其の五 犯人はこの中にいない(上)
「犯人はこの中にいる!」
と、探偵助手は関係者を集めて言い放った。
考えて欲しい。いや、謎解きでは無いよ。断じて。私は名探偵では無いからね。
例えば君が……一躍話題の人となってしまったとしよう。ただし、それは君が望んだ形では無い。
世間ではわた、君の話題でもちきり。君の元には日夜取材が押しかけて、仕事も私生活もままならないような状態とする。
まあ所詮流行なんて一過性のもの。時が経てば元の生活に戻れるだろう。悪いことをしたわけでもないんだし。ただ、それまでの時間がつらい。
そんな時、君ならどうするか。
というわけで。
「やってきました温泉旅館。いやぁ、楽しみだねぇ」
一週間は我慢して、抱えていた案件をなんとか片付けて。
私達は少し早めの盆休みと洒落込んでいた。どうせ帰る実家も雇用主の都合も無いしね。アンドウ君がどうなのかは知らないけど。
「時期を外れてはいるけど、それもまた良し。風情を感じないかい? アンドウ君」
「はい、感じます。探偵と旅館、今にも事件が起こりそうな香りが……!」
置いてきた方が良かったかなぁ。いや、アンドウ君を一人にするとまた何やらかすか心配でならないし。特にマスコミが騒いでいる今は。
ともあれ、アンドウ君と共に旅館にチェックインするべく入口のドアを開けて……。
「きゃああああ!」
フラグ回収、早いなぁ。まだ怪しい人物や殺されそうな人物、ギスギスした御一行やらと会ってすらいないぞ。
まあ、そのおかげでまだ私は無関係だ。ここは厄介ごとに巻き込まれないように回れ右して……
「どうしたんですか!」
アンドウ君が旅館の中に駆けて行ったのを目にして、再び回れ右。無駄に一回転した形になる。
ああ、くそう。嫌だなぁ面倒だなぁ。事件なら警察に任せてくれよ……私は名探偵じゃなくて探偵なんだってば……。
流石にこの状況を放って帰るわけにもいかず、アンドウ君の後を追って旅館に足を踏み入れた。
事件のあらましは、こうだ。
この旅館の客であるポニーテールさんが温泉から帰ると、鞄が何者かの手によって荒らされており、叫び声を上げた。
彼女の同行者であるツインテールさんとサイドテールさんの鞄も同様に荒らされた形跡があったが、盗まれた被害があったのはポニーテールさんだけ。財布が無くなっていたらしい。
事件当時旅館にいたのは、中居さんが二人と女将さんが一人、ポニーテールさん御一行の三人と、あとは私達が来る前にチェックアウトした客が一人の、計七人。らしい。
なんで伝聞形かって? アンドウ君が事情を聞いてる間、荷物ほっぽり出して走ってったアンドウ君の荷物まで私が運び込んでいたからだよ。むしろこっちが助手の仕事じゃないのか。
ともかく、事情聴取もチェックインも終わって。
私がロビーに戻る頃には、今ここにいる全員が集められていた。
さて。
どうしたものかな。考えるほどの謎も無い。それこそ、警察を呼べば時間もかからずに解決する事件だろう。でも……
「犯人はこの中にいます!」
言い切りやがったぞこいつ。
「そんなわけないじゃない! いなくなってる奴がいるんだから、そいつが犯人に決まってるわ!」
「そうとも限らないですよ。ちょうど都合よく罪を押し付けられる相手が出たから、旅館の人の誰かが犯人かもしれないですし」
「っていうか、タイミングよく現れた探偵さん達も怪しいんじゃないの?」
上から順にポニーテールさん、ツインテールさん、サイドテールさんの発言。友人思いなのはいいけれど、疑心暗鬼が過ぎるぞ君たち。ただまあ、可能性を片っ端から挙げること自体はいいことだ。
さて。僕の専門では無いけれども、アンドウ君がやる気を出してしまっているし。何より、警察を呼んだりしたら多分宿泊どころでは無いだろう。だったら穏便に解決をするのが一番だ。
探偵としての仕事を始めようか。アンドウ君。
あ、チャンネルはそのままで。




