第十八話 スライム部隊④衝撃のスライムたち
「魔王様! 魔王様!!」
「・・・・うん?」
「先程から、何度も呼び掛けていたのでございますよ!?」
「・・・・うん。」
「スライム部隊長であるス・ラ・リーンから、事情を聞いて以来、すっかり腑抜けてしまわれて。それ程の衝撃だったのですか?」
「・・・・そう、だな。」
衝撃?
そうだな、衝撃的だった。
まさか、スライムたちがそんなことを悩んでいただなんて。
一度だって疑ったり、考えてみたことすら無かった。
あの時、精神感応によりス・ラ・リーンと会話していた時に、彼から聞かされたのは
(実は・・・・。
人間たちや魔獣たちを体内で溶かす時の悲鳴を聞くのが堪えられなくなってきたんです。)
(・・・・うん?)
あまりにも衝撃的過ぎて、あれからどうやってこの場所まで戻ってきたのかすら覚えていない。
だって、スライムが、だぞ!?
スライムと言えば、単細胞とか、原始的な生物とか、そんな、複雑な感性とか精神を持っているなんて、誰が想像できるというのだろうか。
否、出来るはずがない。
だが、ス・ラ・リーンの説明によると、スライムは確かに最初は何も考えていない。
いや、意識すら持っているか、自分たちでも曖昧なそうだ。
それが、ダンジョン内を彷徨い、時には吾輩や高位の魔物から、服従の呪文などによって操られて、指定された場所へ行き、対戦相手と戦うこともある。
そうやって操作されているうちは、未だ自意識が低く、獣とあまり変わらないらしい。
それが、やがてレベルが上がり、自らも高位の魔物へと変化した時。
彼らには明確な『自我』が芽生える。
そして、様々なことを考えたりもするようになるそうだ。
アレだ。
人間が、家畜や四つん這いで歩き回る動物や家畜は平気で殺したり、食べたりできるけど、自分たちと近い存在だと認識してしまうと、途端に食べられなくなるというヤツに似ているのかもしれない。
上位スライムは、考える生き物となってしまった。
結果、自分たちと同じように自意識を持ち、死に際に悶え苦しみ、時には怨嗟の言葉さえ投げつける人間たちを生きたままで消化することに、疲れてしまったらしい。
「そうか。コレが所謂トラウマとか、PTSDというヤツか・・・・。」
「魔王様。スライムたちも、自意識を持ち、より高位の存在へと近づいている今、人間のような知性のある生き物を殺すことへの躊躇いが芽生えているのかもしれませんね。」
「長く生きるということは、時に難儀なことでもあるのだな・・・・。
『知識と経験は、時に人を困らせる』という諺は、本当なのかもしれんな。」
「そうですわね・・・・。」
スライムたちが言うことも一理あるかもしれない。
だが、ここはダンジョンだ。
非情に思われるかもしれないが、ダンジョンの存在意義とは何か?
おそらく、『人間や亜人などの知的な生命たちが、魔物と戦うための場所』
それが、ダンジョンなのではあるまいか?
目的は、攻略を目指す者それぞれであろう。
金銭・名誉・強さなどの自己顕示・復讐や恨みだってあることだろう。
崇高な義務や正義感・使命や研鑽のため。
多種多様な攻略目的があるのであろう。
そう考えるならば、吾輩が魔王としてこのダンジョンに君臨する以上は、ダンジョン内では死闘が繰り広げられるのが日常であろう。
そんな環境の中で、スライム部隊が戦いを放棄してしまうならば?
いずれは、このダンジョン全体の存在意義が失われてしまうことに繋がるのではないだろうか?
「これは想像以上に深刻だな・・・・困ったぞ。」
先に書いた短編
「エ・イ・ドーリアン地下大墳墓迷宮叙事詩第一章第十二節 『投げ込むならドリアンだけは止めよ。』」
の本編になります。
https://ncode.syosetu.com/n5851fq/
ようやく、少しだけ書き溜めることができたので、公開してみることにしました。
((ノ(_ _ ノ)ドウゾヨロシクオネガイシマス