第二十九話 カーミラと不死軍団①
「魔王様ぁ、魔王様ぁー!」
「んー、なんだ?」
「先程からお呼びしてますのにぃ!
何ですの? その気の抜けた返事は!!」
「あー、あまりにも連続してストライキ連中の要求ばかり聞き続けて、吾輩、少しやる気が出んのだよ・・・・。」
「あー そりゃぁ、どの階層の連中も、みぃーんな魔王様にここぞとばかりにぃ、遠慮なく要求突きつけてきますものねぇー」
「そうなんだよ・・・・。ふぅ。
ところで、今朝は何の用なんだ?」
先程から、四天王の一人である、バンパイア真祖カーミラが、吾輩の隣でくつろぎながら、ロシアンティーとかいうジャムがたっぷりと入っている紅茶を優雅に飲んでいる。
給仕はすべて、ドワーフ職人謹製のオート・マタ・メイドがしてくれているので、コイツの他に近くには居ない。
コイツってば、バンパイアのくせに、昼日中外へ出ても平気なんだよな。
真祖や高位のバンパイアにしか許されていない特権だとかなんとか言ってるけど、所謂チートってヤツだよな。
バンパイアになったことで、何らかの制約や弱点はあるハズなんだけど、ちっとも弱みを見せようとしない。
それどころか、「真祖だものぉー。」とコロコロと鈴を転がすような声で笑って見せるばかりで、煙に巻かれているような気もする。
そんな感じで、カーミラが居ると、どうにも調子が狂うんだよな。
コイツ絶対に、吾輩が困った顔するのを見たくて来てるんじゃないかと思う。
「そうねぇー、とりあえずぅ、ダークエルフたちの要求を持ってきたのぉー」
そうだった。
先日のゾンビ部隊のストライキを解決するために、ダークエルフの闇神官の部隊を使って、焼き払おうかと思った時には、彼らもストライキ中で使えなかったんだった。
「そーきたか・・・・。」
「なんかぁ、言ったかしらぁ~?」
「い、いや、何でもない。コホン。」
咳払いをして、誤魔化そうとしたけど、カーミラの眼元には、常に怪しいオーラが漂ていて、吾輩の心を見透かそうとしているように思えてならない。
「そ、それで、闇神官であるダークエルフたちの要求とは何だ?」
「もぉー、魔王様ってばぁ、せっかちすぎぃー。
折角私が来たんだからぁ、もぉーっとゆっくりとぉ~
いっそ、これからベッドで二人っきりでお話しするとかぁ~♡」
「・ ・ ・ ・ 。」
「えぇーその反応はぁなぁにぃ~?
こぉーんなにぃ、可愛らしい私からぁ迫ってあげてるのにぃ~
ナニカぁ、不満でもあるのかしらぁー?」
「あ、いや、朝から随分とアダルティなジョークを飛ばしてくれるなと、ちょっぴり、呆れ・・・・ ゲフンゲフン。
何と答えれば良いか、思案・・・・そう! 思案をしていたんだ。」
「ふぅーん?」
そんなに疑いの眼差しで睨まないでくれたまえ。
そうでなくとも、コイツってば、確か吾輩より年上だったはずだぞ。
吾輩が未だ成人する以前から、同じ姿で居たんだから間違いない。
見た目は、美しく純情そうな姿なんだけど、所謂『昼は淑女の様に。夜は娼婦の様に。』とかいう、人間どもの理想を体現したような、そんな妖艶さも醸し出しているから要注意だ。
今も、吾輩に見せつけるように、胸元から零れ落ちそうな胸の谷間と、スリットの入ったスカートから、チラリチラリと太ももを見せつけてくる。
あ、胸元に黒子なんてあるんだぁ・・・・。
あ、イカンイカン。
こうして、獲物認定された人間であれば、その美しさも総動員して魅了され、骨の髄までしゃぶり尽くすのだろう。
まさに、食虫植物が、甘い香りと分泌物で獲物を捕食するように。
否。コイツの場合は、植物みたいに一か所でじっとなんてしていないな。
そうか、雌豹が獲物を狙って舌なめずりでもしているみたいだな。
怖っ!
上司として振舞っているけど、吾輩が魔王でさえなかったら、絶対に関わりたくない存在の一人だ。
先に書いた短編
「エ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮叙事詩第一章第十二節 『投げ込むならドリアンだけは止めよ。』」
の本編になります。
https://ncode.syosetu.com/n5851fq/
少しだけ書き溜めることができたので、公開してみました。
((ノ(_ _ ノ)ドウゾヨロシクオネガイシマス




