここの二階までの道のりは、とても賑やかで楽しそうでしたもの。
こんなダンジョンは初めて見たわ。
是非、そんなダンジョンの魔王には、事情も聞かせて欲しかったのよ?」
意外と言えば意外であった。
ダンサツ・ダンメツの二人と言えば、我々魔王にとては、絶対に出会ってはいけない存在であり、死と同義語と呼ばれる存在であった。
そんな二人が、配下の者たちの命を奪わないということそのものが、天変地異レベルで驚愕であった。
また、魔王である吾輩が営んでいる商業施設へは一切被害を出さずに、ここまで来たこと。
吾輩との交戦中も、全身の骨は砕かれたが、命は奪っていないこと。
本当に、驚きの連続であった。
「では、何故お前たちは、他のダンジョンを滅ぼし続けているのであるか?」
当然と言えば、当然の疑問である。
「それは、お前たち魔族や魔王が、戦と血に酔い、我々人間を虐げようとするからに決まっているだろう?」
「それは違うのである!
我々魔族を差別し、虐げ続けているのは、お前たち人間たちなのである!!」
両者ともに頭に血が昇るような気がしたが、冷静で美しい声が議論を妨げた。
「その議論は、並行線で終わることが多い議論の一つよ。」
「確かに。私たち人間も、魔族も、お互いがお互いを殺し過ぎていると私も思います。」
ダンメツとクリスであった。
二人の言い分は最もである。
確かに、その通りであろう。
人族と魔族。
互いに殺し合い過ぎているのだ。
だからこそ、吾輩は、魔族による支配によって、平和な世界を作りたいのだ。
だが、ダンサツとダンメツの二人が居るだけでも、吾輩の覇業が如何に難しく、困難に満ちているかを思い知らされた。




