第十三話 アンデッド軍団解決編①
「魔王様?」
「ン? デリラか、どうしたのだ。」
「なにやら、悩みが深いようですから。」
「うむ。死人に美しさを取り戻させるなど・・・・。
考えたことすらなかったことに、取り組まなければならんのでな。」
「そうでしたか。
恐れながら、魔王様に私から進言してもよろしいでしょうか?」
「ン? 何か策があるのか!?」
今の吾輩には、藁にもすがる思いだ。
背に腹は代えられない。
副官であるデリラが同じ女性として、悩みを解決できるのであれば、是非とも教えてもらいたい。
「ま、魔王様。
お、お顔が近すぎです!!」
「お?
スマンスマン。
つい、な。」
思わず身を乗り出して、デリラの両手を握りしめていた。
デリラめ、余程嫌だったのか、顔を真っ赤に染めていた。
怒り心頭というやつだろうか?
イカンイカン。
セークハランとやらで訴えられては大ごとだ。
ここ数十年で、そういった方面には色々と煩くなってきているらしいからな。
自重しなければ。
「コホン。では、私から策を一つ。
ようは、マリイら不死人らに化粧を施せば良いのです。」
「化粧だとっ!?」
ハテ?
化粧とは、アノ女子が顔に塗り手繰るという、白い粉やら強烈な臭いがすることもある液体やらのことだよな?
だが、それはあくまでも『生きた者』へ施すものではなかっただろうか?
死者に化粧など、役立つのだろうか?
「その、確認のために尋ねるのだが、『コンクリートなどで塗り固めてしまえば良い』などという策ではあるまいな?」
「魔王様っ!!
そこまで死者や女性の尊厳を踏みにじる策を、この私が授けるとでもお思いですかっ!?」
ヤバイ。
地雷を踏み抜いてしまったらしい。
「これだから、魔王様は女心というものがお分かりではないと言われるのです!!
いいですか! 女性というのは、幾つになっても、例え死後の状態であってさえ、少しでも良いから『美しくありたい』と願うものなのです!!
今から私が、魔王様に『女心』というものについて、しっかりとお話しさせて頂きますわ!!」
その後、滅茶苦茶説教されてしまった。
小一時間ほど。
その中では、何やら「世間一般では、女性の幽霊やオバケなどが醜い姿を晒しながら登場するシーンが多いが、アレはどう見ても、男性目線であり、女性目線であれば、『自分が死んだ後とは言え、醜い姿を晒すだなんて、死んでも嫌!!』と言われるハズです!!」などと力説されてしまった。
うん。その理屈はよくは分からん。
よくは分からんが、デリラが懸命に説明してくれるのだ。
一応は聞いておかねばな。
理解は難しいのだがな。
そうやって『女心』について滾々と説教をされてしまったが、吾輩が熱心に耳を傾けていたら、機嫌が直ったらしく、デリラからもう一度核心部分についての説明を受けることが出来た。
「つまり、死化粧という種類の化粧もある、ということなのだな?」
「左様でございますわ。
魔王様。」
デリラの説明によると、死人を黄泉に送る前に施す、死化粧とやらがあるのだそうだ。知らなかった。
「近年では、エンゼルケアやエンディングメイクなどとも呼ばれておりますわ。
他にも、マリイなどが心配している、身体の欠損箇所を補うための技術として、エンバーミングという方法も確立されておりますから、少しくらい近づいて見られたって、縫合部分などをマジマジと見つめられなければ、分かり難いレベルで遺体の修復が可能です!
臭いについては、少々難しさはございますが、やはり、香油や薬草などでの腐敗臭を和らげるなどの技法もあるかと思われますわ。」
恐るべし!
人間社会における、死者の尊厳を守るという根性と努力。
その努力を吾輩たち魔族の根絶へ向けられてしまったならば、近い将来我々魔族は滅ぼされてしまうのではなかろうか?
「分かった!
今すぐにその技術を用いて、アンデッド軍団の要求を飲んでやると吾輩の名で通達しろ!」
「あら、それなら魔王様が直にお伝えになられた方が、より効果的ですわ。」
それもそうか。
再びマリイらアンデッド軍団が待つ第三階層までデリラと共に出向いた吾輩。
魔物日記~其の1~ デリラの日記
本日も、魔王様は『女心』が分かっておられない!
「美しくありたい」という気持ちに、年齢や容姿は無関係!
自らを磨き上げ、同性さえもライバル視し、異性の目は一番重要!
例え、意中の人が気が付かなくとも、見えないところまでしっかりと磨き上げて、いつでも、どこでも、準備万端で居たいのが女心。
まぁ、でも、ぶっちゃけ、そこまで気張ってると、疲れちゃうから、多少は緩めるところは緩めるけどねー。
でも、ゾンビだから醜くて構わない、という考え方なら、私は当然、ゾンビ組に味方するわ。美しくありたいと願う女心に、貴賤は無いもの。