第五十二話 魔王対絶対勇者①
シャレにならん緊急事態が起こった。
クリスが、吾輩の地下大墳墓迷宮から去って、数日後のことであった。
「お逃げください!
魔王様っ!!」
「待て待て!
突然どうしたというのだ!?
デリラよ!」
副官のデリラが、この世の終わりだとでも言いたげな表情で、吾輩の執務室へ転がり込んで来た。
「そ、それが!!」
「うん?」
吾輩の部屋にも、緊急事態に備えて、幾つかのダンジョン内の様子が、モニターに映し出されている。
「っ!?」
「そうですっ!!」
吾輩がデリラと二人で覗き込んだ先には、男女二人が、まるで暴風の様な勢いで次々と吾輩かたちを文字通り駆逐していた。
ダンジョン内の警備のために配置されている魔物どもが、次から次へと瞬殺されて行く。
監視していたドワーフや魔族たちが驚愕の声を上げる。
「ウソだろ・・・!?」
「信じられんっ!!」
「ワシの・・・ワシの渾身の作の超巨大ゴーレムがぁ・・・・。
まさか、振りかぶった巨大ゴーレムのパンチを片手で受け止めるとは・・・。
片手ゴーレム・・・。」
あ、例の100m級ゴーレム作者は、お前であったか!
クソの役にも立たんデカブツゴーレム製作者のドワーフの一人が余程ショックだったのか、くず折れた。
グリュフォンだろうがマンティコア、リザードマンやゴーレム集団など、我がエ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮が誇る精鋭の魔物どもが叩き伏せられ、蹴飛ばされ、デコピン一撃で無力化される姿は、正に悪夢そのものであった。
破竹の勢いとは、まさにこのことであろう。
デリラが急を告げた時に、第三階層から始まった暴風のような快進撃は、途中で阻止すべく配置された魔物たちを次から次へと一撃で無効化される始末だ。
吾輩たちがモニターを覗き込んだ時には、既に、第六階層まで、無人の野を行くが如き勢いで踏破されてしまった。
「・・・悪夢だ。」
「ええ。魔王様。お覚悟されるための時間稼ぎだけでもと思い、直上第八階層へ四天王を配置しておりますが・・・。」
幸い、地上部分と第二階層までの商業用娯楽施設は、破壊されず、無抵抗だったのか、従業員として配置されていた魔物たちも無事らしい。
が、そこから下は壊滅的である。
「あ。四天王が対峙していますわ!」
「ウム。彼奴等に期待しようではないか!」
モニターの向こうでは、四天王が勢ぞろいして、大広間の様な場所で二人の人間と相対している。




