第四十四話 勇者到来②女勇者クリス
デリラの作戦は、即座に吾輩と同じであると嬉しくも思えた。
阿吽の呼吸というヤツであろう。
「魔王様、こちらでございます。」
デリラが先行して、地上施設の従業員用通用口から、三階にある応接室の一つへ案内してくれた。
『第三応接室』と流れるような見事な筆記体で書かれたその部屋は、荒事専門の応対をするために、対魔法・耐衝撃などのコーティングを幾重にも施された部屋だ。
調度品も、怪しまれない程度には、高価な物が飾ってあるが、全て緻密なイミテーションや魔法によるホログラムである。
イミテーションには、本物の数十倍以上もの耐久性や防具代わりに使える処理が施してある。
やはり、人間相手には警戒心も厳重にしなければ、我等魔族は、いつ何時因縁を吹っ掛けられたり、命を狙われるか分からないからだ。
室内には、デリラの告げた通り一人の人物が大人しく座っていた。
だが、この人物は。
「クリスと申します。魔王陛下。」
「我が名は、ゲオルグ・イング・ボルグである。
今代の魔王である。」
「存じ上げております。陛下。」
「お主は、人族の勇者であろう?
吾輩に陛下は要らぬ。ゲオルグと呼ぶことを許す。」
「それは、恐れ多いことでございます。
では、他の方々に習い、魔王様では、いかがでございましょう?」
「フム。人族にしては珍しく、礼儀を弁えておるようだな。
好きに呼ぶことを許す。」
「ありがたき幸せ。」
コイツ。本当に“勇者”なのか?
人間族は、魔族に対して、強烈な敵意や害意を向けて来る者が、大多数だ。
スラリと長身に見える体躯をしてはいるが、筋肉質なゴリマッチョではない。
むしろ、金髪碧眼でエルフと見間違える程の美貌と、均整の取れた身体つきだが、胸は薄い。
勇者としてのフルプレート・アーマーは身に着けてはいるものの、戦士というよりも、知的な賢者に近いような知性と品性を漂わせている。
彼女が腰を掛けていたソファーには、先日見かけた怪しげな人物が身に付けていたのと同じローブが置かれていた。
「それで、吾輩に会いたいとの事であったが、如何なる要件か?」
「ハイ。実は、私、ある人物に是非ともお目に掛かりたいのです。
その人物とは、この大墳墓迷宮に関わりの深い人物でございます。
それで、先日探しに来たのですが、なかなか見当たらず・・・。」
「ほう。それは、どのような人物かな。」
女勇者が会いに来る人物って、誰だよ。
ある意味すっげー迷惑だよな。
そんな人物なんて居たっけか?
ローブは変装用といいますか、身を隠すつもりで全身覆っていたのでしょう。




