第四十三話 勇者到来①
「魔王様。大変でございます!」
「今度はどうしたというのだ?」
デリラが慌ただしく執務室のドアをノックもせずに開いてきた。
書類の束に埋もれた吾輩が、チロっと視線を向けると、そのままの勢いで吾輩の顔を両腕でガシっと掴んで来たから驚いた。
「勇者でございます! 魔王様っ!!」
「なにっ!?」
第一級戦闘配備が必要な案件じゃないか!
吾輩も書類なんぞに埋もれている場合じゃない。
すぐさま最前線へ行かなければならん。
迷宮へ向かおうとする吾輩に、デリラが追い付きながら、追加情報を伝えてくる。
「それが、今回の勇者は少々その・・・・、おかしいのでございます。魔王様。」
「おかしい、とは?」
「ハイ。それが、魔王様にお会いしてみたい、と。
正面から堂々と、一人でやって来たのです。」
「なん、だと!?」
勇者とは、本来であれば、無遠慮にズカズカと迷宮内へ侵入してきて、あまつさえ、好き勝手に宝箱や施錠済みの部屋を開け、勝手に財宝やアイテムを漁り、盗んで行く連中である。
しかも、コイツらパーティーとか言って、魔王一人や魔物相手に複数人でボコボコにするという、非常に卑怯で非常識な連中なのである。
一度で良いから、ボコられる側の気持ちになってみろと、説教したくなるわ。
それが、正面から堂々と、それも、一人でやってくるなどと。
在り得ない。
「それ・・・・、本当に“勇者”なのか?」
「はぁ、そう言われると、自信が無くなるのですが・・・・。
確かに本人は『勇者である』と。」
フム。
吾輩の知る卑怯卑劣で愚劣極まりない人間の勇者とは、大分異なる存在のようだな。
それとも、吾輩が知らないだけで、人間の勇者にもマシな常識人が居るのかもしれない。
「面白い、その“勇者”とやらに会ってみようじゃないか。」
「畏まりました。
そう仰ると思い、地上施設の応接室の一つへ招き入れてございます。」
「流石はデリラである。」
「勿体なきお言葉。」
迷宮内へ侵入を許してしまえば、暴れられても困る。
そこで、地上施設であれば、多少壊れてしまっても、迷宮内へは被害が出ない。
逆に、仮にも人間の勇者を名乗る者が、魔族が運営しているからという理由とは言え、こちらから攻撃したわけでも無いのに、一方的に破壊行為を行ったりでもすれば、そのことを喧伝すればよい。
魔王を書いてるので、やはり勇者も登場させてみましょうかと。




