第四十八話 勇者到来⑥クリスの過去
クリスがこの町へ冒険しながらやって来て、最初に冒険者ギルドの受付で説明を受けた時、近くに居たこいつらが声を掛けて来たそうだ。
それから、強引にクリスの仲間を気取っては、魔物狩りや依頼をこなしていたと。
そんなある日、クリスに、先日このダンジョンへ攻撃しに来て、暴れまわったと言う自慢話を聞かせた。
その時、クリスは自慢話の場所が、自分の記憶の中にあるものと重なることに気づいたそうだ。
「私、幼いころにですが、この場所へ来たことがあるようなんです。
と言っても、幼すぎて、実際にはあまり覚えてはいない、というのが本当のところなのですが。」
「ほう?それでは、何故この場所へ来たことがあると?」
「ええ。それなのですが、不思議な記憶があるのです。
私の心の原風景とでも言うのでしょうか・・・。
とっても不思議な記憶です。」
「それは?」
「私が未だ、幼く、父母に手を繋がれていなければいけないような年齢だったようです・・・。」
そう言って、クリスが語ってくれた『心の中の原風景』とは、深い深い森の中から始まる。
おそらくは2~3歳くらいと思われるクリスが、父母と逸れてしまったのか、原因は不明だが、森の中を彷徨っていた。
泣き疲れ、足も痛く、時々木のうろにうずくまっては、声を上げて泣き、獣の声が聞こえると、恐怖ですくみ上って黙り込む。
そんなことを続けながらも、あてもなくフラフラと森の更に奥へと彷徨う。
すると、いつの間にか目の前に巨大な地下迷宮らしき入り口が表れた。
中は薄暗く、誰も居ない巨大な洞窟のようにも思えた。
恐る恐る足を踏み入れてみたが、やはり無人のようで、人はおろか、獣一匹姿を見せようとはしない。
明らかに、周囲に獣らしき気配はするのに、出てこない。
幼いクリスには、それが何を意味しているのかが分からず、うずくまって泣き出してしまった。
すると、いつの間にか巨大なゴーレムが彼女を見下ろしてじっとしているではないか。
最初は驚き、悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、泣き疲れ、足も痛くて痛くて、身をよじるばかりで、逃げ出すことさえできなかった。
そんなクリスを、ゴーレムはヒョイっと持ち上げ、肩に乗せてくれた。
思わずゴーレムの頭に小さな両腕を巻き付け、落ちないようにと必死でしがみついていると、洞窟の外だった。
どうやら、このゴーレムには、目をパチクリしているクリスを害するつもりはないらしいと思ったら、体力が限界を迎えてしまった。
気が付けば、森のはずれどころか、人が住む集落の近くで眠りこけているところを発見されたらしい。




